遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?   作:黒月天星

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見舞いと濃ゆい三人娘

 教会の中は結構想像していたものに近かった。室内は奥に広がり、左右には数人座れそうな長椅子が三列ずつ。中央の通路の先は祭壇のようなものが見え、屋根についているのと同じ十字架が飾られていた。

 

 やや地球のキリスト教に近いが、十字架に妙な細工がされていた。中心部に彫られた円環の周囲に、七つの小さな丸が均等に配置されている。一つの円環と七つの丸。この世界の宗教に関係があるのだろうか?

 

「本来ならここで説法の一つでもするのだけど、今はそんな場合じゃないわね。さあ。こちらへどうぞ」

 

 エリゼさんについて奥へ進み、祭壇の脇にある扉から中に入る。どうやらこっちが居住スペースらしい。通路の壁には幾つかの扉があり、部屋になっているようだ。照明代わりの魔石が一定の間隔で壁に埋まっている。そのまま石造りの通路を進んでいくと、

 

「アハハ! やるねぇバルガスさん!」

「うん。凄い……です」

「そ、そうか? それならこんなことも出来ちゃうぞ」

「もう二人共。あんまり怪我人に無理をさせるんじゃありませんっ! だけど……私もやってもらおうかなっ!」

 

 何やら部屋の一つが騒がしい。そしてよく見れば扉が僅かに開いている。

 

「あらあら。まったくあの子たちときたら……ちょっと待っていて頂戴ね」

 

 エリゼさんは少しだけ困った顔をすると、俺達にそう一言残して一人先に行く。

 

「貴女達。お客様が来るというのに遊んでいるんじゃありません。シーメとソーメはともかくアーメまで一緒になって……それにバルガスさんも。まだ完全には治り切っていないんだから、無理をしないように」

 

 なぬっ!? バルガス!? 俺達はその言葉を聞いて急いで駆け寄った。そこには、

 

「「「ゴメンナサイ。院長先生」」」

「すまねえ院長先生。しかしこいつらを責めないでやってくれよ。俺がちょっと調子に乗っちまっただけなんだ」

 

 綺麗にハモって全く同じ風にエリゼさんに頭を下げる三人のシスターと、同じように頭を下げるバルガスの姿があった。

 

 シスターの方は顔もほぼそっくりだ。三つ子かな? ……いや、今はそれよりも。

 

「バルガスさん!」

「うんっ!? その声は……トキヒサじゃないか! それにお前達も! 見舞いに来てくれたのか?」

「ま、まあそんな所です」

 

 正確にはセプトの診察及び治療のためなんだけど、どのみちいずれお見舞いをしようと思っていたのも事実だ。向こうも嬉しそうだし言わなくても良いか。

 

「お加減は如何ですか? バルガスさん。あっ! これ見舞いの品です」

「おう。ありがとよ。全快とは言わないが大分回復してきたんだ。院長先生が言うには、あと数日もすればまた冒険者として動けるようになるってよ」

 

 さりげなく何かの果物を手渡すジューネ。しまった。見舞いの品を忘れてた。次来る時に持ってくるから勘弁してもらおう。

 

「良かった。早く良くなってくださいね」

 

 俺が言うのもなんだけど、やはり一緒にダンジョンを抜けた仲だ。元気がないよりは早く良くなるに越したことはない。その後世間話を少しし、俺達は別の部屋に向かった。セプトもこんな感じに良くなると良いんだけどな。

 

「ちなみに部屋の中で何をしていたんですか?」

「あれか。あれは俺が身体を鍛え直そうと腕立て伏せをしていたらあの三人に見つかってな。興味深そうに見てるから、重し代わりになってもらったんだ。二人でも行けたから三人目に行こうとした直前で院長先生に見つかったけどな」

 

 一応病人なんだから、もっと安静にしていてくださいね。

 

 

 

 

「本当にお騒がせしたわね。……ほらっ! 貴女達も謝って」

「「「どうもすみませんでした」」」

 

 バルガスの部屋を出て、エリゼさんは俺達に深々と頭を下げる。三つ子と思しきシスター三人組もだ。

 

「この子達ったらここに泊まるヒトに必ずちょっかいを出すの。注意しているのだけど聞かなくて」

「だって院長」

「ここに泊まるヒトなんて」

「滅多にいないんだもの」

「「「ねぇ~」」」

 

 エリゼさんの言葉に、三人組は順序良く綺麗に最後はハモりながら言葉を返す。エリゼさんは困ったような顔をしてはいるが、怒っているという感じではない。このくらいは日常茶飯事なのだろう。

 

「ホントにこの子達は……まだお客様に名前も名乗っていないでしょう」

「「「そうでした」」」

 

 エリゼさんの言葉に、三人組はしまったとばかりに姿勢を正してこちらに向き直る。

 

「コホン。では改めまして。長女のアーメです」

「次女のシーメだよ! よろしく!」

「ソーメです……末っ子」

「「「私達、三人揃って…………『華のノービスシスターズ』」」」

 

 そこで言葉を切ると、何故か三人でそれぞれポーズをビシッと決める。……なんだろう。彼女達の後ろは壁のはずなのに、某戦隊ものよろしくドカーンと爆発が起きたように一瞬見えた。

 

 他の皆も唖然としている。というかこの場合、修道女としてのシスターと、姉妹としてのシスターの二重の意味だよな。微妙に名乗りが洒落ている。

 

「……大丈夫なの? このヒト達、頭でも打った?」

「本当にごめんなさいね。こんな子達だけど悪い子じゃないの。ちょっと悪ノリする癖があるというか」

「すごい」

 

 エプリが理解できないという顔をし、エリゼさんが頭を抱えながらそう返す。セプトはどうも興味深そうに見ているな。しかし……なんか濃ゆい人達だ。

 

「前に来た時とは名乗りが変わっているな。前は『エリゼ院長をお助けし隊』と名乗っていただろう?」

「考えてみたらそれは当然の事でしたので。それにこっちの方が格好良いでしょう?」

 

 都市長の言葉にアーメが代表して答える。というか他にも名乗りがあるのか!? いちいちポーズを決めるのは大変なんじゃないだろうか?

 

 ちなみに俺は戦隊よりライダー派だが、戦隊が嫌いという訳ではない。これもまた一つのロマンだ。

 

 それと、さっきの言葉からこの三人が姉妹だというのはハッキリした。そして、よく見てみるとまだ十代半ばといったところか。

 

 それぞれ顔立ちも背丈もほぼ同じだけど、全員が少しずつ形の違うブローチを服に付けている。今はそれで見分けるしかないか。

 

「あの。紹介も済んだ所でそろそろ先に進みませんか?」

 

 一同濃ゆい自己紹介にどこか呆然としていると、ラニーさんがいち早く立ち直って声をかける。そうだった。こんな所で止まっている場合ではなかった。

 

「そうね。貴女達もいつまでもそんなポーズをしていないで。まだまだやることは沢山有るはずよ。……遊ばず真面目にね」

「「「は~い」」」

 

 三人は元気よく返事をすると、再びバルガスの部屋に戻っていく。まだ仕事がやりかけだったらしい。エリゼさんが言ったように、今度は真面目にバルガスの看護をしてもらおう。

 

 

 

 

 気を取り直して行くと、エリゼさんは幾つかある部屋の一つに入る。そこは簡素な椅子とテーブル、ちょっとした家具が置かれているだけの殺風景な部屋だった。

 

「よいしょっと」

 

 全員が入るのを見届けると、エリゼさんは扉をゆっくりと閉める。

 

 ……あれっ!? やけに重そうだなと思ってよく見ると、ここの扉は木製をベースに金属で補強されている。さっきのバルガスの部屋と違ってかなり頑丈そうだ。

 

 おまけに鍵穴の上に小さな魔法陣のようなものが刻まれている。何故にここだけ?

 

「ここは凶魔化に関わったヒト専用の診察室だ。ここなら万が一突然凶魔化したとしても、被害を最低限に抑えられる。防音、盗み見対策も万全だ」

 

 ドレファス都市長が代わりに説明してくれる。なるほど。患者が暴れても良いように最低限の家具しか置いてないって訳だ。エプリは魔法陣を少し調べてこくりと頷く。嘘じゃないらしい。

 

 エリゼさんが椅子に座り、俺達にも座るようにと勧めるのでお言葉に甘える。エプリだけは座らず壁に背中を預けて立ったままだ。そこまで警戒しなくても。

 

「じゃあ早速診察を始めるとしましょうか。セプトちゃん。ちょっとこちらに来てくれる?」

 

 エリゼさんの言葉にセプトは一瞬こちらを見てきた。行っても良いかという伺いを立てているみたいだったので、大丈夫だという意味を込めて軽く背中にポンっと手を当てると、セプトはそのままエリゼさんの所に歩いていく。

 

「ドレファス坊やから話は聞いているけど、やはり実際に診てみないと何とも言えないから。もし良ければ……私に身体の魔石を見せてはもらえないかしら?」

 

 エリゼさんは優しく語りかける。この様子を見ていると、どちらかと言うとシスターというより医者のイメージがあるな。セプトはそのまま自身の服の襟に手をかける。そしてその綺麗な鎖骨の辺りと共にあの恐ろしい魔石が……って!? 見てちゃまずいだろ!?

 

「ご、ごめん。俺ちょっと後ろを向いてるよ」

 

 俺はそう言ってくるりと後ろの壁の方を向く。無表情でどこか子供っぽいとは言え女の子だからな。そういうのはじろじろ見るもんじゃない。

 

 ……何故かセプトからじ~っと視線が来ている気がするが、俺は決して振り向いたりしないぞ。

 

「魔力の流れを確認したいから、少しだけそのままで魔法を使ってくれる? 簡単なもので良いから」

「分かった」

 

 その言葉と共にガタゴトという音が聞こえる。何が起こっているのかは分からないが、セプトがお得意の影の魔法を使っているのだろうか?

 

 考えてみれば、こういう闇属性の魔法は基本的に魔族の使うものだと前に聞いた。それならこの時点でセプトは魔族だとバレることになる。驚かれたりしないだろうな?

 

「ちょっとだけ維持しててね。そのままよ」

 

 だが聞く限りではエリゼさんの口調に変化は見られない。無理しているという感じでもなく、ごく自然に診察をしているみたいだ。

 

 そのまま少しの間沈黙が場を支配する。継続的な音は聞こえているが、これはセプトが魔法を続けているという事だろう。そして、

 

「……ふぅ。もう止めて良いわよ。服も元に戻して良いわ」

「うん」

 

 その言葉と共に音が止み、服の擦れるような音がする。襟を正しているのだろう。もう振り返っても良いかな。俺はそう判断して振り返る。

 

 ……よし。しっかり服も戻っている。ラッキースケベもハプニングも要らないからな。あれもまたロマンではあるが今はおよびじゃないの。

 

「見ても、良いのに」

「いや見ないからねっ!?」

 

 セプトが何処か残念そうな顔をしている。何でこんなに懐かれてるんだろうホント。

 

「それでエリゼ院長。何か分かったか?」

 

 そんな事を考える中、都市長がエリゼさんに問いかける。しかしエリゼさんの表情はどこか浮かない顔だ。

 

「あまり芳しくないわねぇ。事前に聞いた通り、魔力暴走の一件でセプトちゃんの身体と魔石は完全に一体化してしまっている。後付けの()()()()()といっても良いわ」

「そんなっ!? じゃあ魔石を摘出したら」

「身体の一部を無理やり引き千切るのと同じ事よ。治癒魔法をかけながら摘出したとしても、身体にどんな影響が出るか」

 

 俺の言葉にも静かに返すエリゼさん。その静かさが、話は全て真実だと暗に示している。そんな……じゃあセプトはこれからずっとあんな危ないのを身体に埋め込んだままで。

 

「大丈夫。まだ方法はあるわ」

 

 エリゼさんはそう言ってニッコリと笑顔を浮かべる。それは患者を不安にさせないためのものにも見えたし、迷える子羊を救おうとしているものにも見えた。ただ、

 

「待っていれば良いのよ。自然に魔石が外れるまでね」

 

 その言葉には不安しか覚えないんだけど。もうちょっと詳しく説明してくれませんかねぇ。




 この三つ子は大体これが平常運転です。毎回爆発は起きませんが。
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