悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第百一話【落日の王国】

「急げ!!」

「避難所はコッチだ!!」

 

怒鳴り声が響き、多くの人々が逃避行を続けている。

子供を背負う者、車椅子を押す者など老若男女様々な人々が、最寄りの避難所へと走り続けていた。

 

「足は大丈夫か!?」

「俺は大丈夫だから、避難所まで早く!!」

「ああ、しっかり掴まっていろよ!!」

 

そんな群衆の中で、先程までエメラナが乗る車を運転していた運転手が、両脇から肩を貸されながら歩いていた。

今歩いている道は運転手の住む住宅の近所であった為、詳しい地理は把握している。

その為、運転手の指示で、最寄りの避難所へと向かっていた。

 

「ここを右に曲がってまっすぐ行けば避難所だ」

「分かった」

 

目の前には道路の交差点、ここを曲がれば避難所の入り口はすぐだ。

シェルターの役割を持つこの避難所に入れば、当座の安全は確保されるだろう。

もう少しだ、と自分を勇気付けながら、交差点の角に立っているビルの前を曲がる。

 

「ああっ!?」

 

その瞬間、目に飛び込んで来た光景を一生忘れる事は無いだろう。

夜なのに真っ赤に燃えるように染まった空、まるで血のような赤を連想させる禍々しい色の中で、燃え盛るベリアル軍の戦艦が落下してきていた。

 

おそらくはエスメラルダを防衛する部隊の攻撃が当たったのだ。

だが運悪く、その戦艦は此方に向かって落下して来ていた。

 

「こっちに来るぞ!!」

「逃げろ!!逃げろ!!」

「間に合わない、もう駄目だ……」

 

このまま成す術無く、戦艦の下敷きになってしまうのだろうかと思い、目を瞑ったその時であった。

 

≪ガァァァンッ!!≫

 

激しい衝突音が響き、運転手達は「死んだ」と思った。

だが、襲って来るであろう痛みはやって来ず、疑問に思った運転手は恐る恐る目を開く。

 

「あれは!?」

 

自分達を庇う様に空に浮かぶ、シルバーの十字架。

その十字架が、落ちてきた戦艦をその場に押し留めている。

 

ひとまず命が助かりはしたものの、突如起こった不思議な現象に、周囲で困惑する市民達。

その中で王城で働く運転手だけが、その十字架の正体を、そして自分達を守ってくれた誇り高き騎士の存在を悟っていた。

 

「来てくれたのか、鏡の騎士よ……」

 

運転手の声に答えるように、空から降り立つ緑と銀の巨人。

その巨体に見合わない静かな着地を披露した後、その巨人は市民達の方へと振り向いた。

 

「ミラーナイトだ!!」

「助けてくれたのか!!」

「ありがとう!!」

 

この奇跡的な救出劇を起こした者がミラーナイトだと理解した市民達が、口々に礼の言葉を口にする。

ミラーナイトは黄金に輝く十字が印象的な顔を市民達の方へと向け、ホッとしたように息を吐く。

 

「無事で良かった、皆さん、早く避難所へ向かって下さい」

 

ミラーナイトの指示を聞き、一斉に行動しだす市民達。

せめて避難所に入るまでは見守りたかったが、ベリアル軍が全方位から攻めて来ている以上、この場に留まる訳にはいかない。

まだ助けを求める市民がいるかもしれない、とミラーナイトが飛び立とうとした時だった。

 

「待ってくれ、ミラーナイト!!」

 

運転手が、ミラーナイトへと向かって叫ぶ。

突然呼び留められたミラーナイトは、飛び立とうとしたのを中断し、再び視線を地面へと向けた。

 

「どうかしましたか?ひょっとして、付近に助けを求める市民が居ますか?」

「呼び留めてすまない、エメラナ姫様に関する事だ」

「姫様の身に何かあったのですか!?」

 

エスメラルダ王家の守護騎士であるミラーナイトにとって、王族の身の安否は非常に重要な事だ。

もちろん、市民の助けも怠りはしないが、それでもミラーナイト自身にとっては、生まれも容姿も異端である自分を受け入れてくれたという大恩が有る。

そして王族の中でも、特に交流の深いエメラナの身を、ミラーナイトは案じていた。

 

「今、エメラナ姫様はお一人で首都の軍港に向かわれている」

「お一人で!?何か有ったのですか!?」

 

運転手は、自分の身に起こった出来事を話す。

 

王命で星外避難を行うエメラナを、軍港へと送り届ける任務を命じられた事。

突然のベリアル軍の攻撃による影響で事故を起こしてしまい、その任務を全うできなくなった事。

運転席に閉じ込められて出られなくなった自分を、エメラナが助けてくれた事。

負傷して行動不能になった自分を市民に預け、一人で軍港へと向かって行った事。

 

「私が不甲斐無いばかりに、姫様に危険を……頼む、ミラーナイト、姫様を軍港まで安全に送り届けて欲しい」

「君が気に病む必要は無い、後の事は私に任せてくれ」

 

ミラーナイトがそう言って頷くと、運転手は繰り返し礼を言いながら、避難所へと向かって行く。

その姿を背に、ミラーナイトは額に指を当て、意識を集中した。

 

「姫様……」

 

二次元人と人間のハーフであるミラーナイトは、その二次元人の持つ特性により、鏡を利用して様々な超能力を行使する事が出来る。

鏡を通じて移動したり、攻撃を反射したり、かなり応用の利く便利な能力だ。

そして今、ミラーナイトはその能力により、周囲の鏡を通じ情報を得ようとしていた。

 

「一体どこに……っ!?」

 

数百枚の鏡を伝った末、ミラーナイトはようやくエメラナの姿を発見した。

郊外のとある一軒の家に置いてあった姿見、そこに映り込んでいたのだ。

 

今まさに、ベリアルのロボット兵が、エメラナへと無慈悲に腕を振り下ろそうとしている姿が。

 

「姫様ぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「あっ……ああっ……」

 

目の前に降り立った巨大なロボット――レギオノイドを前に、エメラナは腰が抜けたまま立ち上がる事が出来なくなっていた。

金属の塊とも言えるようなその重量を示すかのように、鈍く重々しい足音と共にエメラナの目の前へとやって来たレギオノイドは、片腕を掲げ、腕に装着されたドリルを高速回転させる。

 

「きゃぁぁぁぁっ!!」

 

恐怖のあまり悲鳴を上げるエメラナ。

そんなエメラナへと向かって無慈悲に、ドリルは振り下ろされた。

 

≪カッ!!≫

 

しかし、レギオノイドのドリルがエメラナへと到達する直前、

眩い閃光と共に、エメラナが装着していたティアラから閃光が迸る。

 

「ハァッ!!」

 

その閃光の中から、一人の巨人が飛び出してきた。

そう、自らの能力により、鏡を伝って瞬間移動して来たミラーナイトである。

間一髪の所でエメラナとレギオノイドの間に割り込むように飛び出したミラーナイトは、その勢いのままにレギオノイドへとドロップキックを当て、エメラナから引き離す。

 

「フッ!!」

 

格闘戦へと移行したミラーナイトは、振り下ろされるレギオノイドのドリルを時にはガードし、時には弾き飛ばして捌いて行く。

そして、回転するドリルを白刃取りの要領で受け止めた瞬間、レギオノイドに腹を蹴り飛ばされて吹き飛んだ。

 

「テヤッ!!」

 

しかし、流石は王家に仕える守護騎士と言ったところか、ミラーナイトは敵の攻撃を全て織り込み済みだった。

そのまま空中で静止したミラーナイトは、両手を前方へと突き出し、機関銃の如き光弾の雨――ミラーナイフを浴びせる。

全身を無数の光弾で貫かれた哀れなレギオノイドは、脱力したように機能を停止させると、後ろへと倒れて爆発四散した。

 

「ミラーナイトっ!!」

 

地上に降り立ったミラーナイトは、自分の名を呼ぶエメラナへと無言で手を翳す。

その瞬間、エメラナは閃光と共に溶けるようにその場から消え、着用していたティアラだけが草原にパタリと落ちた。

 

「姫様、ご無事で……」

 

切実な感情が滲む声音(こわね)で、ミラーナイトは祈るように呟く。

今頃、エメラナはジャンバードの艦内に有る鏡へと瞬間移動した筈だ。

ジャンバードなら、きっとベリアル軍の包囲網を抜けて、この星から無事に脱出する事が可能だろう。

 

ゆっくりと立ち上がったミラーナイトは、燃え盛る王都へと視線を移す。

 

轟々と燃え盛る爆炎の中、平和と安寧を享受していた街を悉く蹂躙し、行進する巨人達。

無数のダークロプスとレギオノイド、そしてその前を悠々と歩く、この惨劇を起こした簒奪者の姿。

 

暗黒参謀ダークゴーネ

鋼鉄将軍アイアロン

 

そして……

 

先頭を歩く、豪著なマントに身を包んだ侵略者の首魁【銀河皇帝カイザーベリアル】

 

ミラーナイトはその姿を一目見て悟った、おそらく自分の実力では敵わない相手だと。

しかし、誇り高き鏡の騎士として己の信念を曲げる事は絶対に無い。

「せめて刺し違えてでも」とカイザーベリアルへと戦いを挑もうとした時であった。

 

≪ゴォォォォッ!!≫

 

「何だ!?」

 

突如として、上空から落下してくる物体。

巨大な柱のようなソレは、大気圏での赤熱をそのままに王都へと落下しようとしていた。

近づく毎にハッキリと分かるその巨大さは、王都そのものを押し潰して余りある程だ。

 

「いけない、王都には市民達が!!」

 

咄嗟に飛び立ったミラーナイトは街中へと着地すると、王宮とその周辺をカバーするように、巨大な鏡のシールド――ディフェンスミラーで覆いつくす。

そして、ディフェンスミラーが完全に発動した瞬間だった。

 

≪ガァァァァァンッ!!≫

 

ディフェンスミラーと落下して来た巨大な柱が衝突し、凄まじい轟音と衝撃波が周囲に走る。

その凄まじい光景に恐怖を感じた市民達の悲鳴が響く中、ミラーナイトは必死になってディフェンスミラーの維持に努めた。

 

「ぐっ……ううっ!!」

 

衝撃のあまり入ってしまう罅割れをその都度直しつつ、継続的にエネルギーを供給する。

その凄まじい負荷に呻き声を上げながら、それでも必死になって足掻いているその背後に、悪魔は音も無く降り立った。

 

≪ズシャッ≫

「あっ、ぐあっ……」

 

ディフェンスミラーの維持の為に一歩も動けない中、突如として首筋に走った激痛と、体内に何かを流し込まれる凄まじい不快感。

思考が段々と朧気になりながらも、ミラーナイトは背後へと視線を送り、下手人を鋭く睨みつける。

 

「貴様っ」

 

下手人――カイザーベリアルは、深い笑みを浮かべながら、ミラーナイトの耳元へと悪魔の囁きを流し込んだ。

 

「俺の(しもべ)になれ……フッフッフッ、ハァーッハッハッハッ!!」

 

燃え盛るエスメラルダの地表に、悪魔の高笑いが響く。

今この瞬間、エスメラルダはカイザーベリアルの手に落ちたのであった。




という事で、ベリアル銀河帝国のアバンタイトル部分です。
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