遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?   作:黒月天星

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誰かの要らない物は誰かにとっての良い物

「では早速都市長様の所へ突撃……と言いたいのですが、流石に今はマズいですね」

「そうだな。もう中央会館に着いている頃合いだ。急に押し掛けるのは迷惑だろうしな」

「戻るのは確実に夜でしょうからね。……仕方ありません。それまで待つとしますか」

 

 ようやく落ち着いたジューネだが、そう言ってアシュさんと一緒に悩んでいる。まあ確かにアポも無しにいきなり仕事場に押しかけるというのは乱暴だよな。

 

「そう言えば今日は他の商談とかは無いのか?」

「大きな商談は先日終わらせましたからね。急ぎの商談は無いんですよ。勿論やろうと思えばいくらでもやることは有りますけどね。これまでの貯蓄や財産を確認したりとか」

「数少ない至福の時間だものな。お前ら知ってるか? うちの依頼主様ときたら、部屋で金を数えていると時々にま~って締まりのない顔で笑うんだぜ」

「アシュっ!? 皆さん嘘ですからねっ! 私そんな顔で笑いませんからっ! もっと計算高くニヤリと冷静に笑う感じですからねっ!!」

 

 金を数えていると笑うのは否定しないのか。慌てたように訂正するジューネを、アシュさんはニマニマと笑いながらさらにからかう。……なんというか微笑ましい。良いコンビって奴だ。

 

 しかし二人は半休日みたいなもんか。ヒースの事もあるから一日中って事はないけど時間がある。これはある意味丁度良いか?

 

「じゃあ時間のある二人にこっちを手伝ってもらえると助かるんだけど」

「手伝い? ……もしやまた儲け話的な話ですか?」

「儲け話というほどでもないかな。まあ上手く行けば良しって感じだ」

 

 ジューネがまた目を輝かせてこちらを見てくるが、こっちは正直アルミニウムよりも望み薄だからな。

 

「簡単に言うと()()()さ。勿論町中で持ち主の許可を取って……だけどな」

 

 

 

 

「よう。昨日スリにやられた坊主じゃないか!」

「その言い方はやめてくれって! こんにちはおっちゃん。とりあえず景気づけに串焼き十本ね」

「あいよっ!!」

 

 俺とエプリ、セプトは準備を整え、昨日ぶらり観光していた市場へとやってきた。ジューネとアシュさんは少し別行動だ。

 

 目的の場所に着くなり、昨日ブルーブルの串焼きを買った屋台のおっちゃんに声をかけられる。禿頭のおっちゃんがねじり鉢巻きをして串焼きを作る様子はどことなく日本風だ。……もろに顔は西洋風だが。

 

「ところでおっちゃん。昨日の話は憶えてるかい?」

「俺んとこで串焼き百本買うって話だったか?」

「そんな事言ってないって!? ほらっ! 不用品を買い取りますって話だよ」

「あ~そっちな。一応あるにはあったが……ホントにゴミばっかだぞ?」

 

 昨日市場を巡っている時、買い物がてらあちこちに声をかけておいた。といっても要らない物や価値のよく分からない物が有ったら買い取りたいので持ってきてほしいってだけだが。

 

 要するに資源回収だな。これなら必要なのは査定代だけ。戦いもないし安全だ。あわよくばお宝が出てこないかなぁと思ってはいるが……流石にそこまで上手くはいかないだろうな。

 

「いいのいいの。壊れて使えなくなった道具とか、売れなくて困ってる物もジャンジャン持ってきてよ。上手くすれば金になるかもよ」

 

 買取価格は査定額の半分くらいを考えている。少しぼったくりかもしれないが、こちらも初めてで相場が分からないのだ。売れ行き如何でちょっと修正しよう。

 

「そんなもんかねぇ。ほ~ら串焼き十本お待ちっ! 十本で五十デンだ。それと、こっちが要らない物をまとめた袋。こんなもん金にならんと思うがね」

「この美味さとボリュームで一本五デンって、もっと取れるよおっちゃん。じゃあお代と、袋の中身を確認するからちょっと待っててな」

 

 俺はおっちゃんに串焼きのお代を払ってイートインスペース(椅子だけだが)に移動すると、串焼きをエプリとセプトに渡して貯金箱をこっそり取り出す。

 

 査定の間二人は手持無沙汰になってしまうので、俺とジューネ達の分を残して先に食べてもらう。ここの串焼き昨日も食ったけど美味いんだよな。

 

「……予想通り。というより予想より期待できなさそうね」

「そんなにダメそうかね? 結構色々入っていそうだけど」

 

 袋ごとまとめて査定する方が楽ではあるが、実際に目で見ながらの方が細かく分かる。なので下に布を広げて一つずつ査定していると、エプリが横から覗き込んできた。

 

 時折周囲を警戒しているのは立派なのだが……指に串を二本挟んで持っているのはどこかシュールだ。

 

 セプトはボジョと仲良く一本ずつ頬張っている。この串焼きは気に入ったようで、無表情に目を輝かせるという何とも器用なことをしているな。実に微笑ましい。

 

「え~と。刃こぼれした銅製のナイフに穴の開いた鍋。焦げ付いた金網……俺金物屋じゃないんだけど」

「だからゴミだって言ったろ」

 

 正直碌な物がないが、品物の明細をメモ帳に一つずつ書き込みながらドンドン査定を進める。

 

「結構量があるけど……直すとか売るとか出来ないのおっちゃん?」

「ここまでボロボロだと買い替える方が安く済むんだ。他の店や商人ギルドに持ち込んでも売り物にならないとか労力に見合わないって突っ返されたり、かと言ってそこらに捨ててバレたら罰金を取られかねない。だから家で埃を被ってたんだ」

 

 修理が高くつくのは異世界でも同じらしい。労力云々はよく分からないが買取も拒否。あと不法投棄はこちらも犯罪と。

 

 しかし次々査定しているが、どれも状態粗悪だのマイナス評価のオンパレード。沢山やったからか、

 

 木製の椅子(脚部破損のため状態粗悪) 二十デン(所有者が居るため買取不可)

 

 とやや説明が細かくなった。使い続けたから能力がレベルアップしたとかだと少し嬉しい。

 

「……ふぅ。終わった」

 

 やっと全部の査定が終わり軽く息を吐く。……うんっ!? 目の前に串焼きが突き出された。見るとエプリが何も言わず一本差し出してくれている。俺はありがたく受け取ると肉にかぶりついた。

 

 ありがとうエプリ。礼を言おうとエプリの方を見たら、

 

「追加で串焼き五本お待ちっ!」

「ありがとう。……お代は彼につけておいて」

 

 とっくに自分の分を食い終わり、素早く次を用意させているエプリの姿があった。お代俺持ちかいっ!

 

 しかし給料を待ってもらっている身としては文句も言いづらい。それに……セプトとボジョにも分けているみたいだしな。残りは自分でパクつき始めたけど。

 

「あ~ゴホンゴホン。おっちゃん。査定終わったよ」

「おう坊主。坊主の連れは良い食いっぷりだな。査定は……あまり良い結果じゃなさそうだな」

「ゴメン。実はそうなんだ。やっぱり全体的に状態が悪いからそのままじゃ使えないし、となると素材として使うくらいしかなくて」

「しかし素材に分けるにしても手間がかかる。手間賃を考えると買い取った方が下手すると赤字になるって事だろ? 他の店でも言われた。まあ金にならなくても引き取ってくれるだけで十分だ。部屋も広くなるしな」

 

 笑っているおっちゃんを見るとちょっと言いづらい。しかしこちらも稼がないといけない身。心を鬼にして査定額の半額で買取交渉だ。

 

「それで大体計算した所、このくらいで買い取らせてもらえると嬉しいかなって」

 

 最後にもう一度メモの内容を確認し、そのままおっちゃんに見せる。難しい文字は無理だが、簡単な単語と値段なら何とか練習したからな。値段は間違っていないはずだ。

 

「……坊主。これ本気で言ってんのか?」

「一応本気なんだけど……やっぱり安かったかな」

 

 やはり半額は安すぎたか。おっちゃんが凄い顔してる。仕方ない。どうせ元手はタダみたいなもんだし、どうにか四割は貰えるように交渉を、

 

「いや逆だ逆。引き取ってもらった上にこんなに貰っちゃ悪いって言ってんだ」

「……へ? いやだってこんな諸々あって四百デンしか出せないんだけど」

「店とかじゃ良くて百デンぐらいだしな。場合によっては逆に引き取り料を取られる場合もあるし、それに比べりゃ大金だ」

 

 ……なるほど。逆に場合によっては金を取られるのね。粗大ごみにゴミ券が必要なのと同じか。

 

 こっちは貯金箱が勝手に査定、換金するから素材として分ける手間もなく、その分の金がまるっと浮く訳だ。だけどという事は……。

 

「じゃあこの金額で問題ないって事かい?」

「寧ろ貰いすぎるくらいだ。悪いからさっきの連れの買った分は奢りって事にしておくぜ」

「……そう。では店主。更に十本追加で」

 

 気に入ったのかどさくさで更に追加しようとするエプリ。いやこれからの分は奢りにはなんないからねっ!? セプトとボジョもまた食べられると思ってじ~っと見ないっ! 

 

 仕方ない。儲かった分でちょっと追加するか。俺も食うからなっ!

 

 

 

 

 受け取った荷物をこっそり換金し、諸々のお代を払うとおっちゃんはホクホクした顔で受け取った。

 

 そりゃあ不用品の買取だけでなく、結局合計二十本も串焼きが売れたのならかなりの儲けだろう。……串焼きが美味いのと、エプリが一人で五本も食うのが悪いんだ。おっちゃんは他の客にも話しておいてくれるらしいので、またその内顔を出そう。

 

 さて。こうして一人目を終えて、串焼き代や買取代を抜いた純益はおよそ三百デン。元手無しでいきなりこれなら悪くはない。

 

「トキヒサ。これから、物持ちになるの?」

 

 次に話しておいた人の所へ向かう途中、セプトがふとそう口にした。

 

「物持ちって言うか……俺名義で預かっている物が増えるだけかな。金が無いと引き出せないし」

「でも、お金があれば、引き出せる。すごい」

 

 そりゃあそういう能力だからな。素直に賞賛してくれるセプトにこそばゆいものを感じるが、貰った加護のおかげなので喜びづらい。

 

「……ねぇ。一つ気になったのだけど、金に換えた物は一体どうなっているの?」

「ああ。全部アンリエッタの所に送られるんだ。時間経過なんかで劣化しないよう見てくれているらしい。まあ個人的に欲しい物の品定めも兼ねているようだけどな」

「以前一度見た彼女ね。そう言えば査定額も決められているのだったわね。……つまりあんな物でも何か使い道があるという事か。でも大量に物を送り続けて気分を害するという事は無いかしら?」

 

 そう言えばそうだ。元手無しに金が入ったので浮かれていたが、もしこれからもこういうのを換金し続けたら、アンリエッタが気分を悪くするというのは充分考えられる。

 

「一応事前に説明しておいたから大丈夫だとは思うけど、後で連絡を取る時が少し怖くなってきたな。『よくもこんな物ばかり送り付けてくれたわね』とか怒り出しそうだ」

 

 これは本当に品物の中にアンリエッタの気に入る物がないとマズいかもしれん。どうか掘り出し物の一つでも出てくれよ。

 

 

 

 

『……で? 結局そういった掘り出し物は一切来ていない訳なのだけど……何か申し開きはあるかしら? ワタシの手駒』

「いやあ元から望み薄ではあったけど……やっぱ無理だった」

 

 その夜。やっぱり大量に物を送り付けた事でアンリエッタに怒られた。




 時久の考えた金稼ぎ方その二です。まあこっちは儲かったら良いな程度の期待ですが。

 よくゲームでは道具を何でも半額で買い取ってくれますけど、よく考えるとおかしいんですよね。品物の品質やら在庫の数やら色々と影響するはずなのに全部同じ額って。

 今回はそういう物の売買の疑問をちょっとだけ形にしてみた金稼ぎ回でした。

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