遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?   作:黒月天星

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善意の対価はゴハンの奢りまで

 

「な、なんであのシスター三人組がここに?」

「そりゃあさっきの照明弾で呼んだからっすよ。センパイも知り合いなら話が早いっす! 待ってたっすよ三人とも!」

 

 そう言ってそのまま三人娘の方に走っていく大葉。向こうも笑っているから知り合いというのは間違いなさそうだ。

 

「それにしてもやけに早かったっすね。教会からだとまだ時間がかかると思ったっすけど?」

「丁度近くを巡回中だったんですよ。そろそろ帰ろうかという時に、急に以前渡した照明弾が打ち上がったから何事かと思いました」

「はい。驚き……ました」

「それで急いで来てみたら、何か厄介なことになっているから声をかけたってわけ。まさかトッキー達と一緒とは思ってなかったけどさ。はぁいトッキー! 元気?」

 

 そう言いながら、シーメはこっちに向かって手を振ってきたのでこちらも振り返す。何が何やら良く分からない。

 

「再会を喜ぶのは後にして……何故貴方がここに居るか伺ってもよろしいですか? レイノルズ氏」

「私は商人なのでね。客が居る限りどこにでも行くとも。と言っても、今回はあくまで互いの友好の為に協力を申し出ただけだがね」

「信じられない……です」

「これまでの行動が行動だかんね。私もちょ~っと信じられないかも」

「おお。何とも嘆かわしい。こんな一介のしがない商人を目の敵にするなどとは」

 

 アーメが突如警戒の色を露わにしてレイノルズを見る。レイノルズが何でもないように答えると、シーメとソーメも疑わしそうな顔をした。俺は戻ってきた大葉にちょっと気になったことを訊ねてみる。

 

「え~っと。アーメ達とレイノルズさんってもしかして仲悪いのか?」

「アーメ達はシスターの仕事とは別に、こうして町の見回りや治安維持の手伝いなんかもしてるっす。あの悪徳商人は衛兵の動けないギリギリのラインでアコギな商売をするんすけど、アーメ達は衛兵とは違うから時々ぶつかるんすよ! ちなみにあたしと初めて会ったのもそんな時っす!」

 

 それシスターの領分完全に超えてるよね。自警団みたいな感じか? ……考えてみれば、三人娘の所のエリゼ院長は都市長さんの知人なのだから、下手に手を出すと都市長さんとぶつかることになる。レイノルズからしたらやりにくいだろうな。

 

 その後少し互いに牽制しあい、軽く息を吐いてアーメ達がこちらに近づいてくる。

 

「遅くなりましたがトキヒサさん。エプリさんにセプトちゃん。こんばんは。宜しければこれまでの経緯を説明願えませんか?」

 

 俺達はアーメ達にこれまでのことを大まかに説明した。

 

 人を探しているが探す当てがなく人手も足りない所、大葉が照明弾を使ったこと。そうしたら先にレイノルズが奴隷を引き連れて手を貸すと言ってきたことなどだ。

 

 探す相手が誰かまではまだ言っていない。横でさりげなくレイノルズが聞き耳を立てているしな。

 

 

 

 

「なるほど。そういう事でしたら協力しましょう!」

「私も協力するよ! 他ならぬオオバの頼みだし、トッキー達も居るしね。シーメはどうする?」

「うん。私も……手伝います」

 

 三人は快く手伝ってくれるようだ。それを見てレイノルズは何故か少しだけ苦い顔をしている。これはどうしたことだろうか?

 

「だけどタダでってぇことはないよねトッキー? まあヒト探しなら……私達にゴハン奢ってくれるくらいはしてくれるんじゃないかなぁ?」

「私、お魚の料理が良い……です」

「もう二人共。すみませんトキヒサさん。全然お断りしてもらって構いませんから」

 

 二人がそんなことを言うと、アーメはそれを抑えながら申し訳なさそうにこちらを見る。……なんか期待されてる気がするな。

 

「ああいや。ゴハンくらいなら喜んで。何せこっちには一人でそれより食う人が居るから、もう数人増えたって今更だし」

 

 それを聞いて今度はエプリがプイっと顔を逸らす。最近ますます食べる量に遠慮が無くなり、地味に食費が嵩んできている今日この頃だ。

 

「ありがとうございます。……さて、こうして私達が手伝うと宣言した以上レイノルズ氏。貴方()()()協力するということではなくなりました。それでもなお()()()協力すると?」

「無論だとも。先にもツグミ達に述べたが、友好な関係を築きたい相手が困っている所に手を差し伸べるのは当たり前のことだからな」

「……良いでしょう。そういう事にしておきます」

 

 レイノルズとアーネの視線が一瞬鋭く交差する。だがアーネはすぐに視線を外し、こちらに向かって小さくウインクをしてきた。何だろう今の言い回しは?

 

「……そう。そういう事」

「何か分かったのかエプリ?」

 

 今のやり取りを見て、どこか納得したようにエプリが頷く。

 

「これは単純に貸し借りの分散よ。レイノルズ()()()手伝ったのなら、たとえ善意からであれこちらもそれだけ大きな借りとして扱わざるをえない。……だけどここでアーメ達も協力すると言ってきた。唯一の協力者という立場を失った以上、得られる貸しも少なくなる」

 

 借りが少ないのなら、精々ちょっとした頼みをそれぞれから聞くだけで良い。大きな頼みを一つ聞くよりはこっちの方が大分マシか。

 

 加えてアーメ達は対価に食事を奢ってもらうということを先に提示した。つまり人探しの貸しは精々そのくらいだとレイノルズに釘を刺した形な訳だ。これなら後々予想外の頼みをされることもない。

 

 どうやらアーメ達には腹いっぱい好きな物を奢ることになりそうだ。

 

 

 

 

「そんじゃ細かい交渉はお姉ちゃんに任すとして、私達はこっちでお話しよっか! オオバがトッキー達と知り合いなんて初めて知ったし、シーメはセプトちゃんと話がしたいよね」

「うん! セプトちゃん。私……また色々お話したい」

 

 教会で身体を診察してもらった時から仲良かったもんな。その言葉に、セプトはこちらを一瞬チラリと見る。

 

「こっちにはエプリもいるし、ゆっくり話をしてきな」

「ありがと、トキヒサ。……行ってくるね」

「じゃああたしも近況報告がてら行ってくるっす。話が終わったら呼んでくださいっすセンパイ!」

 

 えっ!? 大葉は両方に面識があるから一緒に話してほしかったんだが……あいつ俺に丸投げかい。

 

 そうしてひとまず大葉達は大葉の家に引っ込み、ここに残ったのは俺とエプリ、アーメ、レイノルズのみとなった。

 

「ふむ。では思わぬ乱入があったが、先ほどの続きといこうか。私も商品を貸し出してヒト探しに協力しよう。この申し入れを受けてくれるかね?」

「はい。よろしくお願いします」

 

 再びレイノルズが手を差し出してきたので、今度こそその手をしっかりと握る。順番的にアーメ達の方が先になってしまったけど、どのみち申し出は受ける気だったしな。

 

 俺も用心だけはしておくつもりだけど、元々こういう裏の裏まで読むってのは“相棒”に任せっきりだったからな。何かミスったら誰でも良いからフォローよろしく。

 

「よろしい。では早速だが、探しているヒトの情報を貰えるかな? なにぶん誰を探せば良いのか分からなくてね」

「そう言えばどなたかはまだ伺ってませんでしたね。余程の人物とお見受けしますが」

「そうですね。実は探しているのは……都市長さんの息子のヒース・ライネルなんです」

 

 その名前を聞いて、二人の顔色が明らかに変わる。やはりこの町ではかなり有名らしい。あいつ今ホントにどこに居るんだ?

 

 

 

 

 俺は二人に事の経緯を説明した。ただ今日何か起こりそうなこと、都市長とアシュさんがおそらくそれに関わっていること等は伏せておいた。アーメはともかくとして、レイノルズに知られるのは何か嫌な予感がしたからだ。

 

 説明を受けた後のレイノルズの行動は迅速だった。

 

「ふむ。早速私の手の者に最後にヒース様が確認された場所を中心に探させよう。トキヒサ君の話だと、既に都市長様の屋敷の者が探しに出ているようだ。その者達に会ったらこちらで話を通しておく。見つかり次第連絡を入れ、屋敷に送り届けよう。では失礼するよ」

 

 レイノルズはそう言って奴隷たちを引き連れて去っていく。だけどどうやって連絡するのだろうか? 何かそういう道具でもあるのかね?

 

「じゃあ私達も……と言いたい所ですが、流石にレイノルズ氏のような人海戦術は厳しいですね」

 

 アーメは難しい顔をして言う。それはそうだ。

 

「一度シーメ達を呼んできましょうか。あの子達ったら放っておくとずっと話し込んでしまいそう」

「そうですねアーメさん。これからどうするか話さないと」

「……なんで急に敬語に?」

「いや……さっきのやりとりを見ていると、こっちも気合入れて話さないといけないかと」

 

 レイノルズとのやりとりは、短いながらも鋭さ溢れるものだった。こっちが素だとしたらタメ口というのはいささかマズいんじゃないだろうか?

 

「別に普通に話してくれて構いませんよ! むしろ普通のままで! トキヒサさんって私達とそんなに歳の差もなさそうじゃないですか。それなのに敬語というのはその……落ち着かなくて」

「そうか? それじゃあいつもの喋り方で行くよ。……それとさっきはありがとうな。多分アーメ達が来なかったら、普通にレイノルズ達に協力を頼んでたっぷり借りを作ることになっていた」

 

 そこで礼と共に頭を下げると、アーメは慌てたように手を広げてぶんぶんと振る。

 

「あ、謝る必要なんてないですって。たまたま呼ばれた所で何やら大変そうだから手を貸しただけですから。……それと奢りのことなんですが、先ほどはレイノルズ氏を牽制するためにああ言いましたけど、ほんとに奢ってくれなんて言いませんから」

「いや、それじゃあこちらの気が済まないし、その分はしっかり奢らせてもらうよ!」

「……ふふっ。ありがとうございます! じゃあその時を楽しみにしていますね」

 

 そう言いながら、アーメはニッコリ笑って大葉の家に皆を呼びに行く。……不覚にも一瞬その笑顔に見とれてしまった。お~い。待ってくれよ! 俺も一緒に行くって!

 




 レイノルズ、およびシスター三人娘に協力を取り付けました。

 なんだかんだ時久自身も人脈が広がりつつあります。
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