遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?   作:黒月天星

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ハッピーエンドに向かって走れ

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 何だアレっ!? 俺は一瞬空を見て唖然とした。

 

 俺達に落ちてこようとする巨大な影の刃に、更に高い所から落ちてきた青白い流星が直撃した。影の刃はひび割れ、刃同士がぶつかって隙間が出来る。

 

 偶然? いや、そんなことは無い。これこそ多分シーメの言っていた奴だ! つまり、

 

「エプリっ! お願いっ!」

竜巻(トルネード)っ!」

 

 空に手を翳して何故か汗を流しているシーメの合図と共に、エプリが今まで溜め込んでいた魔力を解放。目に見えるほどの密度の風が吹き上がり、さっき出来た隙間を更に押し広げた。

 

 今だっ!

 

「セプトっ! 俺に掴まれっ!」

「全員あの隙間の辺りに走ってっ!」

 

 弱々しくもしっかり掴まってきたセプトを、思いっきり力を込めて影凶魔から引っ張り出す。

 

 その瞬間制御を完全に失った影の刃が落下を始めるが、もう道筋は出来てんだよ! セプトを背負い、エプリの指定した先目掛けて全速力で走りだす。

 

 ボロボロと空から降ってくる刃の破片。完全に消えるまで当たり判定のあるそれを、ボジョの触手と貯金箱で振り払いながら突き進み、どうにか影の当たらなさそうなポイントに走り込む。

 

 すぐ後にエプリとシーメ、そしてさっきまで影と格闘していたボンボーンさんも走り込んできた。よし。これで……いや待て。ヒースはどこ行った?

 

『ギャアアアアッ!?』

「……っ!? あそこを見ろっ!」

 

 絶叫が響き渡り、そちらの方に目を向ける。そこには音を立てて倒れ伏すネーダと、侵食していた双剣の魔石部分を砕いたヒースの姿があった。

 

 見れば服はあちこち焼け焦げ、盾を着けた手の指も凍傷になりかけているのか腫れてしまっている。相当の激戦だったらしい。

 

「ヒース様っ! 早くこっちへっ!」

 

 その場所もまた落ちてくる影の刃の範囲内。シーメの呼びかけにヒースも駆け寄ろうとして……そのまま自分もがくりと膝を突いた。

 

「マズいっ!? このままじゃヒースが!?」

「エプリっ! お願いっ! 私さっきの調整で魔力を使っちゃって光壁を出せないっ!」

「……強風っ!」

 

 シーメは魔力切れ。ならばとエプリが風でヒースを飛ばそうとするが、

 

「……くっ!? 何をっ!?」

「こいつを置いていけない! ……もう、あの男に利用されて死ぬ奴を出してたまるかっ!」

 

 何とヒースは、人の姿に戻りつつあるネーダを引っ張っていこうとする。流石のエプリも二人を飛ばすのは大変なのか顔をしかめた。

 

「危ないっ!?」

「ぐっ! 障壁展開っ!」

 

 その時、大きめの影が降り注ぎ、ヒースは魔力盾で障壁を作る。だがこれではその場から動けない。

 

 そうこうしている内に、最後に特大の奴が落ちてくるのが見えてきた。くそっ! こうなったら、

 

「……ああもうっ! ボンボーンさんっ! 皆をお願いしますっ!」

「お、おいボウズっ!?」

「今度は流石に行かせないよトッキーっ!」

 

 セプトを下ろして走り出そうとした所をガシッとシーメに掴まれた。見るとシーメも魔力切れのためかふらついている。

 

「離してくれっ! こうなりゃ俺が向こうまで行ってとっておきの銭投げ(金貨)で影を吹き飛ばす」

()()()()()()()()()()()()()?」

 

 シーメの真剣なその言葉と、そして今もまだ俺に弱々しい手で掴まっているセプトの手を見て俺はハッと動きを止める。……そうだった。また俺は全部自分だけでやろうとしていた。

 

 でも、そうじゃないんだ。何故なら、

 

「……ふっ! 舐められたものね。私が雇い主の意向をこなせないとでも?」

「エプリ」

 

 エプリが両手をヒース達の方に翳し、いつものように不敵な笑みを浮かべてみせる。

 

「アナタはそこで黙って飛んでくる分を防いでおきなさい。こっちは……私が何とかする!」

 

 

 

 

「……“二重強風(ダブルハイウィンド)”」

「うおっ!?」

 

 二つ重ねて力を増した強風が吹き荒れ、倒れて動かないネーダとふらついているヒースが宙に浮く。

 

「……よし。来なさいっ!」

 

 エプリが少しずつ翳した手を内側に引くような仕草をすると、ヒースとネーダは浮いたままかなりのスピードでこちらに向かってきた。

 

 小さな破片はそのまま風で押しやられ、大きめの破片は、

 

「金よ! 弾けろっ!」

 

 こっちで硬貨を投げつけて逸らしていく。銅貨程度なら爆風も風で届かないからな。

 

「良いぞ! その調子だボウズ!」

 

 ボンボーンさんもこちらに飛んでくる小さな破片を打ち払っていく。降ってくる特大の破片も近くまで迫っていたが、今の調子ならギリギリ間に合う。あとは直撃さえ避けれれば、

 

「あっ!?」

「……ちっ!?」

 

 誰かの叫びとエプリの舌打ちが聞こえる。それは意識のないネーダが姿勢を崩し、エプリの風から外れかけたからだった。

 

 そして地面に投げ出されそうになったその時、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのまま風の流れに引き戻した。

 

 

 二人はそのままの勢いで影の安地に引き込まれ、その数瞬遅れで巨大な影の刃が俺達の周囲に落ちて轟音を響かせる。

 

 巻き起こる粉塵。そして飛んでくる破片が大方収まった時、振り返って俺が見たのは、

 

「……はぁ。トキヒサ……言った。必ず皆で……帰るって。だから……死なせないっ!」

 

 そう言って俺に掴まりながら、もう片方の手で地面から影を伸ばすセプトの姿だった。

 

 

 

 

 周りをざっと見渡すと、倉庫街だった場所は戦いの余波で見る影もなく荒れ果てていた。一部にはネーダの放った火がまだチロチロと燃えている。

 

 そしてその張本人である影凶魔は、今の衝撃で完全に消滅していた。最後にまとめて道連れにしてやろうという執念。自身よりも相手の破滅を望むこの精神性は、牢獄の鼠凶魔の時から感じていたけどなんだかなあ。

 

 だがまず何よりも、

 

「皆……生きてるよな?」

「……何とかね」

「うん。私も」

「私死にそう……って冗談冗談っ! まだ元気だよトッキー」

 

 俺がポツリと呟いた言葉に、エプリを始めセプトやシーメが口々に返す。ヒースは何も言わずに軽く腕を上げ、ボンボーンさんもおうよと返してくれる。

 

 倒れてはいるもののネーダも呼吸はちゃんとしている。つまりこれは、

 

「良かった……良かったよ。誰も死なずに済んで……本当に良かった」

 

 もうダメかと思った。

 

 今日一日で何度酷い目に遭ったことか。毒を吸わされ、鬼凶魔に殴りつけられ、胸に土属性の槍を受けたかと思ったら今度は影属性の刃で斬られ、

 

 本当に何度自分が、或いは他の誰かが死んでしまうんじゃないかと思ったか分からない。だが、これでやっとハッピーエンドだ。あとは皆で屋敷に戻るだけ。

 

「……あっ!? そういえばあの鬼凶魔達は?」

「それなら心配すんな。そこの嬢ちゃんに無理やり魔石を引っこ抜かれたあとみるみる元に戻っていったんで、邪魔にならねえよう近くの倉庫に放り込んである。……おっと。嬢ちゃん達は見ねぇ方が良いな。服がアレだからよ」

 

 ナイスボンボーンさん! 服がアレというのは……まあ以前ダンジョンでバルガスがなった時と同じだろう。破れて全裸にでもなったか。

 

「それにしては……ネーダは何で服が破れてないんだ?」

「ネーダの場合はあくまで持っていた武器が基点となって凶魔化したようだからな。内側からでなく外側からなったから服ごと吞み込まれる形だった。だからそれなりに無事だったんだ」

 

 流石に裸だったら見捨ててたというヒースだが、そこは嫌々ながらも多分助けていたと思う。

 

「見つけたぞっ! ヒース様ご無事ですかっ!」

「先ほどの凄まじい爆発を見て急いで駆け付けたのですが……って!? なんですかこれは!?」

「シーメ姉! やっと、追いついた!」

「遅いよソーメ! こっちはあらかた終わったよ!」

 

 そこに続々と駆け付けてきたのは、前に少し見かけた衛兵隊の面々とソーメ。どうやらヒースの迎えらしいけど、なんか迎えだけにしてはやたら多いし武装もしてるな。

 

「本来は別件で近くに来ていたんだけど、さっき少し話をしてね。ついでに引っ張ってきたわ。……私だけ先行してきたけど」

 

 ついでって……俺と手分けしている間に何があったのエプリっ!? まあ迎えが多いのは別に良いか。

 

「ヒース……さん。色々あったけど、迎えも来たことだし早い所帰ろう。もう今日は疲れたよ。……なあセプ」

「……うぐっ!? ……あぁっ!?」

「セプトっ!?」

 

 そこにセプトの苦しそうな呻き声が響く。そうだ。こんな風に落ち着いている場合じゃなかった。

 

 セプトは見るからに酷い有り様だった。身体に直接見える怪我は少ないが、顔色は青白く鼻や目から血を流している。影凶魔になっていた以上身体への負担も計り知れない。そして一番マズいことに。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そう。今回の騒動の一因となった胸の魔石。それはまだセプトの身体に埋め込まれたままだった。一回凶魔化したっていうのに何でまだくっついたままなんだよっ!?

 

「やばっ!? ちょっとどいてトッキー! ……セプトちゃん。少しそのままじっとしていてね」

 

 シーメが自分も疲労困憊だろうにセプトに近づいて確認する。そのままじっと様子を調べ、立ち上がると顔を横に振って険しい顔をする。

 

「ダメ。めちゃくちゃ悪化してる。力づくで摘出したら本当にセプトちゃんが危ないかも。抑える器具も壊れちゃったし、一刻も早く院長先生に診てもらわないと」

「そんなっ!? ……よし。急いで連れて行かないと。エプリっ! ここに来るのに使った雲羊は?」

「離れた場所に待たせているわ。私が先導するからついてきて」

「私も行くよ!」

 

 エプリが先頭に立って走り出すのを、セプトを背負った俺とシーメで後に続く。

 

「済まないが、何人かは残って消火活動と後片付けを頼みたい。そこに倒れている者は一連の騒動の犯人の一人だ。治療の上厳重に移送してくれ。……ボンボーンはここに残ってくれ」

「はあっ!? なんで俺が?」

「説明に必要なんだ。これからのことも話す必要がある。補償金の事とか」

「……手早く終わらせろよ」

 

 ヒースは衛兵隊の人達に後を頼んで後から追ってきて、ボンボーンさんは残って話をすることに。

 

 ああもぅっ! 最後の最後の最後までドタバタだよ!

 

「……トキヒサ」

「んっ!? 大丈夫だぞセプト。すぐに連れて行って診てもらうからな。だから安心して休んでろよ」

「……うん。ありがとう」

 

 今にも消え入りそうなか細い声でそう言うセプトを背に俺は力の限りエプリを追って走っていった。必ず助けるからなセプト。

 

 長い夜は、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 

 ……あれ? 何か忘れているような……気のせいか?




 この話までで面白いとか良かったとか思ってくれる読者様。完結していないからと評価を保留されている読者様。

 お気に入り、評価、感想は作家のエネルギー源です。ここぞとばかりに投入していただけるともうやる気がモリモリ湧いてきますので何卒、何卒よろしく!
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