遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?   作:黒月天星

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 お待たせしました。新章開幕です。


第四章 町に着いても金は無く
そうだ。町へ行こう


 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 ガタゴト。ガタゴト。

 

 青空の下、馬車が振動による一定のリズムを刻みながら道なりに進んでいた。

 

 周囲は草原地帯で近くに危険なモンスターもいない。気持ちの良い風が吹き抜け、時折差し込む日差しもまた暖かい。ここだけ見るとピクニックか何かのようだ。

 

「平和だねぇ」

「……護衛としては楽でもあり、物足りなくもあると言ったところね」

 

 馬車で横になっている俺の言葉に、風を荷台から伸ばした手で感じながらエプリが答える。それだけで周囲の探査が出来るらしいから実に便利だ。屋外でエプリに奇襲をかけるのはほぼ無理じゃないか?

 

「まず子爵の所にご挨拶に伺います。次にキリと接触して情報確認。それから組合で商品の補充。忙しくなりますよ。アシュは私から離れないように」

「はいはい。用心棒使いの荒い雇い主だよまったく」

 

 ジューネとアシュさんはこれからの予定を話し込んでいる。何やら袖の下だとか贈り物だとか言葉の端々から聞こえてくるが……聞かなかったことにしよう。商人の交渉は戦いなのだ。

 

「これをこう磨り潰して……ほらっ! 出来上がりですよ」

「これ、塗り薬?」

「はい。だけど水に溶かして飲むとまた効能が違うんですよセプトちゃん。試しに舐めてみます?」

「うん」

 

 馬車の隅ではラニーさんが、振動で揺られながらも器用に薬草を磨り潰している。そしてその様子を興味深そうに見ているセプト。……なんとものどかだ。

 

 何故このような状況になっているかは、今日の朝方まで遡る。

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 異世界生活十六日目。

 

「よっ! ほっ!」

 

 俺はテントの中で軽いストレッチをしていた。ずっと寝てばかりでは身体が鈍るからな。勿論許可は得ている。上半身の包帯もとれ、足も普通に歩けるまで回復した。走るのはまだ止められるが。

 

 ラニーさんが言うには驚異的な回復だとか。これも加護のおかげなのだろうか? 

 

「むぅ」

 

 真似してセプトもストレッチしている。ここ数日色々話を聞く機会があったけど、その中で二つ重要な事を発表しよう。

 

 まず、セプトはまだ十一歳らしい。子供っぽい所があると思っていたが本当に子供だった。

 

 ちなみにエプリは俺の一つ下の十六歳。やや大人びた態度や口調は傭兵の経験によるものだと思う。感情が昂った時に見せる口調の変化は……分からないがあっちが素か?

 

 次に俺も薄々思っていたのだが、セプトは()()()()()()()()()()()()()()()

 

 セプトの使う闇属性は加護等の例外を除いて魔族と一部のモンスターしか使えないらしい。それにセプトが奴隷として買われた場所が、魔族の国デムニス国だった事も引っかかっていたしな。

 

 ヒト種と魔族は仲が最悪だが、正確に言うと()()()()()()ヒト種が大半だ。例えば交易都市群のヒト種はちょっと苦手程度らしい。だから交易も普通にするとか。

 

 その後でエプリが闇属性を使っていたのを思い出すが、聞かなくても大体の察しはつく。混血という事だから……つまりはそういう事だろう。気にならないと言えば嘘になるが、下手に聞いたら風弾とかが飛んできそうだ。

 

「ふんっ! ふんっと! ……ようし。こんな所かな」

 

 身体もほぐれ、ベットに座り込んで布で汗を拭う。セプトが俺の使った布をじ~っと見ていたが気にしない。……気にしないったらしない。セプトは自分用の奴を使おうな。

 

 セプトは現在俺の奴隷扱いになっている。何故か好感度が最初から高いのは置いといて、基本的に命令とかをする気はない。そういうのはどうにも落ち着かないしな。だけどセプトは命令待ちでずっと傍に控えている。

 

 仕方ないので簡単なお願い(物を取ってもらうとか)を時々すると、微妙に嬉しそうな顔をしてやってくれる。……これに慣れてしまいそうで怖い。

 

 あと調査隊の人達の態度が微妙に変わっている。諸々をアシュさんが面白おかしく誤魔化した結果、俺とエプリとセプトの三角関係のもつれによる修羅場により、俺がズタボロになって決着という話になったらしい。

 

 真相を知っているのはゴッチ隊長とラニーさん等一部の人だけだ。だからそれ以外の人(特に女性陣)からは結構白い目で見られている。男性陣の大半からはネタにされてるし、もう少しマシな誤魔化し方はなかったのアシュさんっ!?

 

「……終わったようね」

 

 そこにタイミングよくエプリが入ってきた。ストレッチが終わるのを待っていたみたいだ。

 

「エプリもやるか?」

「遠慮しておく。……それよりトキヒサ。ゴッチの所に行くわよ。話があるらしいから」

「話?」

 

 呼び出しなんて初めてだ。もしやもう面倒は見れないから放り出す宣言か? まぁそうだとしても散々世話になったから文句は言わないが。

 

「……何を考えているか知らないけど、その予想は多分違うと思うわよ。……肩、貸そうか?」

「美少女に掴まるのは悪くないけど、普通に歩くくらい出来るっての。ゴッチ隊長の所だよな。……よいしょっと」

「私も、行く」

 

 俺は立ち上がると、エプリと一緒にゴッチ隊長のテントに向かった。後ろからセプトもついてくるが……まあ良いか。

 

 テントにはゴッチ隊長の他にラニーさんと調査隊の人が何人か。あとアシュさんとジューネが揃っていた。ゴッチ隊長は俺が意識を失っている間にどこかに行っていたらしく、戻ってきたのはつい昨日だ。なので実質数日ぶりだな。

 

「わざわざお呼びして申し訳ありません。……お加減は如何ですか?」

「おかげさまでこの通り。大分元気になりましたよ」

 

 ゴッチ隊長がまずそう訊ねてきたので、俺は軽く腕を回して元気さをアピールする。それを見て何故か驚く調査隊の人達。元気さが足らなかったかな?

 

「……驚きました。凄い回復力ですね。運ばれてきた時の容態から、少なくとも一月は寝たきりになると考えていました。……その場合も出来る限りの治療を行うつもりでしたが」

 

 そこまで重症だったの俺!? ……ほんとに加護か何かだけだよね? 知らない内に治りの速くなる金魔法とか発動してないよねっ!?

 

「まあ……その、身体の頑丈さだけが取り柄みたいなもんでして」

「そ、そうなのですか? まあ治りが速いのは喜ばしいですが。……コホン。それはそれとして、実はこんな時ですがトキヒサさんにお話があるのです」

 

 俺は姿勢を正してゴッチ隊長の話を聞く。さあ何でも来い! 追放か? 最近流行りの追放なのか? ……しかしそうなったらエプリとセプトもついてきそうだな。皆で行ったら追放って感じはしないけど、先立つものがあまり無いから苦労を掛けそうだ。

 

 そして、ゴッチ隊長はゆっくりと口を開き、

 

「トキヒサさん。急な話なのですが……貴方には交易都市群第十四都市ノービスに向かってもらいます」

 

 ……最近の追放は目的地も指定されるらしい。

 

 

 

 

「急で申し訳ない。本来はノービスに行くのは体調の事からまだ先の予定でしたが、ここまで回復しているのなら早い方が良いと考えたのです」

 

 ノービス。どうやら交易都市群の都市の一つらしい。まあ交易都市群にはどのみちアシュさんの伝手を頼って行く予定だったから良いけど。ただ、

 

「あのぅ。追放されるにしても場所を教えてもらえるととても助かるんですけど。あと厚かましいですけど荷物とかも持っていけるとなお嬉しいって言うか」

「追放? そんなとんでもないっ! 元々ダンジョンの報告の際、証人として立ち会ってもらうという話だったではないですか」

 

 そう言えばそうだった。つまりここから一番近い町がそのノービスって事か?

 

「ノービスは医療施設も整っています。トキヒサさんはこのままでも大丈夫でしょうが念の為。……セプトさんの事もありますし、診せるなら早い方が良い」

 

 後ろの方の言葉は少し抑えめだ。セプトの身体の魔石の事は、混乱を避けるために一部にしか知らせていない。ゴッチ隊長も話が漏れないよう気を付けてくれているみたいだ。

 

「ただ残念ながら、ダンジョンの方で現在手が離せない状態でして私は同行出来ません。しかし書類等はまとめてありますので、ラニーに代わりに行ってもらいます。万が一セプトさんの容体が変化しても、ラニーなら対処できる筈です」

 

 その言葉にラニーさんが一歩前に進み出る。専門の人が同行してくれるとは心強い。……でも、

 

「ですがラニーさんは調査隊の薬師なんでしょう? ダンジョンに突入するのに薬師がいないのはマズいんじゃないですか?」

「……正直に申し上げて非常にマズいですね。なのでラニーは報告と向こうの引継ぎが済み次第、すぐにこちらにとんぼ返りという事になります。多少強行軍になりますが」

「えぇ。セプトちゃんを放っておけませんから。その為なら多少の無茶もどうってことありません」

 

 ゴッチ隊長の言葉にラニーさんが力強く断言する。ちなみにセプトは調査隊の人(特に女性陣)から人気がある。お人形さんみたいで可愛いとかなんとか。魔族だからと特に嫌う様子もなく、セプトも色々教えてもらっているという。

 

「当然だが俺とジューネも一緒だ。物資の補充とか情報集めとか色々やる事があってな」

「儲け話はそこら中に転がっていますからね。商人に暇はないのです」

 

 アシュさんとジューネも一緒に行ってくれるらしい。まあ町に行く方が儲け話がありそうではあるが。

 

「……私も護衛として同行するわ」

「うん。行く」

 

 エプリも当然のごとく参加。セプトに至っては居なきゃ始まらない。となると……。

 

「行くのは俺にラニーさん、エプリにセプト、アシュさんとジューネの計六人か。……あっ!? 忘れてた。バルガスも連れて行かないと」

 

 ここ数日会っていなかったが、バルガスもちゃんとした医療施設に連れて行った方が良い。……しかしおかしいな。俺はずっと医療テントの中にいたのに、同じく治療中のバルガスと会っていないというのはどういう訳だ?

 

「えっ!? 気付いていなかったのですか?」

「……意外と薄情ね。トキヒサ」

 

 どうやらバルガスは俺が意識不明の間にノービスに移送されていたらしい。ゴメンバルガス。怪我やら何やらですっかり忘れてた。次に会ったら謝ろう。

 

 ちなみに連れて行ったのはゴッチ隊長他数名。その間ダンジョンの調査は足場固めのみに徹し、ゴッチ隊長が戻り次第一気に進む予定だったという。それがゴッチ隊長の言う手が離せない状態という訳だ。確かに調査隊なのに長く調査できないのはマズいよなぁ。

 

「まあ忘れていたのは置いておくとして、移動の件ならご心配なく。こちらで馬車を用意しますので」

 

 そう言えば一度乗せてもらったな。また使わせてくれるとは大助かりだ。

 

「……どうされますか? 用意自体はほぼ済んでいるので、あとは皆様の準備が出来れば出発していただきたいのですが。勿論まだ体調が思わしくないという事であれば、無理にとは申しませんが」

「無理だなんてとんでもない。馬車まで用意してもらって助かります。すぐに出発しますよ」

 

 考えるまでもない。他の皆も乗り気みたいだし、テントで寝たきりと言うのも少し飽きてきた所だ。




 この話までで面白いとか良かったとか思ってくれる読者様。最後じゃないからと評価を保留されている読者様。

 お気に入りや評価、感想は作家のエネルギー源です。ここぞとばかりに投入していただけるともうやる気がモリモリ湧いてきますので何卒、何卒よろしく!

 行き詰った時には皆様の温かいお言葉が一番の薬なのです!

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