悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第百三話【姫と技術官僚】

「さて、どうするか」

 

近づいて来るジャンバードを前に、俺は顎に手を当て右往左往する。

すでに補足されている以上、位相変換装甲でステルス化して誤魔化すにはもう遅いし、かと言ってここを離れる訳にもいかない。

 

まあ、ゴルバならジャンバードからの攻撃は難無く耐えられるから問題無いだろうが……

 

「だが、なあ……」

 

ううむ、と唸りながら、俺はこの状況をどうすべきかと考える。

 

『ベリアル銀河帝国の幹部』という立場を優先するなら、迎撃一択だろう。

しかし、それは論外中の論外である。

万が一それでジャンバードが沈んでしまえば、エメラナ姫も運命を共にする事になる。

そうなれば、一応は原作ベースで進めている今後の計画に、大幅な狂いが生じてしまうだろう。

 

かと言って「見逃す」という選択肢も難しい。

ベリアル様、ダークゴーネ、アイアロンの三人はエスメラルダへと降りているし、周囲の艦艇やロボット兵器は全て俺の制御下に有るから、その点に関しては問題無いだろう。

しかし、今ここにはザウラーが居るのだ。もしこの事をベリアル様にチクられてしまえば、間違いなく疑われるだろう。

 

さて、本当にどうしよう……と思いながら、俺は光学カメラを起動して、艦周辺に居るであろうザウラーの様子を見た。

 

「……は?」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

『全砲門を開放、これより、敵の包囲網を突破する!!』

 

ジャンバードはそう宣言しながら、凄まじいスピードで敵艦へと向かって行く。

壊滅した艦隊からのデータが正しければ、コルベット艦程度の火力では太刀打ち出来ないだろう。

その為、ジャンバードは『敵を撹乱させた上での逃げ切り』に活路を見出した。

 

チャンスはおそらく一度きり、素早く逃げなければ重力に囚われるかもしれない。

 

そして敵艦との距離が500キロメートルまで接近した時だった。

 

『敵艦に動きが?』

 

最早目と鼻の先にまで近づいて来たところで敵艦がゆっくりとした動きで移動を始める。

やはり相手も既にこちらには気づいているのだろう。

おそらくは攻撃態勢に移行しようと居ているのだろうと思い身構えた。

 

が、そのジャンバードの予想は裏切られる事になる。

移動を始めた敵艦は、ジャンバードの進行方向を開けるように移動したのだ。

まるで道を開けるかのように。

 

「通してくれるのでしょうか?」

『罠の可能性も有ります、姫様は引き続き座席に座っていて下さい』

 

砲を敵艦へと向けながら、ジャンバードは警戒しつつ敵艦へと更に接近して行く。

見たところ砲のような物は見当たらないが油断はできない。

主力艦隊が殲滅された時はエネルギー砲のようなものを撃っていたようだし、それに奴は重力を自在に操れるのである。

 

そして、敵戦艦まで50キロメートルまで近づいた時であった。

 

『姫様、テキストメッセージを受信しました。発信元は目の前の敵艦からです』

 

ジャンバードは自分へと向けられた通信を受信する。

それは文字のみのメッセージで、ウイルスを仕込まれている可能性を鑑みてスキャンしたものの、結果は正常だ。

 

「見てみましょう、お願いします、ジャンバード」

『了解、メッセージをメインモニターへ投映します』

 

少しの間を置いて、メインモニターへとメッセージが投影される。

 

「これは……?」

 

メッセージの内容は、ただ一行の短文であった。

それを見たエメラナは困惑し、言葉を詰まらせるが、しばし後にジャンバードへと指示を出す。

 

「行きましょう、ジャンバード」

『しかし……』

「どの道、ここを抜けないと脱出は出来ないのです、一途の望みに賭けましょう」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

ゴルバの目の前まで来たジャンバードは、武装を此方へと向けたまま宇宙空間を突き進んで来る。

そしてとうとう至近距離を通過し、そのまま宇宙空間へと旅立って行った。

 

『ジャンバードのワープを確認シマした』

「行ったか……」

 

俺は一つ溜息を吐くと、ぐったりと艦長席へと腰を掛ける。

座り心地に拘った座席は優しく体を包み込み、緊張に凝り固まっていた体を優しく解してくれる。

 

『ドウゾ』

「ありがとう」

 

しばらくぼんやりしていると、いつの間にか、アナライザーがワゴンを押して目の前に来た。

ワゴンの上部には、茶筒、湯気を立てる銀のポットと透明なガラスポット、手持ち式の茶こし、白磁の茶杯が乗せられている。

 

『今日のお茶ハ福建省産の武夷岩茶デス』

「ありがとう」

 

俺は茶筒から取り出した茶葉を匙で二杯ほど透明なガラスポットへと入れ、銀のポットに満たされていた熱湯を茶葉の上へと注いでいく。

そしてそのままポットのふたを閉め、抽出時間を待つ。

透明のポットの中身は良く見え、透明な湯がジワリと茶色へと染まっていき、まるで金木犀のような香りが周囲へと漂う。

 

その香りに花を擽られながら、俺は今後の事を考える。

 

エメラナを見逃し、そして()()()()()()()()を送った。

ベリアル銀河帝国の本編が始まった以上、今度は店じまい(帝国終焉)の準備をしなければならない。

今回送ったメッセージは、その店じまいの為の(たね)とでも言うべき物だ。

 

今後の為に正義側にもコネを作らないといけないしね。

 

「そろそろか……」

 

十分に抽出されたのを確認し、俺はガラスポットを右手に取り、茶杯の上に乗せた茶こしへと茶を注いでいく。

微小な茶葉が茶こしの網に引っかかり、茶色の液体だけが白い茶杯を満たしていく。

と、同時に、先程よりも濃い香りが周囲へと漂う。

 

「良い香りだ」

 

一頻り香りを楽しんだ後、俺はゆっくりと、熱い茶を口に含む。

花の濃い香りと共に、僅かな甘露が舌を擽り、満足感と共にざわついていた精神が鎮静していくのを感じる。

一口二口と、高貴な香りを楽しみ、俺は数少ない至福の時間を過ごす。

 

『んぁ?今何時だぁ?』

「……ふぅ」

 

そんな時間を台無しにするかの如く、脳内に直接伝達されて来るテレパシーに、俺は苛立ちを誤魔化すように一つ溜息を吐いた。

 

『随分をよくお眠りだったようだな、もうエスメラルダでの要件はほぼ済んだぞ、ザウラー』

『おお、もう侵略が終わったのか?随分と早いな』

 

呑気に返して来るザウラーに、更に苛立ちが増すのを感じるが、まあ良いだろう。

コイツ自身は全く気付いていないが、このタイミングで惰眠を貪ってくれていたのは中々のファインプレーだった。

何せそのおかげで、こうしてジャンバードを逃がす事が出来たのだから。

 

俺は内心でザウラーに免罪符を出しつつ、二杯目の茶を堪能しながら苛立ちを沈めていく。

 

『今から貴様の帝国軍入りの許可を得る為、カイザーベリアル様に謁見する。失礼の無いように』

『マジかよ……』

 

モニター越しに青ざめるザウラーの顔を見て、俺は少し留飲を下げた後にザウラーとのテレパシーを切る。

そして、ウルトラの星、そして光の国へと想いを馳せる。

 

前世での記憶によれば、その大きさは地球の数十倍は有る巨大な星だ。

宇宙戦艦ヤマトの劇中に登場したガミラス星と同様に、星の内側の大地と、その上空の外殻大地から構成される二重構造の惑星。

そこに住まう知的生命は、元々は人類とほぼ同じ種族だったのだが、数十万年前に母星を照らす太陽が爆発して失われ、寒冷化により絶滅の危機に瀕してしまう。

その後は紆余曲折の末に、その代わりとなるプラズマスパーク(人工太陽)を作ったところ、そこから発せられたディファレーター光線により進化し、超人種族である『ウルトラ族』として成立する。

 

「いつになったら見つかる事か」

 

何せマルチバースは広大だからな。

幾千、幾万ものパラレルワールドが広がっているのだ。

 

が、既に万単位でダークロプスの生産は行われている為、人海戦術で虱潰しに探していけば見つかる事だろう。

 

『自動惑星ゴルバ、エスメラルダへと降下しマス』

「ああ、頼む」

 

アナライザーからの報告に対して返答をすると、ゴルバはゆっくりとエスメラルダへと降下して行く。

俺は三杯目の茶を口に含みながら、今後の方針を考えていった。

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