悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第九十九話【守る者達】

突然エメラド王が発した言葉に、エメラナは目を見開いて硬直した。

そのまま数秒、無言の時間が流れた後に、ハッと我に返ったエメラナは、一直線に父王の元へと歩み寄る。

 

「何故ですか!?お父様、いや、国王陛下!!」

 

そして、先程泣いていた時と違い毅然とした態度で、そして父と呼んでいたのを国王陛下と言い換えて、猛然と抗議をした。

だが、その表情は変わらなく、感情の見えない無表情で、ただ静かにエメラナを見つめているだけだ。

 

「エスメラルダの国民は、この星に居る者だけではない、様々な理由で星外へと出ている者もおる」

「……彼らを保護しろという事ですか?」

「そうだ、お前が王族として、迷えるエスメラルダの民を導くのだ」

「そんなの、私には……」

 

突如として任せられた重責に、エメラナは戸惑う。

それもそうだろう。姉のエメルルは既に成人を迎えており、公務なども積極的に行っている。

しかしエメラナはまだ成人を迎えておらず、行った公務と言えば、パレード等で手を振ったり星外要人のパーティーで顔見せの挨拶をしたぐらいだ。

 

つまり、今の状況は政治経験皆無の娘に、突如として国王から名代、つまりは国王に準ずる権限を与えられたという異常な物である。

流石のエメラナも「これはおかしい」と訴えるが、エメラド王は頑としてこの決定を譲らなかった。

 

「決定事項だ。今からお前は王都の軍港へ行き、そこからジャンバードに搭乗してエスメラルダから脱出するのだ」

「私に、この星から逃げろと?」

 

ここでエメラナはようやく理解した、『臨時政府の代表』というのはあくまで表向きに過ぎず、実際はエメラナを星から脱出させる為の口実であると。

エメラド王は玉座から立ち上がり、ゆっくりとエメラナへ歩み寄ると、その体を優しく抱きしめる。

 

「頼む、エメラナ、お前だけでも生き延びておくれ」

「そんな……私もここに残ります!!お母様やお姉様と一緒に……」

「ごめんなさいね、エメラナ」

 

謝罪の言葉が聞こえたと共に、突如として首筋に≪チクリ≫と走った痛み。

それと同時にエメラナの意識がボンヤリと薄れていく。

気を失う直前、最後にエメラナが見たのは申し訳なさそうな表情を浮かべた姉と、悲しそうな表情を浮かべながら仕込み指輪の針を仕舞う母の姿であった。

 

「ジャンバードなら、きっと無事に逃がしてくれる筈」

「貴女だけでも、生き延びるのよ」

「お母様……お姉様……」

 

そして、エメラナの意識は完全に闇へと落ちて行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『敵艦隊、全滅しまシタ』

「案外、呆気ない幕切れだな」

 

【超大型重力場収束式ベータ砲】の高エネルギーにより、射線だった場所に走るヂリヂリとしたプラズマの光。

その向こうには、かつて艦隊と呼ばれた物の成れの果てが有った。

 

「コスモリバースの方は?」

『正常に稼働シテいまス』

「ふむ、それなら良いな」

 

コンソールを開き、コスモリバースのデータ情報を確認する。

どうやらしっかりと()()出来たようで、俺はホッと胸を撫で下ろした。

 

「しばし、夢の世界を味わっていてくれ、気高き戦士達よ」

 

俺は慈しむようにコンソールの画面を撫でる。

もう間も無く全てが始まる。自分の命を賭けた、生きるか死ぬかの大博打。

俺がもしも勝つ事が出来たのなら、彼らは選ぶ事が出来る。

 

【只人として生きるか】もしくは【悠久の刻にその身を任せるか】

 

『おい、何やってやがる!!敵を倒したのならサッサとエスメラルダへ行くぞ』

『分かっている、少々黙っていたまえ、それと……』

 

俺はザウラーとテレパシーで交信しながらコンソールを操作し、艦の操作を行う。

 

『しっかりと掴まっていたまえ、ご要望通りサッサと行ってやる』

『それってどういうっ!?』

 

ザウラーのテレパシーが途切れる。

そりゃあそうだろう、何せゴルバが急加速し始めたのだから。

艦橋内は高度な重力制御で至って穏やかであるが、外で掴まっているザウラーからすればたまったものではないだろう。

 

『止めろォォォォッ!!止めてくれぇェェェェッ!!』

『急かしたのは君自身だろう?すぐに到着するから我慢しろ』

 

全長10キロメートルの巨大な機動要塞は、瞬く間に亜光速まで加速する。

そして、ザウラーの悲鳴と共にそのままワープ空間へと突入して行く。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

一方、惑星エスメラルダ周回軌道の高度約4万キロ付近では、エスメラルダを守護する防衛部隊と、それを切り崩そうとするベリアル軍との間で熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 

「弾幕絶やすな、()ぇっ!!」

 

その場に必死に踏みとどまり、ベリアル軍へと応戦する防衛部隊。

だが、その戦力(ちから)の差は凄まじく、防戦がやっとという状態であった。

 

「エネルギーシールドを維持するんだ!!破られたら蜂の巣だぞ!!」

 

敵の戦艦、ブリガンテやレギオノイドから降り注ぐビーム砲。

500万隻にもなる艦隊と、その艦載機として搭載された無数のレギオノイドから注がれる光の雨は、全てを焼き尽くす業火でもある。

防衛部隊は艦のシールドを維持するが、目に見えて消耗が激しい。

 

「シールド消耗率70パーセント!!」

「居住区画の照明を落とせ!!メインエンジン推力を30パーセントまでダウン!!少しでも良い、シールドへエネルギーを回せ!!」

「余剰エネルギーをシールドへ回しました!!ただ、消耗率は下がりましたが、それでも尚上昇しています!!」

 

エスメラルダの最終防衛ラインを守る彼らではあるが、やはり主力部隊と比べれば、その規模は小さい。

軌道上に有る艦船200隻、それが彼らの全ての戦力であった。

それでもどうにか持ちこたえてはいたものの、やはり限界は訪れる。

 

「シールド消耗率90パーセント、もう限界です!!」

「ダメか……」

 

その場の誰もが死を覚悟した、その時であった。

 

『ディフェンスミラー!!』

 

艦隊の外に広がる宇宙空間に、無数の白銀の盾が姿を現す。

光を反射するその十字の盾は鏡のように輝いており、それを現出させた者を象徴していた。

 

「ミラーナイトか!!」

 

艦橋に歓喜の雄叫びが上がる。

艦隊を守るように出現したその盾は、ベリアル軍から放たれたビーム砲を反射して、発射した艦自身へと戻って行く。

そして、ベリアル軍の艦隊内で派手な爆発が起き、複数のブリガンテとレギオノイドが宇宙の塵となる。

 

が、その数は微々たるもので、戦局には全く変わりが無い。

 

「戦線の拡大に対応が出来ません!!防衛の網から漏れた敵勢力が、エスメラルダへと降下していきます!!」

「……そうか」

 

その言葉を聞き、防衛部隊を率いる隊長は、ある決断をした。

最早この場で全てを守るのは難しく、取捨選択をしなければならない局面に来たのだと。

 

「ミラーナイト、応答してくれ」

『聞こえています、ここは私が抑えていますから撤退をして下さい』

 

スピーカーから聞こえるミラーナイトの声に、艦長は深く帽子を被って俯くと、一つの指示を出した。

 

「私達はこの場に最後まで留まるつもりだ、代わりに君には、王都の防衛を頼む」

『しかし、それでは!!』

 

焦ったような、そしてどこか戸惑うかのようなミラーナイトの声。

それはそうだろう、もしここで自分が撤退してしまえば、艦隊を守る者が誰も居なくなる。

 

そうなれば……

 

「既に防衛ラインは突破された、降下した敵はおそらく最初に王都を制圧する筈だ。住民はシェルターへと避難したが、それでも最大の人口を誇る王都が攻撃されれば甚大な被害となるだろう」

 

だが、隊長は考えを曲げなかった。

自分達は星を……星に住まう人々の生命と財産を守る盾だ。

現状のエスメラルダが使える戦力の中では、トップクラスにあたるだろうミラーナイトをこの場所に足止めさせる事で、住民に被害を出してはならない。

 

「私達の事は良い。だから頼む、どうか住民達を守ってくれ」

『……クッ!!』

 

覚悟を悟り、ミラーナイトは無念の思いを抱きながらも反転、素早くエスメラルダの王都方面へと降下して行く。

その背を見送り、隊長は一つ息を吐いた後、部隊に所属する全ての艦に伝わるように無線を開いた。

 

「諸君、我々の最期の任務だ!!エスメラルダに手を出す不届き物を一人でも多く打ち取り、彼岸への旅路の手向けとせよ!!」

「「「「「オォォォォォォッ!!!!」」」」」

 

覚悟を決めた隊長の声に、防衛部隊に所属する隊員達は雄叫びを上げた。

一人でも守る、例えこの命が果てようとも。

 

そして、防衛部隊の最期の任務が始まるのだった。

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