遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?   作:黒月天星

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試作品と治療法

「これは……何だ?」

 

 そこに出されたのは妙な物体だった。お椀のような形で、大きさは俺の掌より少し小さいくらい。色は肌色に近い茶色で、中身が空洞になっている。

 

 よく見れば、上から見ると丁度正三角形になる三点に留め具が付いていた。これで固定するようだ。

 

 そして三角形の中央。お椀の底には留め具から細い線が引かれていて、それぞれの線が交わる場所に小さな加工された魔石が埋め込まれている。

 

「これは中の物の魔力の流れを断つ道具よ。基本材質には魔力の流れを遮断するバリの木。それだけだとちょっとした衝撃で割れてしまうので、補強の為に乾くと固まるカチリカの木の樹液を塗り込んであるわ」

 

 魔力の流れを断つ道具? いったいなんのこっちゃ?

 

「バリの木もカチリカの木も、どちらも魔素が大量にある森でないと育たない珍しい木です。それらの素材を使うということは、かなりの値が張る品のようですが……」

 

 ジューネもそう言いながら首を傾げている。どうやらこれが何かよく分からないらしい。エプリやセプトも分かっていないようだ。俺だけ分からない訳じゃなくてちょっとホッとする。

 

「じゃあ順を追って説明するわね。セプトちゃんに埋め込まれた物を確認したのだけど、身体とほぼ一体化しているから摘出は危険を伴います。出来なくはないけど負担が大きすぎるので最後の手段ね。なので時間はかかるけど負担のかからない穏便な手段を取ろうと思います」

「その穏便な手段に必要な道具がこれという事か?」

「そうよドレファス坊や。調べた所人為的な凶魔化には魔石に魔力が満ちる必要がある。なら逆に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 確かにそうだ。だけどそれなら、拠点でも言われたように適度にセプトが魔法を使って消費すればいいのでは? 俺の疑問を察したのかエリゼさんは説明を続ける。

 

「魔力が溜まったら使うというのも一つの手だけど、これはもっと根本的なもの。()()()()()()()()()()()()()のを目的にしているわ。これを魔石に被せる事で、理論上は空気中からの魔素の吸引は防げる」

「しかしセプト本人から流れる分はどうする? それは流石に遮断は難しいだろう?」

「器具には取り外し可能な魔石を埋め込んであるわ。セプトちゃん本人の魔力はそちらに優先して流れるよう設計してあるから、身体に埋め込まれた方に流れるのはごく微量。ほぼないに等しいでしょうね。数日おきに取り付けた魔石を交換する必要があるけど」

 

 都市長の言葉も予想していたようで、エリゼさんは落ち着いて対処法を語っていく。

 

「しばらくその状態を続ければ、埋め込まれた魔石は不要なものだと身体が判断して自然と外れていくと思うわ。髪や歯が生え変わるみたいにね」

 

 言いたいことは何となく分かる。例えば髪の毛は毎日沢山抜けて、その分新しく生えるというサイクルを繰り返しているし、サメは歯が傷つく度に新品の歯に生え変わると聞いたことがある。

 

 だから身体の一部が自然に外れるのはそこまで珍しくはない。でも……。

 

「話は分かった。しかし上手くいくのか?」

「ここで誤魔化しても仕方がないわね。結論から言うと……分からないわ。勿論理論上は上手くいく筈よ。でもこれは試作品。魔石()()()使ったら完全に遮断できたけど、まだ一度もヒトで試した事はないの」

 

 考えてみればその通りだ。ヒトの凶魔化なんてまず起きない。なら使う機会もほとんどないだろう。だけどこれじゃあイマイチ不安だ。

 

「だから、最終的な決断はセプトちゃん自身に委ねるわ」

「私?」

 

 急に話を振られてセプトが無表情ながら驚いた様子を見せる。セプトも一応自分の事なんだから聞いとかないとダメだぞ。

 

「そう。もしこれを使うのが不安ならそれでもいいわ。ラニーの見立て通り、おそらく定期的に魔力を消費して魔石に溜まり切らないようにすれば凶魔化はしないと思う。無理やり摘出するという場合でも、出来る限り手を尽くして副作用がなるべく出ないようにする」

 

 エリゼさんはセプトに目線を合わせて静かにそう語りかけた。その言葉は静かではあったけど、どこまでも真剣で真摯な物だった。

 

「でも、個人的には私を信じてこの器具を使ってほしいの。それが一番安全にその魔石を外せる方法だと思うから」

「……トキヒサ。どうする? 私は奴隷だからトキヒサに従う」

 

 こんなタイミングで奴隷根性出さなくても。……しかしどうしたもんか。エリゼさんの言う通り、こういうのは自分で決めるのが一番良い。

 

 だけど、セプトはどうも自分の事でも俺の方針を優先する気がある。自分の事を決めるのは最終的には自分であれと思うんだけどな。

 

 

 

 

「エリゼさん。幾つか質問があるんですが。まずその器具ってどのくらい着けてないとダメなんです?」

「先ほど調べたセプトちゃんの魔力量、それと魔石の状態から見て少なくとも七日はかかるわね。魔石の取り換えや体を洗う時なんかに短期間外すくらいなら問題はないと思うけど」

 

 七日か。そこまで大きな物でもないけれど、常時着けているというのは地味にしんどいかもしれない。補強はしてあるとはいえ壊れる危険性もあるし、これはサポートしないとマズいな。

 

「じゃあセプトが器具を着けている間、魔法とかは使えるんですか?」

「可能よ。魔力を抑えるというより流れを変えるための器具だから。むしろ時々使った方が確実に身体の魔石から魔力を減らせるわ」

 

 器具を着けたままでも魔法の使用は奨励と。いざとなった時の護身も出来ないんじゃ危ないもんな。となると残るは……。

 

「……最後の質問です。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「思わないねっ!」

 

 最後の質問の答えは思わぬ所から返ってきた。シスター三人組の……確か次女のシーメだったかな? ブローチの形から多分そうだと察する。

 

「エリゼ院長と私達で頑張って作ったんだもの。絶対不具合を起こしたりなんかしないから」

「そう。その通りです。良く言ったわシーメ」

「シーメ姉の言う通り」

 

 シーメがそう力説すると、他の二人も掩護射撃する。それを聞いたエリゼさんは、困ったようでそれでいて笑っているような不思議な表情を浮かべる。慕われているんだなぁ。

 

「この子達ったら……でも、そうね。試作とは言え、ヒトを助けるために全力を尽くして作ったわ。なので敢えて言います。不具合を起こすことはないとね」

 

 そうか。今の言葉で腹は決まったな。ならば、

 

「……セプト。エリゼさん達を信じてみよう」

「分かった」

 

 セプトは何のためらいもなく承諾した。いや少しは自分でも悩もうよ。

 

 正直ドレファス都市長の信頼度なんかを踏まえると、もう最初からある程度は信頼していた。それに着けたままでも魔法の使用有りの時点で、最悪不具合があってもカバーできる可能性が高いと踏んだしな。

 

 だけど、最後の決め手になったのは三つ目の質問。ここでの質問に対し、シスター三人組は迷うことなく答えた。そして、エリゼさんもはっきりと不具合を起こさないと言ってみせた。

 

 これはそれだけ自分達の作った物に、或いは行った仕事に全力を尽くしたという事だ。そういう人は信用できる。

 

「エリゼさん。こちらからもよろしくお願いします。セプトを助けるのに力を貸してください」

 

 俺が頭を下げると、エリゼさんは柔らかな微笑を浮かべながら静かに頷いた。

 

 

 

 

「お世話になりました」

「お世話だなんてとんでもないわ。なんにせよこれからだもの」

 

 俺達は教会の前に立っていた。セプトの魔石に無事器具を取り付け、簡単な諸注意も受けたので、ひとまずドレファス都市長の屋敷に戻るのだ。

 

 見送りにエリゼさんとシスター三人組、そしてバルガスが来てくれる。調査隊の時もそうだったけど、ここの人達は皆こういう所がしっかりしている。これは結構嬉しい。

 

「さっきも言ったけど、何か身体に異常を感じたら小さな事であっても気にせず来てね。それと器具に使われている魔石は小さな物だから、魔力が溜まって色が変わり始めたら早めに交換を。交換用の魔石はトキヒサ君に渡してあるわ」

「分かった」

「それと器具は補強してあるけど手荒には扱わないように。寝る時はなるべく仰向けを心がけてね」

「うん」

 

 さっきからエリゼさんがセプトにもう一度諸注意をしている。大事な事だからな。セプトも無表情のままでコクコクと首を縦に振って相槌を打っている。

 

 ちなみに魔石は魔素が溜まれば溜まるほど色が濃くなるという。色自体はそれぞれ違うが、その点だけは共通しているらしい。

 

「ジューネもまたね」

「待ったね~!」

「……また」

「はい。またいずれ寄らせていただきますよ。ところで、セプトに着けられた器具の設計について教えていただきたいんですが」

 

 シスター三人組とジューネは意外に仲良くなったらしい。

 

 正確に言うと、三人の方は普通に人懐っこいのだが、ジューネの方は金の匂いでも嗅ぎつけたようで、ちょくちょく突っ込んだ所まで聞こうとしているけど中々聞き出せないといった感じだ。

 

 まあ下心とは別に普通に仲良くしようとする意思もありそうなので良いのだが。

 

「ほ、本当か? 本当に俺の治療費全部出してくれるんだなっ? ドレファス都市長!」

「ああ。無くした装備や道具も多少ではあるが補填しよう。その代わりといっては何だが、この件は一切他言無用で頼みたい」

「勿論だ。こんな事言ったってほら吹きって言われるのがオチだしな。そんなので良ければ喜んで従うぜっ!」

 

 ドレファス都市長がバルガスに口止めをしている。凶魔化をなるべく広めたくない都市長としては、こういう根回しは必要なことなのだろう。……秘密を知る者をこっそり始末するっていう流れにならなくて良かった。

 

「これで注意は以上よ。あとはセプトちゃん次第だから頑張ってね。それと……ラニー」

「はい」

「前に来た時より少し痩せたんじゃない? ちゃんと食事は摂ってる? 治療が忙しいからって自分を後回しにしてない? たまには休まないと身が保たないからね」

「もう。そんなに心配しないでください。しっかり食事は摂ってますし、休みだって定期的に取ってますから」

 

 おおよそのセプトへの注意を伝え終えたエリゼさんは、次に何故かラニーさんに声をかける。

 

 そう言えばラニーさんはここに来てからほとんど話さなかったな。どうも二人は知り合いのようなんだけど、どういう関係なんだろうか?

 

 そんなこんなでそれぞれの話も終わり、俺達は馬車に乗り込んでいく。

 

「皆様お気をつけて。七神の加護がありますように」

 

 別れ際にエリゼさんとシスター三人組が、そう言って俺達に向かって祈るような仕草を見せる。……なんか初めてシスターのシスターらしい所を見た気がする。どちらかと言うと薬師みたいなイメージがあったからな。

 

 そうして俺達を乗せた馬車は、教会を出てドレファス都市長の屋敷へ戻るのだった。




 これは大抵の職業に当てはまると勝手に考えていますが、自身の仕事に全力を尽くしたのであれば、それは自然と自信に繋がると思います。

 そして根拠のしっかりとした自信から出る言葉には信用がおける……という流れですね。時久の思考としてはそんな感じです。




 別作品『悪の組織の雑用係 悪いなクソガキ。忙しくて分からせている暇はねぇ』の方もよろしく!
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