「本艦への通信を探知!!発信源は……あの敵艦の物です!!」
「……繋げ」
しばし呆然としていたクルー達の耳に、機器へと張り付いていた通信士が張り上げた声が届く。
その声にハッとした司令官は、窓の外から視線を外して振り返り、通信を接続するよう指示を出した。
何であれ、敵が話したがっているという事は、それだけ重要な話が有るという事なのだろう。
『投降であれば良いが……』と思いつつ、背後でコンソールをスワイプする通信士を横目に、その時を待つ。
「通信信号、感度良好、メインモニターへ投影します」
通信が繋がった瞬間、しばしのノイズの後に像を結ぶ画像。
そこに映し出されていたのは艦長席と思われる、禍々しく光る赤いライン状の装飾が施された漆黒の椅子。
そしてその椅子に頬杖を突いて座る、漆黒の軍服を着た一人の男。
『エスメラルダの戦艦よ、お見事な戦いぶりであった』
「パルデス・ヴィータ……」
司令官はその顔を見て血が滲むほどに自らの拳を握りしめ、こみ上げる怒りをどうにか抑える。
ベリアル銀河帝国に尻尾を振り、手先として数百億もの生命を奪った大罪人。
おそらく、この宇宙でベリアルに次いで憎まれているであろう人物が、映像越しに此方を嘲笑うかのように微笑んでいる。
『「流石は文明圏の盟主」とでも言うべきかな?やはり一筋縄ではいかないか』
「舐めてもらっては困るな、たかがこの程度、物の数には入らない」
『ほう?5000隻を「この程度」か、随分な大口を叩く』
変わらず悠然とした姿勢を崩さないパルデスに、司令官は表には出さないものの、内心で疑念を抱く。
何故こうも変わらない?普通ならこれ程の大敗に狼狽えても良いはずだ。
それにこの大規模攻勢にベリアルの姿が見えないのも気になる。
やはりこれは罠か?
先程の考えが再び脳裏を過るものの、確証は無く判断に困る。
ただでさえベリアル軍は広い宙域を支配しているのだ、その支配を維持する為の戦力も必要だろう。
合理的に考えれば、おそらくは【短期決戦で決着をつける為に、どうにか掻き集めた戦力】と考えるのが正解の筈。
「降伏したまえ、これ程の損失を出したのだ、いくら君とてもう戦いは続けたく無かろう?」
『降伏か、まあ機会が有ればしても良いかなと思っているよ』
「何?」
降伏勧告をサラリと流され、司令官は思わず絶句する。
何故、どうして、このままでは死ぬかもしれないのに。
相手の事を理解できずに、二の句を告げれぬままに口をパクパクさせていた司令官だったが、
背後で通信士が張り上げた声に、ようやく我に返る事になる。
「エスメラルダ本星から緊急通信!!本星軌道上で警備に当たっている艦隊が、所属不明の艦隊を補足!!」
「なっ、何だと!?」
「解析の結果、艦隊はベリアル軍の物と判定、数は……は?」
「どうした!!」
言葉に詰まる通信士に、司令官は続きを促すように怒鳴る。
その間にも「本当か?」「間違い無いのか?」というやり取りをしているのが聞こえるが、遠めに見ても通信士の顔が青ざめていくのが分かる。
そして通信機に繋がったヘッドホンを震える手で手に取り、泣きそうな表情で司令官に告げた。
「艦隊の中にカイザーベリアルの姿を確認、敵艦数は……」
そこで再び言葉に詰まった通信士だったが、ゆっくりと顔を上げると、絶望に染まった顔でその情報を告げた。
「確認された敵艦数は、約500万隻です」
ザワリ、と艦橋内が騒めく。
「バカな」「あり得ない」という声が漏れる中で、司令官だけが静かに、再び通信士に問いかけた。
「間違いではないのか?」
「私も、何らかの間違いかと思い確認しました、しかし……」
通信士が手元でコンソールを操作すると、メインモニターにある動画が表示された。
「これは、本星駐留の艦から送られて来た光学映像です」
司令官を含めた艦橋のクルー達は、その映像を食い入るように凝視する。
そして全員が青ざめ、思わず誰かがこんな言葉を漏らした。
「何という事だ……」
映像に映し出されていた物、それは二人の幹部と思しき部下を引き連れ、紅のマントを翻しながら威風堂々と宇宙を飛ぶベリアル。
そしてその背後、宇宙一面を埋め尽くすようにベリアルを追従する、無数の敵艦の群れであった。
『さて、そろそろ本隊がエスメラルダへと到着する頃だね』
「これが狙いかっ!!」
固定概念に囚われていた事を、司令官は後悔する。
やはりこちらの大艦隊は陽動、狙いは本星だったか、と。
「全艦ワープ用意!!本星へと帰還し防衛を行う!!」
こうなれば、目の前の敵にかまけている暇は無い。
そう思い多少の犠牲を甘受してでも、目の前の敵に背を向けてエスメラルダ本星へと戻るべくワープを起動しようとした。
が、その思惑は潰える事になる。
「ワープ装置起動できません!!」
「何?こんな時に故障か?」
「違います!!艦隊の周囲に特殊な力場を検知、ワープを阻害されています!!」
「ワープを阻害されている、だと?」
ワープの阻害、そんな事が出来る技術を持つのは……
『おいおい、まだ帰るのには早い時間ではないかね?』
「貴様がワープを邪魔しているのか!!」
『ベリアル様の邪魔をされてはたまらないからね……まあ君達が戻ったところで、阻止出来るとは思えないが』
「全艦、敵巨大戦艦に照準合わせ!!」
司令官が素早く指示を出す。
ワープを阻んでいるのが目の前の敵なら、撃破して道を開くしかない。
幸いにも、敵は戦艦一隻と怪獣一匹だ、どうにか戦艦を排除すれば撤退する事も可能だろう。
そして、全ての砲塔が敵の戦艦――自動惑星ゴルバへと向いた。
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『で?どうする気だ?』
ザウラーが怪訝な様子で俺へと聞いて来る。
傍目から見れば、今の俺は【絶体絶命】と言える状況だろう。
何せ、エスメラルダ軍の艦隊が此方へと砲門を向けているのだ。
6000隻もの戦艦、砲門の数はいかばかりか、もしも命中すれば蜂の巣どころではないだろう。
まあ、それがこのゴルバに効けば、の話だが。
『死にたくなければ、ゴルバの背後に隠れていたまえ』
『ゴルバ?この馬鹿でかい戦艦の事か?まあ分かった』
予想外に大人しく、ザウラーがゴルバの背後へと回っていく。
まあ怪獣化したとしても、流石にビーム砲の雨の中に居るのは無謀だからな。
「さて、無駄な足掻きを見せてもらおうか?」
目の前で、エスメラルダ艦から閃光が迸る。
そして、ゴルバへと緑光の雨が降り注いだ。