遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?   作:黒月天星

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箱の中身は幸運と呪い

「やはりいくら探しても開ける場所は無いか」

 

 まず査定する前にもう一度箱を自分で調べてみたが、どこにも出っ張りや引っ掛ける所は見当たらない。そりゃジューネが見つけられなかったぐらいだから簡単には見つからないか。

 

「よし。今こそ出番だ貯金箱! 『査定開始』」

 

 俺は箱を地面に置くと、早速貯金箱から出る光を浴びせる。これで何か分かれば良いのだけど。

 

 

 多重属性の仕掛箱(内容物有り)

 査定額 一万デン+???

 内訳

 多重属性の仕掛箱 一万デン

 ??? ???

 

 

 ……何だ? 箱の値段も驚きだけど中身が???って? 初めての表記とか色々ツッコミ所の多い査定結果だ。それにしても多重属性の仕掛箱か。

 

「……うんっ!?」

 

 ふとそれぞれの面の模様が異なっているのに気が付いた。分かりにくいが何か彫り込んであるようだ。何だろう? 少しでも明るい所で見ようと箱を焚き火に近づける。

 

「動物? いやモンスターか? 何かを吐いているような図だけど……ってアチッ!?」

 

 うっかり火の粉が手に当たり、慌てて立ち上がった拍子に箱を焚き火に落っことしてしまう。

 

「ゲッ!? 早く取らないと。……アチチッ」

 

 困った事に中心辺りに入り込んでしまい、悪戦苦闘しながらなんとか取り出したのだが、

 

「すっかり焼けちゃ……ってもないな」

 

 箱はまるで焦げていなかった。まあ一万デンもする特別な箱なのだから只の箱じゃないか。つまりこれで破壊するという最終手段はとれなくなった訳だ。

 

「しかしどうしたもの……って、なんか形が変わってる」

 

 よく見れば一面だけ出っ張りが出来ている。だが別にそこを押したり引っ張ったりしても箱に変化はなない。そしてそうこうしている内にいつの間にか出っ張りが引っ込む。……焚き火にまた放り込んだら形が変わったりしないかな? 

 

 試しにやってみるとまた出っ張りが出現した。しかし毎回焚き火に放り込むというのも……待てよ!? たしか()()()()の仕掛箱って名前だったな。ということは。

 

「水よここに集え。“水球(ウォーターボール)”」

 

 以前イザスタさんがやったように水属性の水球を作り出して箱にぶつける。俺の予想が正しければ……ビンゴ! 箱の別の面にまた出っ張りが出来る。成程。これは()()()()()()()するんだ。

 

 この焚き火の種火は俺が火属性で作ったものだ。そして多重属性の仕掛箱という名称に今の事から考えるとまず間違いない。ならばと他の属性の初歩の魔法を打ち込む。その結果、

 

「……開いた」

 

 一つ打ち込む度にそれぞれの面から出っ張りが増えていき、五つ目を打ち込むと同時に最後まで何もなかった面が僅かにスライドする。そこに指をかけると簡単にその面が外れた。ここが蓋だったらしい。

 

「……うおおおっ!!」

 

 俺は周りの人を起こさぬよう静かにガッツポーズを決める。やはりこういうパズルや謎は解けた時すごくスッキリする。……まあ名前のヒントが有ったから解けたんだけどな。

 

 俺はこの快挙をたっぷり数分余韻に浸り……中身を確かめるのを忘れていたことに気が付いた。

 

 

 

 

「さて、中身は何かなっと!」

 

 俺は期待と共に箱の中を覗き込む。そこには、

 

「何だこりゃ? 指輪と……羽?」

 

 紫色の宝石が嵌った綺麗な指輪と真っ青な鳥の羽が入っていた。二つを取り出してじっくり眺める。

 

 指輪はリングにも凝った装飾が施されていて、指輪に詳しくない俺でも一目で良い品だと分かる。しかし気のせいか宝石の輝きが濁っているような。

 

 羽はずっと箱の中に入っていたのにふさふさとした心地よい手触りだ。大きさは五、六センチ。鳥の羽だとするならあまり大きな鳥ではなさそうだ。

 

「よく分からない物が出てきたけど、これだけ大事にされていたのなら良い物なのかね?」

 

 あの箱を開けるのは意外に難しいと思う。開け方を知らないとどうにもならないし、無理やり壊せば中身も無事では済まない。

 

 更に厄介なのは、()()()()()()()()()()()()()()点だ。

 

 この箱を開けるには五属性の魔法を打ち込む必要がある。俺は“適性昇華”の加護があったから一人で出来たが、普通使える属性は一つか二つ。誰か仲間が居ないと手が足りない。

 

「一応これも査定して見るか。『査定開始』」

 

 ?の部分が気になったので直接査定する。もう少しはっきり分かれば良いんだが。

 

 

 闇夜の指輪(破滅の呪い特大) 二十万デン

 幸運を呼ぶ(フォーチュン)青い鳥(ブルーバード)の羽 三万デン

 

 

 ……なんじゃこりゃあぁっ!? 俺は目をよ~くこすってもう一度見る。……もう一度言おう。なんじゃこりゃあぁっ!? 

 

 幸運を呼ぶ青い鳥の羽。まだこれは分かる。羽一枚で三万デン!? って気持ちもあるけど、それより問題なのは指輪の方だ。俺はそっと指輪を直接触らないように布で包み、そのまま残像が見える程の速さ(体感)で箱に戻した。

 

 ……見なかったことにしたい。だってお宝かなと開けてみれば出てきたのはこれだよっ! 呪われてんじゃん!?

 

 しかし問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事だ。二十万デン。日本円に直せば二百万円である。

 

 呪いが無ければもっと高値がついてもおかしくないお宝だ。個人的にはこんなもの捨てたいけど、値段を考えると捨てるに捨てられない。

 

「……しょうがない。朝になったら皆に相談するか」

 

 ひとまず青い鳥の羽と共に箱に納める。箱は外れていた面をはめ直すと、再び出っ張りが引っ込んで元に戻った。こういうギミックも箱がそれなりの値段する理由かもしれない。

 

 本当ならまとめて換金してしまった方が良いかもしれないが、下手に呪い付きの物を換金したらアンリエッタブチギレ案件だ。なので一応手元に持っていないといけないが……持っていたくないなぁ。

 

 そうして俺は、物騒な物の入った箱をチラチラ見ながら焚き火の番と見張りを続けるのだった。

 

 

 

 

異世界生活九日目。

 

「あの箱が開いたんですか!?」

 

 朝食時、皆の前でジューネに昨日の事を話す。目の前で蓋を開けた箱を出してみせると、驚きながらもジューネはそのまま中を覗き込む。

 

「中身を取り出しても構いませんか?」

 

 了承すると、ジューネはハンカチを取り出して敷きそこに箱を置く。中身を汚さない為だろう。手袋をして慎重に中身を取り出していく。

 

「……これは!? まさか幸運を呼ぶ(フォーチュン)青い鳥(ブルーバード)の羽!?」

「何なの? その羽」

 

 ジューネが信じられないって顔をする中エプリが話に割り込んでくる。見張りはまたアシュさんに任せたらしい。すみませんアシュさん。

 

「幸運を呼ぶ青い鳥。滅多に人前に姿を現さない伝説とされているモンスターで、名前の通り幸運を呼ぶ力があるとされています。羽一枚だけでも効力があるとされ、極稀に市場に出回ると好事家の間で数万デンで取引されることもあります」

 

 商人モードの口調になったジューネが説明する。数万デンか。査定でも三万デンって出ていたから嘘ではなさそうだ。

 

「…………数万デンねぇ」

 

 エプリがそうポツリと呟く。そう言えば契約内容に、ダンジョンで手に入れた金目の物を売った分の二割を渡すということがあったな。これも売らなきゃダメかね? こういうのはお守りとして持っていたいけど。

 

「トキヒサさん。一つ商談があるのですが、これを譲っていただけませんか? 無論お代はお支払いします。……五万デンで如何です?」

「五万デン!?」

 

 いきなりの提示額に俺も心臓バクバクだ。貯金箱の査定額はアンリエッタが決めているから、違う値段になることは十分ある。しかし羽一枚で五十万円とは。

 

「足りませんか? なら……六万デンでは如何でしょうか?」

「い、いや。まだ他にも箱に入っているから、話はそれからの方が良いんじゃないか?」

 

 値段が足りないと思ったのかジューネは即座に値上げしてきた。ここで流されるままに話を進めるのはマズイ! 一度落ち着く為に交渉を後回しにする。

 

 ジューネもここで事を急く必要はないと思ったのか、素直にまた箱の中身の検分に戻った。と言ってもあと残っているのはとびきり厄介な一つだけなのだが。

 

「もう一つは指輪ですか? かなり古い品のようですが」

「気を付けてな。何か破滅の呪いってのが掛かっているみたいだから」

 

 ジューネに念の為事前に呪いの事を説明しておくと、それを聞くや否やジューネは顔色を変えて丁寧かつ迅速に指輪を箱の中に戻す。

 

「……ちなみにランクの方は? 小ですか? 中ですか? ……まさか大なんてことは」

「特大ってあったな」

「特大っ!?」

 

 それを聞くとジューネは脱兎の如く距離をとった。相当ヤバいものだとは思っていたけど、どうやら的中していたらしい。

 

「と、特大って、持ち主だけではなく周囲にまで被害が出るランクじゃないですかぁ!? なんでそんな物が箱の中にっ?」

「知らないよっ!」

 

 えっ!? そこまで物騒だったの? 焦りまくって口調も素に戻るジューネだが、こっちだって知らなかったんだ。聞いた後ではこの指輪が不発弾か何かのように思えてくる。

 

「これは幸運を呼ぶ青い鳥の羽と一緒に入っていたんですよね? そうなると下手に二つを引き離したら危険かもしれません」

「どういう事だ?」

 

 一度深呼吸をして真剣な表情で考え込むジューネに、俺はたまらず聞き返す。

 

「破滅の呪いはランクが上がる度に不運に見舞われ、特大ともなれば持ち主とその周囲の人物を最終的に破滅させると言われています。ただそれならその指輪、正確には指輪が入っていた箱を持っていた私やアシュはとっくに不運に見舞われるはずなのにそうはなっていません。貴方が嘘を吐いているという考えも出来ますが……違うみたいですね」

 

 ジューネはアシュの方を一瞬チラリと見ると、そのままかぶりをふって自分の考えを否定する。信じてくれたのは嬉しいけど何でだ?

 

「そうなると一緒に有った青い鳥の羽か、納められていた箱のどちらかが呪いを抑えていたという考えも出来ます。ほらっ! 幸運を呼ぶ青い鳥の羽なんて如何にもじゃないですか?」

「一緒に入れて幸運と不運の相殺を狙った訳か! つまりこれまで通り箱に納めておいた方が良いと?」

「おそらく。……しかしもったいない。折角青い鳥の羽が目の前にあるのに手に入らないなんて」

 

 ジューネは心底悔しそうに言う。商人としては喉から手が出るほどに欲しいに違いない。

 

 しかしどうするか? いっそのことアンリエッタに押し付けるか? いや、全部で二十四万デンは魅力だが、その後の怒りを考えるとはした金にも思える。では何か他に方法は……。

 

「なぁ。呪いを解くことって出来ないのか?」

「ランク特大ともなると解呪できるヒトは国中探して片手の指で数えられるくらいでしょうね。そしてそういう方は国に厳重に管理されています。国にとっての財産ですからね。それに解呪代だけでも場合によっては数万から数十万デンかかります。流石にそこまでの手間はかけられません」

「……私も簡単な解呪なら伝手があるけど、特大となると難しいわね。それに高ランクの呪いはかけた本人も解けない場合もあるの」

 

 エプリも補足説明をしてくれる。しかし悪い知らせばっかりだな。

 

「残念ですがこれは何処かに処分した方が良さそうですね。指輪だけ捨てる事も出来ますが、下手に放っておいたら呪いでどれだけ被害が出るか分かりません。破壊しても呪いが周りにはじけ飛ぶ可能性もありますし誰も来なさそうな場所に箱ごと封印しないと」

 

 ジューネは商人としての利益よりも、周囲への影響を考えたのかそう宣言する。それは商人としてはともかく人間としては良い選択だと俺は思うぞ。しかし封印と言ってもな。火山の噴火口にでも投げ込むのだろうか? そこへ、

 

「……そこの少年少女達よ。一人ぼっちの俺にも話を聞かせてくれて良いんでないかい?」

 

 そう言えばずっとアシュさんに見張りを任せっぱなしだった。あちらからすれば一人だけのけ者だものな。すみません。今話しますから!!

 

 俺達が話し合った内容を伝えると、アシュさんは軽く腕を組んでしばらく黙考する。

 

「アシュ。どこか封印するのに都合の良い場所に心当たりはありますか?」

「……スマンがそういう場所にはさっぱりだな」

 

 ジューネが沈黙にたまりかねたのかそう訊ねると、アシュさんは首を横に振る。アシュさんでもダメだったか。場の雰囲気が一気に重くなる。だが、

 

「だけどな。不思議なんだが……なんでそうじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()って聞かないんだ? ()()()()()()()()()()()

 

 アシュさんはニヤリといたずらっ子のような笑みを浮かべた。こんな所までどこかイザスタさんに似ているのは、やはり身内だからということなのかもしれない。

 




 お宝(呪い付き)を手に入れた! ちなみにアシュがいなかったら、某指輪を捨てに行く物語みたいな展開になってました。

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