悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第百二話【姫と武人の逃避行】

『マレブランデス、惑星エスメラルダとノ接続を完了しまシタ』

「さて、ここまでは予定通りだな」

 

アナライザーからの報告を聞きつつ、俺は窓の外に見えるエスメラルダへと視線を移す。

 

巨大な手のような形をしたマレブランデスは、まるでエスメラルダを掴むようにして、その爪を食い込ませてアンカーのように自らを固定している。

掌に当たる部分からは無数の触手のようなエネルギーパイプが伸びて行き、地面へと突き刺さると、惑星エスメラルダを構成するエメラル鉱石のエネルギーを吸い込んでいく。

 

エメラル鉱石から生まれるエネルギーには、様々な用途が有る。

それこそ、地球で例えるなら石油に当たるような存在だが、エネルギー密度は段違いだ。

宇宙船という数百トンもの金属の塊を宙に浮かせ、次元を捻じ曲げてワープすら可能にする。

化石燃料としては、破格の性能である。

 

『エネルギーの搬出作業ヲ開始しマス』

「振り分けは……ダークロプス向けを増やすべきか」

 

窓の外へと向けていた視線を外し、俺は近場に有ったコンソールを操作する。

そして、銀河帝国の兵器の製造状況を表示させた。

 

生産設備的には既に十分な物が揃っているものの、やはり構造が複雑な分ダークロプスの製造は遅れている。

ここはより資源を多く振り向けて、より大量生産を進めるべきか、いざとなれば()()()()()()()()も可能ではあるけど。

 

というか、あまりにもハッスルし過ぎたのがいけなかったのか、ベリアル様からロボットの生産ノルマを1000万(十倍)に増やされたんだよね。

マレブランデス(これ)を作る事が出来たのなら、増やしても問題無いだろう」とか……

 

問題大アリだよ!!

 

「それに加えて並行宇宙に有る光の国も見つけないといけないし、それに……」

 

俺は生産ノルマの事を棚上げし、別のデータを呼び出した。

表示されたのは立体映像でクルクルと回る、一本の棒状の道具だ。

右隅には【GIGA ETERNALIZER】の文字。

 

そう、ベリアル様に頼まれた、例の【ギガバトルナイザーより凄い武器】である。

 

「興味本位で製作してみたが、ベリアル様の手に渡ったらどんな事態になるか……」

 

想像して、ブルリと体を震わせる。

「これだけは隠しておかなければならない」と考えた俺は、ひとまずこの武器――【ギガエターナライザー】のデータを厳重にロックして仕舞いこむ。

ベリアル様に開発状況を聞かれたら、まあ適当に誤魔化せば良いだろう。

 

データが俺以外誰にもアクセスできない領域に仕舞われた事を確認し、とホッと胸を撫で下ろした時、アナライザーからとある報告が入った。

 

『本艦に何者かガ接近、メインモニターに映しマス』

「ん?一体誰が……」

 

数瞬の後にメインモニターに光学映像が映し出される。

そこにはエスメラルダの方から此方へと向かって来る機影が映っている。

 

『ズームしマス』

「頼む」

 

米粒の如く映る小さな機影が、ズームにより拡大されていく。

そしてその機影がハッキリと見えるようになった所で、俺はハッとした。

 

「あれは!?」

 

その機体はまるで羽を伸ばした猛禽類の如く伸びやかで、レッドとホワイトのツートンカラーに、ゴールドのワンポイントが特徴的なデザイン。

 

俺はこの機体に見覚えが有った。

ベリアル銀河帝国の劇中で、エメラナ、ナオ、そしてラン(ゼロ)が搭乗していた宇宙船にして、人格をも備えた高度なAIを搭載し、王家に代々仕えて来た鋼鉄の武人(ロボット)

 

「ジャンボット……いや、今の形態はジャンバードと呼ぶべきか」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『姫様、こちらにお座りください』

「ありがとう、ジャンバード」

 

所々薄汚れた白いドレスを引きずり、憔悴した表情でエメラナはブリッジの中央に配置されたソファー型のシートへと腰かける。

間一髪の所をミラーナイトに助けられ、そのミラーナイトから発せられた光を浴びた瞬間、気付いた時にはジャンバード内に有る化粧室の鏡の前に居た。

どうやら彼の技の一つである【ナイトムーバー】により、ここへと転送されたようだ。

 

『重力制御を行うので揺れは少ないと思いますが、念の為、安定飛行まではシートから立ち上がらないで下さい』

「分かりました」

 

ブリッジのメインディスプレイが起動し、格納庫内の映像が映し出される。

正面のゲートが開いて行き、発進口が形成された。

 

『ジャンバード、発進!!』

 

エレベーターが下に降りたような軽い浮遊感と共に機体が浮き上がり、次いで軽い力で襟首を引っ張られたかのような感覚と共に、目の前のディスプレイに映し出された光景が凄まじい速度で後ろへと流れて行く。

あっという間に地下格納庫から出たジャンバードの機体は、そのまま夜空を空高くへ上昇して行く。

 

『現在、まだ敵の包囲網は完全ではありません。その間を縫って、星外へと脱出します』

「貴方にお任せします、ジャンバード」

『了解!!必ず姫様をお守りし、任務を全ういたします』

 

会話している間にもジャンバードの機体は急上昇していく。

その速度は音速を優に超える物で、上昇の角度もかなり急な物であるが、王族の専用機であるジャンバードには他の艦には無い強力な重力制御装置が搭載されており、

AIによる高度で細やかな制御も相まって、他の艦と比べても機内の快適性は頭一つ飛び抜けた物だ。

 

『只今、熱圏を通過中、エスメラルダ大気圏から宇宙空間へと突入します』

 

宇宙空間へと来た事で、先程よりも星がより綺麗に見える。

そしてジャンバードの機体が旋回し、エスメラルダが視界に入る位置になった瞬間、エメラナは息を呑んだ。

 

「そんな、酷い……」

 

美しい緑色の惑星は、まるで巨大な手のような形をした天体規模の構造物に、掴まれるようにして囚われていた。

そして、星を包囲する無数の軍艦の群れ。

 

目を覆いたくなるようなその惨状は、今まさにエスメラルダが陥落した事を如実に示していた。

 

「……」

『姫様……』

 

あまりの光景にショックを受けたエメラナは、顔を手で覆ったまま、その場に崩れ落ちる。

それを見たジャンバードは、どう声を掛ければ良い物かと悩むが、掛ける言葉が浮かばずに沈黙した。

 

が、その沈黙も長くは続かない。

 

『姫様、敵の反応を感知しました、シートへと戻って下さい』

「……はい」

 

よろよろと立ち上がったエメラナは、青い顔のまま再びシートへ戻り、腰を下ろす。

血の気の引いたその顔を見てジャンバードは心配したが、今はその事を気に掛けている暇は無かった。

 

『光学センサーにより敵艦影を確認、全長約十キロ、これは……』

 

その姿を確認したジャンバードは、ある事に気付いた。

出発直前にエスメラルダの王宮から送られて来た主力艦隊壊滅時のデータ、そのデータの中にコレと全く同じ姿が有った。

 

『少し揺れるかもしれません、しっかりと掴まっていて下さい』

 

ジャンバードはエメラナに注意を促し、そのまま敵艦へと向けて飛行して行く。

既に他の航路はベリアル軍の戦艦によって封鎖されている。

外宇宙へと飛び立つ為には、この敵艦の傍を抜けて行くしかない。

 

そう覚悟したジャンバードは、眼前で悠々と宇宙空間に浮かぶ敵艦――自動惑星ゴルバへと接近して行った。

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