悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

10 / 140
クシア編、まだ少し続きそう。


第八話【ただ一人の戦争】

『ドォォォン!!』

 

居住区内に爆発音が響く、それも一回ではなく何度も。

迎撃システムという邪魔者が居なくなった事で、数体のギャラクトロンが居住区内で破壊活動を繰り広げていた。

そんな中を、俺は物陰に隠れてやり過ごしながら目的地へと向かう。

 

「好き勝手しやがって」

 

我が物顔で暴れ回るギャラクトロンを横目で見つつ、悪態を吐きながら物陰に隠れてやり過ごす。

目指す先に有るのは最後の一隻となった宇宙船。

元々はク号作戦の生存者と共にこれで脱出する予定だったが、全員が死亡したと考えられる以上、一人で脱出するしかない。

 

「宇宙船が無事だと良いが……」

 

この最後の一隻が破壊されれば、文字通りこの星を脱出する手段は無くなる。

そうなれば、待ってるのはギルバリスによってクシア諸共データ化された後に(デリート)されるという結末だけだ。

もう、一刻の猶予も無かった。

 

「仕方ない」

 

目的地への通路を塞ぐように立つギャラクトロンを見て、俺は懐からグローブを取り出し装着する。

そして一つ息を吐いて覚悟を決めると、物陰から躍り出た。

 

「おい!!」

 

大声を張り上げれば、その音を感知したギャラクトロンがこちらへと振り向く。

そして腕の砲口をこちらに向けてエネルギーをチャージし始めた。

 

よし、これで奴らの気が格納庫方面から逸れた。俺は間髪入れずにギガバトルナイザーを掲げる。

一か八かの賭けだが、ここでやらなければ生き残れないだろう。

スゥっと息を吸い、ギガバトルナイザーをギャラクトロンへと向けて叫んだ。

 

「バトルナイザー、モンスロードッ!!」

 

『カッ!!』という閃光と共にギガバトルナイザーから光球を飛び出す。

その光球は空高く舞い上がると、やがて一体の怪獣を形作った。

 

『ズズンッ……』

 

着地したその怪獣は、クシアの生き残りにとってはもっとも忌むべき鉄の怪物、ギャラクトロンであった。

しかし、普通なら汚れひとつ無い純白の装甲に覆われているはずのそのボディは、かつてのクシアの森を思い起こさせるモスグリーンとなっており、赤く爛々と輝いているはずの目は、まるで澄み渡る空のようなブルーだ。

 

そう、これはただのギャラクトロンではない。

 

防衛隊によって鹵獲されたギャラクトロンを、俺が丹精込めて改造したものだ。

ギャラクトロン自体はクシアの技術で造られているので改造もそう難しい事ではなかったが、ギルバリスからのハッキング対策が困難だった為に操縦システムを用意せず、ギガバトルナイザーで使役するという形で操っている。

俺は今まさにこちらを攻撃をしようとしている一体のギャラクトロンを指さし、命令を出した。

 

「行けっ、“サルヴァラゴン”っ!!」

 

その言葉に従い、改造済みギャラクトロンこと『サルヴァラゴン』は目の前のギャラクトロンを殴り飛ばした。

ひとまずは怪獣の使役も上手くいったようだ。

 

けれども、俺は純粋なレイオニクスではない。実は召喚前に装着した特殊グローブにより、擬似的にレイオニクスの力を行使しているだけだ。

真のレイオニクスと違って怪獣が受けたダメージが使役者にフィードバックする事は無いものの、無理している事もあって身体的負荷が大きい。

それにギガバトルナイザー自体が負の精神エネルギーの塊である事も相まって、精神的負担も過大になっている。

正直言って無茶苦茶しんどいが、非科学的ではあるものの気合と根性で頑張るしかない。

 

陽電子衝撃砲(ショックカノン)発射!!」

 

殴り飛ばされて姿勢を崩したギャラクトロンに向かって、サルヴァラゴンが腕の砲口からビームを発射する。

形容し難い音と共に発射された青白いビームは、ギャラクトロンの強靭な装甲を容易く貫通した。

 

「よし」

 

ビームに貫かれたギャラクトロンはビクリと痙攣した後、天を仰ぎながら仰向けに倒れ込み爆散した。

まずは一体撃破か、高らかに上がる爆炎を横目に俺は周囲を見渡し、こちらを囲むように立ち並ぶギャラクトロン達を睨む。

敵の数は後4体、レイオニクスとして怪獣を操れる時間は体力的に持って10分程度。

 

「一気に片づける!!」

 

ギガバトルナイザーをギャラクトロン達へと向けると、サルヴァラゴンの目が閃光のように光り、地面を思い切り踏みしめて一気に敵へと向かって行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

かつてクシアの首都だった廃墟の都市。

荘厳な建物が並んでいたはずのその都市は、他の都市と同じくギャラクトロンによって破壊されたまま、無惨な姿を晒している。

人どころか生命体の一つも存在しないその都市の地下で、動く者が有った。

 

大きく開けた地下空間の中央に浮遊する、白い塔のような物体。

その中央には赤く輝く球体が埋め込まれている。

ゆっくりと明滅する赤い球体の前で、起動した立体ディスプレイに映像が映し出された。

 

一体のモスグリーンのギャラクトロン、そしてそのギャラクトロンに指示を出す人間。

その人間の指示を受けたモスグリーンのギャラクトロンは、送り込まれた刺客達を悉く撃破している。

 

『やはり、彼は危険ですね』

 

赤い球体から声が発せられ、それと同時に上下左右に新たな立体ディスプレイが起動する。

そこには、様々な数字とパラメーターが細かく映し出されていた。

普通の人間ならすべてを把握する事は困難だろう、だが、高度に発達したAIなら全てを理解し、把握する事が出来る。

 

そう、今やこの星の支配者となった人工知能、ギルバリスなら。

 

『彼をこの星の外に出してはいけません、惑星全域にシールドを発動します』

 

惑星最後の人類と、全ての生命の抹殺を目指すギルバリスの、最後の攻防が始まろうとしていた。




【オリ怪獣解説】

名称:サルヴァラゴン
別名:レネゲードジャッジメンター
身長:62メートル
体重:6万2千トン
出身地:惑星クシア

『概要』
防衛軍が鹵獲したギャラクトロンを、主人公ことパルデス・ヴィータが改造して製作したロボット怪獣。
パルデスの前世、つまりは宇宙戦艦ヤマト世界の技術が使われている。

改造の際、味方識別がしやすいように機体はモスグリーンへと塗り替えられているが、これはガミラスの技術を参考にした「ミゴヴェザー・コーティング」と呼ばれる対ビーム特殊コートを兼ねており、ビーム砲によるダメージを無効化、または軽減出来るようになっている。

ギルバリスによるハッキング対策の為に、搭載されたAIは外部から完全に遮蔽されて電波等による遠隔操作は不可能となっており、代わりにレイオニクスの力で使役する形で操縦する事を前提としている。

主動力機はパルデスが新たに開発した「次元波動機関」を試験的に搭載しており、試作品の為に出力は低いものの、それでも従来のギャラクトロンを超える最高出力を発揮する。

武装はギャラクトロンシャフトやギャラクトロンブレードはそのままに、腕のビーム砲は陽電子衝撃砲2門へと換装され、頭部の口内にはパルスレーザー砲4門が搭載された。
陽電子衝撃砲は威力に優れ、パルスレーザー砲は速射能力と連射能力に優れる。

ちなみにサルヴァラゴンの名前の由来は、ギャラクトロンが「ギャラクシードラゴン」の『ギャラ』と「サルヴァトロン」の『トロン』を合成した造語だったので、
逆に入れ替えて「サルヴァ+ドラゴン」を合成して『サルヴァラゴン』にしました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。