6000もの戦艦から発射されたビーム砲が、悠然と浮かぶ敵艦――ゴルバへと殺到する。
まさに「豪雨」と言える程にその量は凄まじく、あっという間に閃光に覆われた。
閃光から目を守る為に、一時的に艦橋のガラスは遮光機能を作動し、外部の光景を視認出来なくなる。
しかし問題は無い。遮光機能を起動していたとしてもレーダーは正常に作動している。
「レーダーで敵戦艦を補足!!」
レーダー手の言葉を聞き頷いた司令官が、砲撃手へと指示を飛ばす。
「艦首、大口径レーザー砲、発射準備!!」
「了解!!」
司令官から指示を受けた砲撃手が、コンソールを猛スピードで操作していく。
「操縦士、操艦の権限を砲撃手に譲渡!!」
「了解、操艦権限を譲渡します」
「砲撃手、権限譲渡されました」
艦長が操艦権限譲渡の指示を出し、操艦は砲撃手の手に委ねられた。
艦首に装備された『エメラルレンズ収束型大口径レーザー砲』は、固定砲である構造上、艦そのものを動かして照準を合わせる必要が有る。
まるで、波動砲のように。
「艦首方向、調整完了!!これよりエネルギーチャージに入る、砲撃手補はエメラルレンズの角度調整を急げ!!」
「了解、レーダー手とデータ共有、エメラルレンズの角度を3度補正、ターゲットへのレンズ焦点固定!!」
青く表示されたメインモニターに、レーダーから共有されたゴルバの位置を示す情報が、赤い点として表示され、そこに照準を示す緑色の十字線が被さる。
相変わらず、閃光により肉眼では補足できないが、各種センサーによって補足された情報は常に正確だ。
「エメラルエネルギー、充填!!」
砲撃手の声と共に、モニターに表示された棒状のエネルギーゲージが伸びていく。
下段、中段、上段、そして……
「エネルギー充填完了!!」
「大口径レーザー発射」
「大口径レーザー、発射っ!!」
司令官は一度艦長と目を合わせ、頷いた後に大口径レーザーの発射指示を出した。
そして指示と共に砲撃手が叫ぶように複唱し、発射スイッチを押す。
瞬間、凄まじい閃光と共に、極太の光線が発射された。
そして発射された瞬間、光線は艦の全幅を超える程に肥大し、真っ直ぐにゴルバへと向かって行く。
≪ドォォォォォン!!≫
「大口径レーザー、命中!!」
「おおっ!!」
目標に着弾した瞬間の熱量がセンサーによって記録され、着弾の判定が出た。
それをオペレーターが読み上げた瞬間、艦橋内が歓喜に沸き立つ。
最大出力で小惑星を破壊する程の兵器だ、直撃なら跡形も残らずに蒸発してしまうだろう。
「高エネルギーによる乱流で、レーダーの機能が著しく落ちています」
「うむ、全艦砲撃を止め、光学探査により目標を確認する」
司令官の指示と共に、今までつるべ撃ちの如くビーム砲を発射していた全ての艦が砲撃を止める。
それと共に艦橋の遮光機能が解除され、肉眼により艦の外の様子が分かるようになった。
意気揚々と艦の外を確認するクルー達であったが、次の瞬間に信じられない様な光景を目の当たりにする事となる。
「傷一つ、付いていないだと?」
目の当たりにした光景に、司令官は唖然とする。
艦橋の外に有る宇宙空間、そこに有ったのは、先程まで僚艦による砲撃で蜂の巣となり、更に大口径レーザーで焼き尽くされた筈の敵艦の姿だった。
『傷が浅い』という生易しいものではない、『完全に無傷』――傷一つ付いていないのだ。
「何故だ、何故なんだ!!」
『単純な話だ、君達と私とではあまりにも文明の差が有り過ぎるのだよ』
「なっ!?通信機器が勝手にっ!!」
突如として、艦橋のスピーカーから流れて来たパルデスの声。
操作もしていないのに、勝手にパルデスとの通信を繋がれた事に通信士が動揺する中で、司令官が押し出すように声を出す。
「文明の、差、だと?」
『君達は所詮、エメラル鉱石という有限のエネルギーに縛られた存在に過ぎない、そんな矮小な存在が、無限さえも可能な私に勝てる筈が無いのだ』
「無限……馬鹿な」
パルデスの言った事が本当なら、それはまさに「神の所業」である。
普段なら一笑に付すだろうその言葉も、現実に全く攻撃を寄せ付けないパルデスを見て、不安が心を過る。
『さて、考えているところ悪いが、そろそろ最後にしようかな』
「っ!?総員、警戒せよ!!」
呆然としていた司令官だったが、パルデスの宣言を聞き、すぐさま警戒体制を構築しようと動き出す。
データリンクを起動し、艦隊の陣形を整えようとしたが……
≪ゴォォォンッ!!≫
突如として轟音と共に艦が激しく揺れた。
「何が起こっている!?」
椅子に深く腰を掛け、司令官は肘掛けを掴んで必死に耐える。
だが、揺れは収まらない。それどころか上下左右前後斜めと不規則に艦が振り回される。
「重力傾斜が発生!!発生地点は、ランダムです!!」
「ランダムだと!?」
「はい!!重力傾斜の発生地点を複数個所で確認……こんなのあり得ない!!」
オペレーターの報告を聞き、司令官は顔を顰めた。
「早く態勢を立て直さねば」と考えるものの、事態は更に悪化していく。
「隊列が乱れます!!」
「重力傾斜を避けられない!!」
「ディアマン、ジルコニム、接触し大破!!」
「ダメだ、艦体の制御が出来ない!!」
混乱に陥る艦橋の中、クルー達はどうにか態勢を立て直そうと躍起になった。
操縦士は体に掛かる重力を頼りに、舵やスロットルを操作して艦の姿勢を立て直そうとする。
通信士やレーダー手は情報を共有して、どうにか陣形を立て直そうと奔走する。
が、あまりにも強力な重力傾斜は、その努力を悉く無にしていった。
先程まで綺麗に陣形を整えていた戦艦達は、重力に手綱を握られ無秩序に動き回る。
接触して大破や轟沈する艦、力点に近すぎたせいで重力に艦体を引き千切られる艦が続出し、次々と戦闘不能となっていく。
そんな中で激しい揺れに耐えながら、司令官は悟っていた。
パルデスの言葉が大言壮語ではない事を、そして……
「通信士、エスメラルダ王宮に通信を繋いでくれ」
覚悟を決め、指示を出す。
司令官は悟っていた、悟ってしまっていた。
既に己に勝ち筋は存在しないという事を。
ならば、自分に出来る最後の仕事はただ一つ。