遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?   作:黒月天星

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決死の引き付け役

 

「ガアアアアァ」

「うっせぇっ! うらあぁっ!」

 

 咆哮と共に殴り掛かる鬼凶魔。しかしその攻撃を軽いステップで躱しながら、ボンボーンさんがカウンター気味に無事な右腕で脇腹に痛烈なボディブローを叩き込む。

 

「金よ。弾けろっ!」

 

 時折隙を見ては、俺も鬼凶魔の足元を狙って硬貨を投げつけ態勢を崩す。そこをボンボーンさんが殴りつけるという即席のコンビネーションで、どうにか俺達は鬼凶魔を相手取っていた。

 

「そうらもう一丁っ!」

「ウガアアアアァ!?」

 

 ボンボーンさんの鉄拳が鬼凶魔の額から伸びる角の横っ腹を捉え、当然繋がっている頭を揺らされ鬼凶魔も僅かにふらつく。あれは結構効いただろう。……しかし、

 

「なんてタフな野郎だ。もう五、六発は叩き込んだのにまだ動きやがる」

 

 鬼凶魔にダメージが無い訳ではない。だが、まだまだ殺る気十分といった感じで襲ってくる。無力化してあとで魔石を摘出するというやり方がこれじゃあ出来ない。

 

「ガっ!? ガアアっ!」

 

 鬼凶魔は散々横やりを入れ続けた俺にヘイトを溜め込んでいたようで、今度は俺に向かって一直線に突撃してくる。なんのっ!

 

「いくら強くたって、一直線にしか来ないんならやりようはあるってのっ! これでも喰らえっ!」

 

 俺は向かってくる鬼凶魔に対して硬貨をばらまいた。全て銅貨ではあるが、十枚くらいまとめてなので足止めには十分だ。

 

「ウギャアアア」

 

 表面だけではあるが爆炎が全身の皮膚を焼き焦がし、鬼凶魔が動きを止めた瞬間ボンボーンさんが再び殴りつける。こうなったら時間をかけてでも大人しくさせて、

 

「ダメ! トッキーっ! もうすぐ効果が切れるっ!」

「何っ!? ……うっ!?」

 

 突如シーメの声が響き渡るのとほぼ同時に、急に()()()()()()()()動きが鈍くなった。

 

 よく見れば、俺達の身体を覆っていた光幕が随分と薄くなっている。これは、

 

「ぐっ!? またかよっ!」

 

 目が霞むのか軽く顔を押さえるボンボーンさんに向けて、鬼凶魔がこれ幸いと反撃に転じる。鬼凶魔も弱っているみたいだが、ボンボーンさんもふらついている。これはヤバいっ!

 

「トッキーっ! 早くボンボーンさんをこっちにっ! 光幕を掛け直すから」

「分かった! ボンボーンさん。今行きます!」

 

 俺はボンボーンさんの方に向けて駆け出そうとし……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「うわあっ!?」

 

 そのままゴロゴロと地面を転がって止まる俺。……痛ってぇっ!? 貯金箱越しだけど物凄い衝撃が来たぞ。なんだ今のは……げっ!?

 

 激痛を何とかこらえて衝撃の方向を見ると、そこには()()()()()鬼凶魔の姿が。

 

 さっきから見ないと思ったら、今頃になって出てきやがったよっ!

 

 正直言って俺一人だけではキツイ。だが、それでも、

 

「負けるわけにはいかないよな。……行くぞ!」

 

 俺はさらに強く貯金箱を握りしめる。セプトとシーメをさっきから待たせてるんでね。さっさと大人しくしてもらうからな。

 

 

 

 

「がはっ!?」

 

 鬼凶魔の拳を躱しきれずに一撃もらい、またもや吹き飛ばされてゴロゴロと転がる。金魔法の“金こそ我が血肉なり(マネーアブソーバー)”が発動している様子はないが、俺が少しばかり人より頑丈じゃなかったら大怪我してるぞ。

 

 戦いの流れはすこぶる悪い方へと向かっていた。

 

 鬼凶魔が増えたことにより分断され、目の前の奴と一対一を余儀なくされたこの状況。

 

「ぐっ!? うらあっ!」

 

 ボンボーンさんは何とかさっきまでの鬼凶魔と打ち合っているが、やはり毒もあってじりじりと押されつつある。おまけにシーメ達に鬼凶魔が向かわないよう、少しずつ距離を取りながらだ。何とか合流したいがそうもいかない。

 

「グガアアァ」

 

 完全に理性をなくした目の前の鬼凶魔。動きそのものは単調なので読みやすく、俺が何とか生き延びているのはそれが理由だろう。だが、

 

「……はぁ……はぁ。あぁもうっ! どれだけタフなんだよコイツはっ!」

 

 さっきから鬼凶魔を無力化すべく、手足を狙って硬貨を投げつけたり貯金箱で殴ったりしているのだが、それを気にせず突っ込んでくるので始末が悪い。

 

 もちろん金額を上げれば威力を上げることもできるだろう。だが生き物相手、それもついさっきまで人だった相手にそれを投げつけるというのは、どうしても抵抗があった。

 

 ヒースも別の場所で戦っているようで、離れた所から何か壊れたり爆ぜるような音が聞こえてくる。向こうもかなり派手にやっているらしい。

 

 ネーダは凶魔化しても剣を扱える程度には理性を残していたように見えたからな。あっちもこちら側に助けに来れないぐらいに苦戦しているらしい。

 

 セプトは凶魔化寸前で苦しんでいるので戦えず、シーメもそんな調子のセプトの傍を離れるわけにはいかない。それぞれが手一杯の状況にあった。

 

 そんなギリギリの状態で保たれていた均衡が、

 

「グガアアァっ!」

「ぐおっ!?」

 

 ボンボーンさんがガードの上から鬼凶魔の一撃を食らって吹き飛ばされたことで一気に崩れる。幸い何とか受け身は取れているようだけど……あの方向はマズイっ! 

 

「うわマズっ!? ボンボーンさんっ! しっかりしてっ!」

「馬鹿野郎っ! 俺にかまってる場合かっ! シスター。そのガキを連れて早く離れろ!」

 

 よりによって飛ばされたのはシーメ達のど真ん前。これまで注意がそちらに行かないように戦っていたが、霧で視界が歪んだ一瞬の隙を突かれたのだ。

 

 シーメは咄嗟にボンボーンさんを自分の張っている光の幕に引き込み、傷と毒の治療を始める。

 

 しかし鬼凶魔が自分の獲物を見逃すはずもなく、そのままボンボーンさんを追ってシーメ達の方に向かっていく。これはマズいぞ!

 

 いくらシーメと言っても、鬼凶魔の攻撃を防ぎながらセプトの様子を見つつボンボーンさんの治療をするのは無理がある!

 

「このぉっ! 金よ! 弾けろっ!」

 

 目くらまし代わりに目の前の鬼凶魔に硬貨をばら撒き、爆風で一瞬こっちを見失った隙にもう一体の鬼凶魔に向けて銀貨を投げつける。

 

「グオオオっ!?」

 

 これまでの銅貨とは違い、銀貨ともなると多少距離が離れていても威力は十分。

 

 あくまで注意を引き付けるために足元を狙ったので直撃こそしていないが、爆風が鬼凶魔の皮膚を軽く焦がす。

 

 この一撃から俺の方に狙いを変えたらしく、最初の鬼凶魔は俺の方へ歩みを変える。……そうだ。それで良い。

 

「ちょっとトッキーっ!? 何やってんのっ!?」

「シーメはセプトとボンボーンさんを頼むっ! こいつらはこっちで引き付けるからっ!」

「それは無茶だってっ! トッキー一人じゃ無理だよっ!?」

 

 確かに、今この瞬間戦っている奴に加えて、さらにもう一体相手しろと言われても勝ち目はない。だけどこのままでは、鬼凶魔がシーメとセプトの所にまで行ってしまう。

 

「グルアアアっ!」

「うぐぅっ!?」

 

 さっきまで戦っていた奴が、目くらましのお返しとばかりその剛腕を振るってくるので何とか貯金箱を盾代わりに受け止める。きっつ~っ! 腕が痺れる。

 

「勝つのは無理だけど時間稼ぎくらいはできる。今の内に早くボンボーンさんを治してくれっ! それっ! これでも喰らえっての!」

 

 俺は距離を取りながら硬貨を投げまくり、何とか鬼凶魔達の注意を引く。あいつら完全に俺に対して頭にきているみたいだな。それは好都合だ。

 

「トキヒサっ! ……私も、そっちに……うぅっ!?」

「ガキはそこでじっとしてろっ! ……シスター。こうなったら急いで俺の治療を頼む! すぐにそっちに行くから死ぬんじゃねえぞっ!」

 

 ボンボーンさんはセプトを制止しつつ、俺に一声かけてから幕の中でどっかりと座り込んだ。正直俺一人じゃ長くは保たないので、早いとこ援護に来てくれると助かります!

 

「ほらほらっ! こっちだこっち!」

「「ウガアアアっ!」」

 

 俺は怒り狂う鬼凶魔達を引き連れてその場を離れた。引き連れたくはないけどな。

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ」

「ウガアアアっ!」

「うおっ!? あぶなっ!?」

 

 月明かりに照らされながら、鬼凶魔の一体が振り下ろす腕を俺はすれすれで回避する。格好いい躱し方なんてもんじゃなく、勘で横っ飛びしたのが上手くハマっただけだ。

 

 俺はシーメ達から少し離れた場所で鬼凶魔達を相手取っていた。離れないとシーメ達が狙われかねないが、かと言って離れすぎるとボンボーンさんが復活した時に合流が難しい。

 

 俺一人で全部何とかできるなんて一切思ってないからな。助けてもらえるなら助けてほしいし、ボンボーンさんが治ったらすぐに抑え役を交代するとも。……でも今は俺しかできないから仕方がない。

 

「グルアアアっ!」

「ウガアだのなんだのうるさいってのっ!」

 

 今度はもう一体が横薙ぎに腕を振るってきたので、また大量の硬貨をばら撒いて少し軌道を逸らす。

 

 もうこうなったら大盤振る舞いだ! 貯金箱から硬貨を大量に取り出して適当に掴み取る。

 

 幸いこいつらは本能のままに攻撃してくることしかしない。ネーダのように武器を使うようなこともなく、殴り掛かってくるだけであればまだもうしばらくは耐えられる。

 

「グオオオっ!」

「足元がお留守だぜっ! 食らえっ!」

 

 また一体が襲い掛かってくるのを、先ほどばら撒いて()()()()()()()()()()()()を起爆させて足止めする。

 

 もうここら辺一帯はばら撒いた俺の硬貨だらけ。時間経過で威力は落ちるものの、投げてしばらくは俺の意思一つで起爆できる。足止めだけならこれで十分だ。

 

 そうやって何とか隙をついてまた金をばら撒き、距離を取って足止めに徹する。

 

 そして、ついにその瞬間が訪れた。

 

「……はぁ。いい加減倒れてくれよ。……うぐっ!?」

 

 急に眩暈がして一瞬バランスを崩す。この感覚は以前クラウンに毒を食らった時に似ているが、あの時よりはまだ少しはマシだ。

 

「くっ!? これがこの霧の効果か」

 

 シーメのかけてくれた魔法で抑えていた分も、ボンボーンさんがさっき身をもって限界を知らせてくれたわけだしな。個人差があるにしてもそのうち症状が出るとは思っていたがついに来たか。

 

 そして鬼凶魔達には全然効かないんだから始末が悪い。こっちだけ一方的に状態異常かよっ!

 

「ウガアアアっ!」

「しまっ……うっ!?」

 

 少しとはいえふらつきはふらつき。鬼凶魔達は足止めが無くなった数秒の内に一気に俺との距離を詰め、そのまま俺に掴みかかった。

 

 マズイっ! 殴られるとかならまだ俺も耐えられるかもしれない。だけど掴まれるとなると、そのまま動きを封じられてもう一体にボコボコにされるっ!

 

 足元にある分を起爆させて迎撃しようとするが、視界が歪むせいで見当違いの所で起爆してしまう。

 

 そうして鬼凶魔の腕が俺の目前まで迫り、

 

 

「“影造形(シャドウメイク)”っ!」

 

 

 その声と同時に俺の影が槍のような形をとり、向かってきた鬼凶魔の腕を貫いて受け止めていた。この声は……。

 

「……うぅ。大……丈夫? トキヒサ」

「セプトっ!? なんでこんな所にっ!?」

 

 その方向には、息を荒げて胸を押さえながらも、俺から地面に伸びていた影に手を当てて操るセプトの姿があった。

 

 俺は足止めのためにコントロールなどお構いなしに硬貨を鬼凶魔に投げつけ、少しふらつきながらも慌てて駆け寄る。

 

「トキヒサを……はぁ……追ってきたの。あとは、私が……頑張るから」

 

 そう青白い顔をして今にも倒れそうなセプトが口にし、

 

 ピシッ!

 

 その胸元の器具からは、何かにヒビが入るような音が聞こえていた。




 ちなみに時久が霧の効果が遅かったのは、霧に含まれる毒性が前に時久が食らったものと一部同じで耐性がついていたからです。……まあそれでも一部だし、大量に吸い込めば耐性に関係なく毒を受けますが。
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