悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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100話目にして、とうとうベリアル銀河帝国本編に突入です!
いつもより本文が長めなので注意。


第百話【本当の始まり】

『自動惑星ゴルバ、ワープアウトしマス』

 

アナライザーの音声と共に、ゴルバは亜空間から通常空間へとワープアウトする。

目の前には、まるで大粒のエメラルドの如く美しい緑光に輝く惑星エスメラルダ……と、それに群がるベリアル銀河帝国の艦艇群。

ただ、今現在は戦線が膠着しているようだ。

 

『エスメラルダの防衛部隊ガ予想以上に持ち堪えてイルようデス』

「それでもいくらかは降下に成功しているようだな」

 

エスメラルダの防衛部隊が予想以上の粘りを見せている事には、純粋に驚いた。

本隊と比べれば小規模なのに、よくもまあこの大艦隊相手に戦線を維持できているものである。

 

「やはり光の戦士に加担する種族は勇猛果敢と言うべきか、それとも蛮勇と言うべきか……」

 

変な感心を覚えつつ、その激闘ぶりを観戦していると、突如としてテレパシーが脳内に入って来る。

低く地を這うような声に、テレパシー越しでも分かる、息の詰まるような圧倒的な存在感。

 

カイザーベリアルである。

 

『来たようだな、パルデス、敵の艦隊はどうした?』

『全能なるカイザーベリアル陛下に楯突いた愚か者どもは、一隻残らず宇宙の塵と化しました』

『ほう……まあ貴様なら、それぐらい出来て当たり前か』

『主君の為ならば如何様にでも』

 

ベリアル様からのテレパシーに丁寧に応答し、そして再び戦う防衛部隊を見据える。

相も変わらず必死に戦う様は、実に尊敬出来るし、実に哀れでもある。

何せ、この後ベリアル様が何を言い出すのかが容易に想像出来たからだ。

 

『俺様はエスメラルダへと降りる、その間にこいつ等を始末しろ』

『了解しました』

 

此方へと視線を向けていたベリアル様は、顔を惑星エスメラルダの方へと向けると、そのまま猛スピードで降下して行く。

その後をやや遅れて、ベリアル様を追うように降下して行くアイアロンとダークゴーネ。

 

三者の姿を見送り、俺は一つ溜息を吐いた。

 

 

『本当ならお前のアピールタイムと行く予定だったが仕方ない、ここもサッサと片付けるとしよう』

『そうしてくれ……今は動けそうにない……』

 

モニターに映るザウラーを見ながらテレパシーで交信する。

テレパシー越しに返って来る声には覇気が無く、心なしか顔も青ざめているような?まあ土系の色なので判別は出来ないが。

 

『生身ワープなんてもう二度と……オェェェッ≪ブツッ≫』

 

ワープ酔いでもしたのか、というかそんな物が有るのか定かではないが、

宇宙空間でゲロを吐くザウラーの姿など見たくも無いのでモニターとテレパシーを両方とも切った。

 

というかザウラー、もしもゴルバにゲロを付けたら八つ裂きにしてやる。

 

「まあそんな事は置いておいて……」

『防衛部隊の排除ナラ、ゴルバで攻撃しマスか?』

「いや、ここはマレブランデスでそのまま行こう、手短に済ませたい」

『了解、マレブランデス、位相変換装甲解除、惑星エスメラルダへの接続を開始しマス』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

暗い闇と、それを彩る星の光に満ちた宇宙空間。

その一角が大きく歪み始める。

 

ゆっくりと焦らしながらヴェールを脱ぐかのように、歪んだ景色の中から覗く天体規模の漆黒の物体。

鋭利な五本のカギ爪を備えた、その手のようなその物体はゆっくりと、しかし確実にエスメラルダへと近づいて行く。

 

「馬鹿な……」

 

艦橋で指揮を取っていた防衛部隊の隊長は、呆然とその景色を見ている事しか出来なかった。

レーダーにも感が無く、ワープアウトの反応も無い、まるで()()()()()()()()()()()()()()()、その天体規模の巨大物体は現れた。

 

そして、軌道上に座する自分達の所へと真っ直ぐ向かって来る。

 

「敵の要塞と思しき巨大天体、此方へと接近!!」

「回避出来ません!!」

「ここまでか……遍く宇宙の誇り高き戦士達よ、私達の代わりにどうか、この悪魔に打ち勝ってくれ」

 

隊長の最期の言葉と共に、マレブランデスの表面に炎の華が咲いた。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

≪ガシャァンッ!!≫

「きゃぁっ!?」

 

微睡の中に居たエメラナは、突然の衝撃に覚醒した。

周囲を見渡せば、どうやら自分は車の中に居るらしい。

 

「一体私は何を……」

 

ボンヤリと霞む頭で、眠る前の事を思い出す。

 

ベリアル軍の侵攻、

国王の避難命令、

そして……

 

「そうでした、私は確かお母様の仕込み指輪で……」

 

どうやらあの仕込み指輪の針には、何らかの睡眠作用をもたらす薬品が仕込まれていたようだ。

思慮深い母はおそらく、ベリアル軍の侵攻を察知した時から、こうなるかもしれないという事を予期していたのだろう。

父であるエメラド王や、母であるエメルル王妃、姉のエメラル王女は既に公人の身であるが故に、民と共にこの星に残る選択をした。

だが「せめてまだ国政に関わっていないエメラナだけは」と、こうして自分を逃がしてくれたのだ。

 

「お父様、お母様、お姉様……」

 

エメラナとて、誇り高きエスメラルダ王家の一員だ、本当なら自分もこの星に残りたい。

だが父王が言った通り、星外に出ているエスメラルダ人が居る事もまた事実、それに自由に動ける身なら、どうにかエスメラルダを救う手段も見つかるかもしれない。

政務に直接関わっていないとはいえ、星外の情報も王城という環境故、耳に入って来る。

ベリアル軍に対抗するレジスタンスの話も、当然認知していた。

 

「助けを求めるにしても、まずは軍港へ行かないと」

 

エメラナは決意した。

どうにかレジスタンスの元へと行き、そこで協力を得てカイザーベリアルからエスメラルダを救ってみせると。

平坦な道のりではないだろうが、王族としてやれる事はやろうと。

 

ドアを開け、車の外へと足を踏み出す。

 

「そんな……」

 

車外の光景を見て、エメラナは絶句した。

壮麗だった街並みの一部が瓦礫へと変わり、恐怖に怯え逃げ惑う市民の悲鳴が聞こえて来る。

据えた匂いに周囲を見渡せば、街中の所々から黒煙が立ち上っていた。

 

そこではたと振り返れば、自分が乗って来た車が攻撃によって破壊されたであろう建造物の瓦礫に突っ込んでいる光景が有った。

慌てて運転席のドアノブを握り、思い切り力を入れて引っ張れば、軋む音と共に少しだけ開く。

 

「大丈夫ですか!?」

「うっ、姫様……」

 

ハンドルに突っ伏すように気絶していた運転手が、エメラナの声に気付いたのか、薄らと目を開けて顔を上げる。

背もたれに体を預けて一つ息を吐いた運転手の額からは出血が見られるが、どうやら意識はハッキリしているようだ。

 

しかし、事故の衝撃による車体の歪みからか、これ以上はドアが開きそうになかった。

これでは脱出は不可能だ。

 

「今助けを呼んできますから」

「……いや、私の事には構わず、姫様は軍港へ向かって下さい」

「何を言っているのですか!?」

 

助けを拒否するような運転手の発言に、エメラナは思わず声を荒げる。

だが、そんなエメラナを、運転手は静かに凪いだような瞳で、諭すように言い聞かせる。

 

「姫様がやるべき事は、この星の未来を繋いでいく事、私一人の命より大勢の民が貴女様を待っているのです」

「っ!!」

「あの草原の丘を越えれば軍港が見えるはず……行って下さい、私の為だと思って、早く!!」

 

エメラナはしばし戸惑う様に視線を彷徨わせた後、グッと拳を握り、決意を秘めた強い眼差しで、崩れた瓦礫の中を見据える。

そして、その中から適当な石片を手に取り、車の窓に叩きつける。

 

「たとえ大勢の民が待っていようと、目の前の民を救えないで誰を救えるでしょうか!?」

「姫様……」

 

≪ガシャン!!≫と窓ガラスが割れ、ようやく確保出来た出口からエメラナは車内へと手を伸ばし、運転手の手を握り引っ張る。

しばしの格闘の末、ようやく運転手の体は車内から引きずり出された。

 

「ありがとうございます、本当に、ありがとうございますっ……」

 

気丈に振舞ってはいたが、やはり無理をしていたのだろう運転手の涙を見て、エメラナは自分の選択を心から誇りに思った。

確かに、合理的に考えるなら自分はここで冷徹な判断を下すべきだったのかもしれない。

 

だが、はたしてそれで正しく民を導く者になれるのだろうか?

理想論と罵られるかもしれないが、それでもエメラナは一人一人を等しく大切に思う自分の心を優先したかった。

 

「無理をしないで下さい、貴方は怪我人なんですから……そこの貴方、この方を避難所まで連れて行ってくれませんか?」

「えっ、エメラナ姫様!?分かりました、この方を連れて行けばいいんですね?」

 

逃げる途中だった数人の一般市民は、思わず驚いて硬直してしまう。

そりゃあそうだろう、声を掛けられたので振り返ってみれば、そこにはこの国の王族が立っていたのだ。

おそらくは他者に話したとしても、酒の飲み過ぎを疑われるようなレベルの珍事である。

 

「避難所に着き次第、治療の方をお願いします」

「分かりました、責任を持ってこの方を安全な場所へとお連れしますっ!!」

 

おっかなびっくりしながらも、軍属でもないのに何故か敬礼をしながらエメラナの言葉を了承した市民達は、運転手の両肩を支える。

どうやら事故の時に足を負傷したようで、右足を引きずるような形になっていた。

 

「姫様、どうかご武運を」

「貴方こそ、どうかご無事で」

 

避難する運転手と市民を見送り、エメラナは軍港へと向かって走り出した。

既に車は郊外まで来ていたようで、首都の外側を囲むように存在する草原が見えている。

 

エメラナは必死になって走った。

しかしそこは道が整備されていない草原だ、生えている草花はエメラナの上質に仕立てられたドレスの裾を引っ掛け、柔らかい土は装飾を重視した靴ではとても行動しづらい。

 

「きゃっ!?」

 

暫く走り、丘の頂上付近に差し掛かろうとした所で、とうとうエメラナは躓いて転んでしまう。

必死に肩を上下させながら呼吸を整えていたエメラナは、ふと背後を振り返り、首都へと視線を向けた。

 

「ああっ!?」

 

視界に入ったのは、さながら地獄絵図とでも言うべきか。

 

普段なら夜闇に沈み、無数の照明が建物の輪郭を映し出している街が、街中から上がる炎により夕焼けの如き赤へと染まっている。

上空を見上げれば無数のベリアル軍の戦艦が浮かび、時々地上へと発射されるビーム砲が着弾する度に、腹の底に響くような爆発音と爆炎が立ち上っていく。

 

早く行かなければ、とエメラナが立ち上がろうとした時だ。

 

エメラナの目の前に、一体のロボットが立ち塞がった。




という事で、『ベリアル銀河帝国』の本編冒頭となります。
ここまで来るの、ガチで長かった…
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