「よし、そろそろ大掃除の時だな」
竜騎が惑星イマガワに収監された頃、衛星軌道上にある宇宙ステーション内で、長官はイマガワに収監された囚人たちの抹殺を行おうとしていた。
「そのためにお前を呼び出したのだ。素晴らしきヒィッツカラルド」
「えぇ、ご指名を受けたのなら期待通りの働きをしてみせよう」
長官に呼び出された瞳孔の無い白眼とステキライン、赤髪のカニ頭が特徴的なスーツ姿の男、素晴らしきヒィッツカラルドは期待に応えると言って部屋を出た。
ヒィッツカラルドが部屋を退室した後、長官は笑みを浮かべながらリモコンを操作して画面を天井から出し、その映像に映る惑星イマガワの様子を見る。
「フフフ、楽しいショーになりそうだな」
これからヒィッツカラルドが行う殺戮劇を楽しみにしながら、長官は期待を込めた瞳で画面を見た。
一方、惑星イマガワに収監された今川竜騎は、収監されていた囚人たちによる歓迎を受けていた。
「死ねぇ!」
歓迎会の一人、囚人服を纏ったモヒカン男が伸ばしに伸ばした鋭利な爪で竜騎を殺害しようと飛び掛かったが、アッパーカットで顎を強打されて吹き飛ばされる。
「うでぶっ!?」
「この餓鬼ぃ! おっぱ!?」
「けっ、十傑高校の方が難敵だったぜ!」
次々と襲い掛かる歓迎委員会のモヒカンたちを倒す竜騎は、徒党を組んで乗り込んだ高校に通う不良たちの方が強かったと豪語する。
そんな暴力染みた歓迎会が行われ、黙ってみている看守たちが驚く中、イマガワの極長たる大男が姿を現す。
「ほぅ、中々の苦しめ甲斐がある餓鬼では無いか」
「おっ、ウイグル獄長! こ、これは…」
現れたウイグル獄長と呼ばれる大男に対し、看守たちは頭を下げて竜騎に行う歓迎会の言い訳をしようとしたが、獄長は無言で手を翳す。
「いや、続けさせい。久方ぶりの骨のある奴よ。丁度、気分が良いわ! あれをやらせい!」
数十人相手に息を切らさず、冷静に対処して戦う竜騎に、ただの小僧では無く、ウイグル獄長は久方ぶりに見た骨のある男と見ていた。
全員を伸したところで、ウイグル獄長は竜騎を見ながら高台より、ある条件を果たせば釈放すると告げる。
「貴様か! 今川竜騎とか言う小僧は!?」
「そうだ! 何だテメェらは、ちゃんと仕事してんのか!? 襲われたぞ!」
「フン、それでも十数人の相手に一人で立ち回り、ものの見事に倒したことはあっぱれよ! そんなお前に条件がある! 達成できれば、釈放してやらんこともないぞ!」
「なに、釈放だと…!? 聞かせろぉ!!」
案の定、釈放と言う文字をチラつかせれば食い付いた竜騎に、ウイグル獄長はある石像、それもこの惑星が開拓し始めた頃からよりも前にある剣士の石像を指差しながら条件を告げる。
「あの石像を、見事破壊して見せればこの惑星より釈放してやろう! ただし、破壊して見せればだ! 道具も使ってもいいぞ! 爆薬もある! やってみせい!!」
釈放の条件は剣士の石像の破壊であった。
だが、看守たちは驚愕するどころか笑っていた。ウイグル獄長も同様で、絶対に出来ないことだと言っている。石像を破壊する道具まで、用意しているにも関わらず。
これに竜騎は不審に思っていたが、吠え面をかかせてやろうと思い、剣士の石像の前に立った。
「石像をぶっ壊す道具は揃ってる。爆弾もあるじゃねぇか。なんでみんな、出来ないって面をしてんだ?」
剣士の石像を見た竜騎は、この惑星イマガワに居る全員が、自分が石像を破壊できないと確信していることを不審に思っていた。
裏返せば、自分を釈放してくれるために用意した善意なのではと思い、ハンマーを使って石像を破壊しようとした。だが、思いっ切り力を込めた強打に石像はびくともせず、逆にハンマーが壊れてしまった。
「な、なにぃ!?」
ハンマーが壊れてしまったことに驚く竜騎を見て、ウイグル獄長を含める看守や囚人たちは笑い始める。
「フッハッハッ! どうしたァ? そんなへっぴり腰じゃ、石像の一体や二体、ぶっ壊せんぞ!」
「野郎、この石像になに仕込んでやがんだ!? 今度は爆弾で吹っ飛ばしてやる!」
自分を嘲笑うウイグル獄長たちに、苛立つ竜騎は爆薬で石像を吹き飛ばすことにしたが、これも失敗してしまう。
「な、何故だ!? なぜ石像は壊れん!?」
これでも、ウイグル獄長たちの意味が分からなかった竜騎は、何をやっても石像が壊れないことに驚く。
そんな慌てふためく彼に、ウイグル獄長は石像がなぜ壊れないのかを説明する。
「なぜ壊れんことに驚いているようだな、小僧! 教えてやろう、その剣士の石像はどんな物でも壊せない材質で出来ておるのだ! 我々にもなんで出来てるか分からん! その石像は我々がこのイマガワに足を踏み入れる前からあり、重機で潰そうとすれば、逆に重機が壊れる始末! 大砲で撃っても傷一つ付かず、ミサイルでも同様なこと。挙句にビームですら効かん! 隕石が落ちようが、核が落ちようが、あの通りに傷一つなく聳え立っとる! もうどうすることも出来ん神の如くの石像よ!」
あの剣士の石像は何をやっても壊れない物であると言えば、竜騎は騙されたと判断して抗議した。
「て、テンメェ! 汚ねぇぞ!! 何をやってもぶっ壊れねぇ石像をぶっ壊せば、釈放だなんて抜かしやがって!」
「馬鹿め、釈放など端からする気は無いわ! お前の様な暴れん坊を抑え込むための儀式よ!」
「クソが! これでも食らいやがれ!」
「奴が爆弾を投げたぞ! 離れろぉ!!」
最初から仕組まれた事と分かれば、竜騎は残っていた爆薬をウイグル獄長に向けて投げた。
周りの看守たちが逃げ出す中、ウイグル獄長は自分の兜に仕込まれた千条鞭を引き抜き、投げ付けられた爆弾を無数の鞭で破壊した。
「な、なんだと!?」
「馬鹿な小僧よ! このわしに、そんなちゃちな爆弾など通じるか!
「ぬわぁーっ!」
爆弾を鞭で破壊されたことに驚く竜騎に対し、ウイグル獄長は必殺技を叫びながら得物の千条鞭を彼に叩き付ける。この無数の鞭を受けた流石の竜騎も無事では済まず、一秒に何百発も打たれた感触を覚えて地面に倒れた。
「フン、この程度で伸びるとは。張り合いの無い小僧よ! 牢にぶち込めぇ!」
自分の必殺技を受けるだけで気絶した竜騎に、ウイグル獄長は張り合いが無いと言って部下たちに彼を牢に入れ込むように指示を出したが、看守の一人がある報告をする。
「獄長、獄長殿!」
「なんだ騒がしい! 言ってみろ!」
「妙なスーツの男がこのイマガワの宇宙港を襲撃しております!」
「なんだと!?」
それは、素晴らしきヒィッツカラルドよる襲撃の報であった。
その頃、長官からの命を受け、惑星イマガワの掃除を開始したヒィッツカラルドは、先に脱出手段を奪おうと宇宙港を襲撃していた。
彼は踊りながら指を鳴らせば、指を鳴らした方向に居た物体は真っ二つに割れる。彼は鳴らした指から真空刃を放っているのだ。例え人間であろうと、指を鳴らした瞬間に放たれた真空刃によって一瞬にして真っ二つにされる。
「ひでばっ!?」
「ぶへっ!?」
ヒィッツカラルドが指を鳴らした方向にあった人や物体は次々と切断されて行く。
そんな指を鳴らして踊りながら破壊と殺戮を行うヒィッツカラルドに、頭にターバンを纏って三日月刀を持った数名が襲い掛かる。
「おのれぇ、名を名乗れぃ!!」
「私か」
名を名乗れと告げる三日月刀を振るおうとした剣士に、ヒィッツカラルドは顔面に指を鳴らす瞬間の左手を向け、名乗り始める。
「私は素晴らしきヒィッツカラルド。諸君らの掃除を命じられた者だ」
「そ、掃除…?」
名乗り終えた後、ヒィッツカラルドは剣士に向けた左手の指を鳴らして真っ二つにする。
自分らが掃除、それも抹殺されると分かった惑星イマガワの者たちはなぜ抹殺されるのかとヒィッツカラルドに問う。
「な、何故だ!? なぜ我々が抹殺されねばならない!?」
「理解が速くて助かる。どうやら収容しきれない程に囚人が溢れているらしくてな、一度、掃除して新しいのを入れたいようだ。要するに、植え替えだ」
問うてきた剣士に対し、ヒィッツカラルドは植え替えに例えて指を鳴らして再び殺戮を始める。
何百人も指を鳴らして殺し続ければ、自分よりも大量に破壊している者は現れる。その方向を見れば、ガンダムがイマガワの者たちを殺戮していた。
そのガンダムの名はネロスガンダム。モビルスーツでは無くモビルファイターと呼ばれる格闘技用のガンダムであり、搭乗者はミケロ・チャリオットである。
『ヒャッハッー! 虹色の足ぃぃぃ!!』
「うわぁぁぁ!!」
現れた機動兵器を、ミケロは自分のガンダムで次々とスクラップにしていた。
「ミケロ・チャリオットか。あのジジイめ、余計な奴を入れるとは」
ヒィッツカラルドは長官が掃除にミケロを投入したことを知らなかったらしく、余計に暴れ回る彼を見て眉をひそめた。
「まぁ良い、ここは奴に任せ、私は収容施設へ向かうか」
広すぎる宇宙港の破壊をミケロに任せ、ヒィッツカラルドは竜騎が収監されているウイグル獄長が収める収容所へと、両腕を組みながら前傾姿勢を取り、足を高速で動かしてステップを踏みつつ向かった。
「おらぁ! さっさっと牢に入らんかいボケ共ッ!!」
ヒィッツカラルドがこの収容所に接近していることを知らず、ウイグル獄長らは竜騎を含める囚人たちを牢に収容させていた。だが、ヒィッツカラルドの進行速度は予想を遥かに上回っており、門番が彼を目視した頃には既に指を鳴らされた後であった。
「な、なんだあいつは!?」
『あべし!』
その言葉を最期に、二人の門番はヒィッツカラルドが指を鳴らして放った真空刃に切り裂かれていた。
走りながらヒィッツカラルドは門を破壊し、内部に侵入して目に付く物全てに真空刃を放って収容所で破壊と殺戮を再開する。所構わずに踊りながら指を鳴らして真空刃を放つため、収容所のありとあらゆる施設と設備が破壊された。人間は切断されて真っ二つとなっている。
「ぎべっ!?」
「タコスッ!?」
「クニオ!?」
恐るべき強さを誇るヒィッツカラルドに無謀にも挑んだ看守や囚人たちは、当然の如く指を鳴らして放たれる真空刃によって切断される。破壊された建物の瓦礫の下敷きとなった弟を助けようとする兄に、大殺戮を続けるヒィッツカラルドは気付いて殺そうと思って近付く。
「しっかりしろ! 弟!!」
「あ、兄者…! 俺を放って…!」
「出来るかそんな事!!」
兄弟愛を見せる囚人の兄弟に対し、ヒィッツカラルドは冷酷にも殺意を向け、瓦礫の下敷きとなった弟を必死に助けようとする兄に声を掛ける。
「美しい兄弟愛だな。手伝ってやろうか? ただし、二人揃って真っ二つだがな!」
「あぁ…!?」
両手で同時に指を鳴らし、ヒィッツカラルドは兄弟を抹殺した。
その冷酷なヒィッツカラルドに対し、大勢の部下たちと娯楽の為に生かしていた囚人たちを殺された怒りに燃えるウイグル獄長が千条鞭で攻撃する。
「貴様ァ! 何者だぁ!? ここに収監されている囚人を殺しに来た刺客かァ!?」
「刺客? 違うな、私はこの星の掃除を命じられた者だ。目撃者は誰一人として生かして置くなと言われている」
自分の攻撃を躱したヒィッツカラルドに、ウイグル獄長は収監された囚人を殺しに来た刺客なのかと問い詰める。これにヒィッツカラルドはウイグル獄長も殺すので、長官に命じられたことを語った。
「掃除、掃除だと!? まさか、このわしまで抹殺しようと言うのか!?」
「そうだ。看守も貴様も不要となった。土の植え替えだよ」
「おのれぇ! 死ねぇ! 泰山流千条鞭!!」
「フン、縄跳びか」
自分らも抹殺の大将と知ったウイグル獄長は、必殺技を叫びながら無数の鞭を放った。これをヒィッツカラルドはウイグル獄長の必殺技を縄跳びと蔑み、尋常ではない身体能力で躱し切り、指を鳴らして真空刃を放ち、鞭を次々と切断していく。やがて全ての鞭を切断されたウイグル獄長は焦り、余裕の姿勢を見せるヒィッツカラルドを睨み付ける。
「ぬぅぅ、わしの千条鞭が…!」
「縄跳びは終わりか?」
「舐め腐りおって! この技を受けて生きていた者はおらん!
得物を切断された挙句、煽られたウイグル獄長は完全に頭に血が上り、奥義を発動した。右肩に筋力を集中させて大きく膨張させ、全身の力を込めてヒィッツカラルドに向けて全力のショルダーアタックを行った。
本人が言う通り、この奥義を食らえば一溜りも無く、落ちた瓦礫がウイグル獄長に当たるだけで砕け散っている。これほどのショルダーアタック、ヒィッツカラルドも無事では済まないが、彼は蔑んだ笑みを浮かべている。
「縄跳びの次は、闘牛の如く体当たりか。芸の無い奴だな」
「死ねぇぇぇ!!」
芸の無い奴の蔑むヒィッツカラルドに対し、ウイグル獄長は全力の体当たりをしたが、あっさりと避けられ、厚い壁に激突したところで何度の真空刃を背中より撃ち込まれる。
「ぐ、グァァァ! な、なにィィィ!?」
「フフフ、お前はもう死んでいる」
「おっ、おォォォ!? をろあ!!」
自分の渾身の技すら避けられたことに、ウイグル獄長は驚愕していた。そんなウイグル獄長に向け、ヒィッツカラルドは死んでいると告げた。その言葉を受けたウイグル獄長は断末魔を叫びながら爆死する。
「さて、もう一人」
ウイグル獄長を爆殺したヒィッツカラルドは息を殺して剣士の石像の足元に潜んでいた竜騎に気付き、そこまで飛んでいき、彼の前に立つ。未成年の竜騎の姿を見たヒィッツカラルドは少し驚いたが、法律が改正されたことを思い出す。
「ん、未成年か。そうか、法律が改正されてここにも未成年が収監できるようになったな。君は運が良い。このイマガワの未成年収容者第一号になれ、そして未成年収容死第一号にもなれる」
「ひっ…!?」
恐怖して震える竜騎に向け、ヒィッツカラルドは残忍にも指を鳴らし、放たれた真空刃で彼を殺そうとしていた。
遠くでヒィッツカラルドが指を鳴らしながら破壊と殺戮を行っていたことを知る竜騎は、自分も指を鳴らされた瞬間に殺されると思い、両目を瞑ってしまったが、指を鳴らしたのは別の方向、それも石像の方であった。
ヒィッツカラルドは剣士の石像から伝わる殺気に気付き、それに真空刃を放ったのだ。だが、石像はヒィッツカラルドの真空刃でも切断できなかった。
「なんだ、この石像は!? 生きていると言うのか!?」
「生きてる? 何言って…!?」
石像より感じた殺気で、ヒィッツカラルドは剣士の石像が生きていると言った。これに竜騎が混乱する中、動かないであろう石像が急に崩れ始めた。これにヒィッツカラルドは石像の中に眠る何かが目覚めたと判断し、指を鳴らし続けて真空刃で石像を跡形もなく破壊しようと試みる。
「目覚め始めた!? 目覚める前に細切れにしてやる!!」
そう言って真空刃の弾幕を張るが、全てが弾かれるかの如く効いていない。
やがて崩れ去るころには、石像の中より鉄塊の様な大剣を携えた大男の剣士が姿を現した。外見は短い黒髪でアジア系のガッチリした体格の大男、背丈は190センチ。黒い甲冑に身を包み、黒いマントを羽織っていた。その男は石像の中より目覚めて早々に、自分を見て驚愕するヒィッツカラルドを睨み付ける。
「目覚めたか! だが、加護はもう無いぞ! 真っ二つになれ!!」
自分を覆っていた石が無くなったことで、ヒィッツカラルドはもう加護は無いと判断して真空刃の弾幕を行った。
これで大男の剣士も一貫の終わり。そう思われていたが、剣士は目にも止まらぬ速さで大剣を振るい、ヒィッツカラルドの指を鳴らして放った真空刃全てを弾き落した。
「な、なんだと!? あの大剣をあんな高速で!?」
真空刃全てを大剣で弾いた剣士に、ヒィッツカラルドは驚愕する。そんなヒィッツカラルドに向け、剣士はその大剣を振るい落とす。
普通なら避けられる。そう思っていた近くで見ている竜騎であったが、対象が躱すよりも早く剣士は大剣を振るい、ヒィッツカラルドを真っ二つに斬り落とした。
「あ、あんな化け物を…!? 化け物をあっさり…!」
驚く竜騎を尻目に剣士は大剣を背中のラックに戻し、しっかりと固定してから空を見上げる。剣士が空を見上げた理由も知らず、竜騎はこれで終わったと思って声を掛けた。
「なぁ、あんたは一体…」
「小僧、安心しきってるところ済まねぇが、まだ終わりじゃねぇぞ」
何者かを問おうとした瞬間、剣士はまだ終わって無いと告げた。それに釣られて空を見上げて見れば、恐ろしい死の使者たちが空から降って来ていた。
竜騎はヒィッツカラルドが剣士に斬られて終わったと思ったが、逆に地獄の始まりであったことを知り、絶望的な表情を浮かべた。
まだゲッターが出ていない!? どういう事だってばよ!?
次回はコーウェン君とスティンガー君が出て来るかな?
活動報告で、参加者を募集してるよ。10月1日までに応募してね。
二つ目の読者参加型はどっちにしたい?
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ガンダム宇宙世紀(0083)
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無限戦争、SEEDのオーブ戦みたいな奴
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二度転生のデグ様の過去
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狂機戦争だけにしろ!