悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第九十六話【降り注ぐ緑光】

「本艦への通信を探知!!発信源は……あの敵艦の物です!!」

「……繋げ」

 

しばし呆然としていたクルー達の耳に、機器へと張り付いていた通信士が張り上げた声が届く。

その声にハッとした司令官は、窓の外から視線を外して振り返り、通信を接続するよう指示を出した。

 

何であれ、敵が話したがっているという事は、それだけ重要な話が有るという事なのだろう。

『投降であれば良いが……』と思いつつ、背後でコンソールをスワイプする通信士を横目に、その時を待つ。

 

「通信信号、感度良好、メインモニターへ投影します」

 

通信が繋がった瞬間、しばしのノイズの後に像を結ぶ画像。

そこに映し出されていたのは艦長席と思われる、禍々しく光る赤いライン状の装飾が施された漆黒の椅子。

そしてその椅子に頬杖を突いて座る、漆黒の軍服を着た一人の男。

 

『エスメラルダの戦艦よ、お見事な戦いぶりであった』

「パルデス・ヴィータ……」

 

司令官はその顔を見て血が滲むほどに自らの拳を握りしめ、こみ上げる怒りをどうにか抑える。

 

ベリアル銀河帝国に尻尾を振り、手先として数百億もの生命を奪った大罪人。

おそらく、この宇宙でベリアルに次いで憎まれているであろう人物が、映像越しに此方を嘲笑うかのように微笑んでいる。

 

『「流石は文明圏の盟主」とでも言うべきかな?やはり一筋縄ではいかないか』

「舐めてもらっては困るな、たかがこの程度、物の数には入らない」

『ほう?5000隻を「この程度」か、随分な大口を叩く』

 

変わらず悠然とした姿勢を崩さないパルデスに、司令官は表には出さないものの、内心で疑念を抱く。

何故こうも変わらない?普通ならこれ程の大敗に狼狽えても良いはずだ。

それにこの大規模攻勢にベリアルの姿が見えないのも気になる。

 

やはりこれは罠か?

先程の考えが再び脳裏を過るものの、確証は無く判断に困る。

 

ただでさえベリアル軍は広い宙域を支配しているのだ、その支配を維持する為の戦力も必要だろう。

合理的に考えれば、おそらくは【短期決戦で決着をつける為に、どうにか掻き集めた戦力】と考えるのが正解の筈。

 

「降伏したまえ、これ程の損失を出したのだ、いくら君とてもう戦いは続けたく無かろう?」

『降伏か、まあ機会が有ればしても良いかなと思っているよ』

「何?」

 

降伏勧告をサラリと流され、司令官は思わず絶句する。

何故、どうして、このままでは死ぬかもしれないのに。

 

相手の事を理解できずに、二の句を告げれぬままに口をパクパクさせていた司令官だったが、

背後で通信士が張り上げた声に、ようやく我に返る事になる。

 

「エスメラルダ本星から緊急通信!!本星軌道上で警備に当たっている艦隊が、所属不明の艦隊を補足!!」

「なっ、何だと!?」

「解析の結果、艦隊はベリアル軍の物と判定、数は……は?」

「どうした!!」

 

言葉に詰まる通信士に、司令官は続きを促すように怒鳴る。

その間にも「本当か?」「間違い無いのか?」というやり取りをしているのが聞こえるが、遠めに見ても通信士の顔が青ざめていくのが分かる。

そして通信機に繋がったヘッドホンを震える手で手に取り、泣きそうな表情で司令官に告げた。

 

「艦隊の中にカイザーベリアルの姿を確認、敵艦数は……」

 

そこで再び言葉に詰まった通信士だったが、ゆっくりと顔を上げると、絶望に染まった顔でその情報を告げた。

 

「確認された敵艦数は、約500万隻です」

 

ザワリ、と艦橋内が騒めく。

「バカな」「あり得ない」という声が漏れる中で、司令官だけが静かに、再び通信士に問いかけた。

 

「間違いではないのか?」

「私も、何らかの間違いかと思い確認しました、しかし……」

 

通信士が手元でコンソールを操作すると、メインモニターにある動画が表示された。

 

「これは、本星駐留の艦から送られて来た光学映像です」

 

司令官を含めた艦橋のクルー達は、その映像を食い入るように凝視する。

そして全員が青ざめ、思わず誰かがこんな言葉を漏らした。

 

「何という事だ……」

 

映像に映し出されていた物、それは二人の幹部と思しき部下を引き連れ、紅のマントを翻しながら威風堂々と宇宙を飛ぶベリアル。

そしてその背後、宇宙一面を埋め尽くすようにベリアルを追従する、無数の敵艦の群れであった。

 

『さて、そろそろ本隊がエスメラルダへと到着する頃だね』

「これが狙いかっ!!」

 

固定概念に囚われていた事を、司令官は後悔する。

やはりこちらの大艦隊は陽動、狙いは本星だったか、と。

 

「全艦ワープ用意!!本星へと帰還し防衛を行う!!」

 

こうなれば、目の前の敵にかまけている暇は無い。

そう思い多少の犠牲を甘受してでも、目の前の敵に背を向けてエスメラルダ本星へと戻るべくワープを起動しようとした。

 

が、その思惑は潰える事になる。

 

「ワープ装置起動できません!!」

「何?こんな時に故障か?」

「違います!!艦隊の周囲に特殊な力場を検知、ワープを阻害されています!!」

「ワープを阻害されている、だと?」

 

ワープの阻害、そんな事が出来る技術を持つのは……

 

『おいおい、まだ帰るのには早い時間ではないかね?』

「貴様がワープを邪魔しているのか!!」

『ベリアル様の邪魔をされてはたまらないからね……まあ君達が戻ったところで、阻止出来るとは思えないが』

「全艦、敵巨大戦艦に照準合わせ!!」

 

司令官が素早く指示を出す。

ワープを阻んでいるのが目の前の敵なら、撃破して道を開くしかない。

幸いにも、敵は戦艦一隻と怪獣一匹だ、どうにか戦艦を排除すれば撤退する事も可能だろう。

 

そして、全ての砲塔が敵の戦艦――自動惑星ゴルバへと向いた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『で?どうする気だ?』

 

ザウラーが怪訝な様子で俺へと聞いて来る。

 

傍目から見れば、今の俺は【絶体絶命】と言える状況だろう。

何せ、エスメラルダ軍の艦隊が此方へと砲門を向けているのだ。

6000隻もの戦艦、砲門の数はいかばかりか、もしも命中すれば蜂の巣どころではないだろう。

 

まあ、それがこのゴルバに効けば、の話だが。

 

『死にたくなければ、ゴルバの背後に隠れていたまえ』

『ゴルバ?この馬鹿でかい戦艦の事か?まあ分かった』

 

予想外に大人しく、ザウラーがゴルバの背後へと回っていく。

まあ怪獣化したとしても、流石にビーム砲の雨の中に居るのは無謀だからな。

 

「さて、無駄な足掻きを見せてもらおうか?」

 

目の前で、エスメラルダ艦から閃光が迸る。

そして、ゴルバへと緑光の雨が降り注いだ。

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