「……報告は以上です」
「承知した、もう下がっても良いぞ」
「失礼します」
ペコリと頭を下げながら退室する部下へと微笑みを向けていたゾフィーは、扉が閉じると同時にその微笑みを消し、背後の窓の外を静かに眺める。
ここは光の国の首都に燦然と佇む宇宙警備隊本部、その最上階に位置する隊長執務室だ。
眼下には延々と広がる光の国の街並みが見え、その中には数えきれないほどの超高層ビルも聳え立っているが、空中に浮かぶ警備隊本部からすれば、どの建造物も目線の下に位置している。
《コンコン》
部屋の扉をノックする音に、ゾフィーは眼下の街の公園で遊ぶ親子から視線を外し、時計に表示された時間を確認した後に再び口元に笑みを浮かべる。
だがその笑みは先程よりも遥かに自然で、穏やかな物だ。
何せ、扉の前に居るであろう人物は、ゾフィーと近しい間柄なのだから。
「失礼する……します」
「ふふ……今この場には私しか居ない、無理してそんなに畏まらなくても良いよ」
「じゃあ、お言葉に甘えさせて貰うぜ」
崩れた言葉を慌てて敬語で言いなおそうとするその人物に、微笑ましい光景に笑みを浮かべながらゾフィーが助け舟を出してやると、崩した言葉の返事と共にガチャリと扉が開いた。
扉の向こうから入って来たのは、この国では珍しい赤と青のツートーンの体色を持つ戦士。
遠目に見ても分かる、細身ながらも鍛え上げられたその肉体は、その若さからは想像も出来ない歴戦の武勇を感じさせる。
「よく来てくれたね、ゼロ、時間を割いてくれて礼を言うよ」
「別にそんな手間は掛かってないから良いぜ、暇だったしな」
金色の鋭い眼光から、分かる人には分かる程度では有るが穏やかな雰囲気を漂わせつつ、ゼロは遠慮無しに応接セットのソファーに腰を掛ける。
そんな奔放な様子に気を害する事も無く、ゾフィーは手を一振りして念力を作動させ、部屋の窓を曇りガラスへと変化させた。
ウルトラマンゼロ、栄光のウルトラ6兄弟の一員であるウルトラセブンの実子。
宇宙拳法の達人であるウルトラマンレオ、並びにアストラからの指導を受けた、卓越した宇宙拳法の使い手。
頭部の二枚の
そんな姿から、付いた異名は『若き最強戦士』
実際、ウルトラ6兄弟やウルトラの父ですら倒せなかったウルトラマンベリアルの討伐を成功させており、その名に恥じない実力を持っている。
「どうしたんだ?隊長」
「……いかんな、悪い癖が出てしまったようだ、気にしないでくれ」
突如、無言でジッと見つめられた事により困惑したゼロから声を掛けられ、ゾフィーはハッと我に返る。
目の前の相手を分析する事は戦闘では役に立つものの、今ではふとした拍子に日常でもやってしまう、いわゆる職業病という奴になってしまった。
これではいけないと自分の行為を自省し、ゾフィーはゼロの正面へ向かい合う様に、自身もソファーへと腰を掛けた。
「で?隊長がわざわざ呼び出すって事は、よっぽど重要な事なんだろ?」
「ああ、先日の件で気になる事が有ってね」
「先日って……あのダークロプスの件か?」
「そうだ。本当はウルトラ兄弟同席の上で話したかったのだが……」
「忙しいんだろ?親父以外は星外に出てるし、その親父も光の国に居るみたいだけど忙しそうだし」
言葉を交わし、ゾフィーは懐から緑色のクリスタルでできたタブレットを二枚取り出す。
そして、一枚をゼロへと渡し、もう一枚をゾフィーが操作し始めた。
ゼロが手元に目を落とせば、手に取ったタブレットの画面が忙しなく動いており、おそらくはゾフィーのタブレットと連動しているのだろうと悟る。
「実は、異次元で君が出会った『パルデス・ヴィータ』という人物について、少々話したい事が有るんだ」
「パルデス・ヴィータか……」
ゾフィーがタブレットの手を止めたのを見たゼロは、上げていた顔を再び手元のタブレットへと移す。
そこには、ゼロが書いた報告書の文面が表示されている。
異次元空間へと至った経緯
惑星チェイニーの発見
サロメ星人との戦い
ニセウルトラ兄弟
書類仕事が苦手なゼロがどうにかこうにか仕上げたその報告書は、いつの間にか綺麗に章ごとに纏まっており、
それを一見したゼロは何処かばつが悪そうに視線を逸らす。
「……手間掛けさせちまったみたいで悪いな」
「いや、気にする必要は無いよ、まだ新人なんだから書類仕事の方はこれから慣れて行けばいいさ」
「ああ」
再度タブレットへと目を向けたゾフィーが手を動かすと、報告書がスクロールされていく。
そしてとある項でスクロールは止まった。
【異次元空間で出会った異次元人について】
「正直、最初は君からの報告には耳を疑ったよ」
「ふう」と溜息を吐きゾフィーは目の前の報告書を眺める。
ゼロが異次元空間で偶然にも邂逅した異次元人『パルデス・ヴィータ』
一見すると普通の人間に見えるのだが、レイブラッドとただならぬ関係を築いていたり、惑星破壊兵器を保有していたりと、下手をすればヘロディアよりも危険とも思える人物だ。
なのに結局、本人に話を聞く前に異次元世界へと分かれてしまい、何ともモヤモヤとした結果で終わったのである。
ゼロ本人としても、あの出来事は実に不服であった為に、強く記憶に残っている。
「で?話したい事って、いったい何なんだ?」
思い出した記憶に多少のイラつきを覚えたゼロは、このままではダメだと思い本題へと軸足を戻す。
そうすると、ゾフィーはタブレットへと黙って視線を落とし、暫く無言の時間が続いた。
しびれを切らせたゼロが、再び話しかけようとした所で、ゾフィーはやっと言葉を口にする。
「……君が波動砲と呼んだ兵器、それを作ったのがパルデス・ヴィータって事で良いかな」
「報告書の通りだ、それが何か有ったのか」
「このデータを見て欲しい」
ゾフィーが空中に手をやると、その手の周辺にタブレットと同色の緑色の立体ディスプレイが開いた。
ディスプレイの画面上では3Dの青い棒グラフが山あり谷ありの稜線を描いている。
「このデータは、チェイニーで波動砲が発射された際のエネルギー勾配だ、そして……」
画面上の青い棒グラフの横に、今度は赤い色のグラフが並んで表示される。
細かな違いは有るものの、そのグラフの稜線は隣に位置する青い棒グラフとほぼ同じ形状をなぞっている。
「この赤い方のデータは?」
ゼロが疑問を口にしたため、ゾフィーは難しそうな顔で、ある衝撃の事実を告げる。
「数千年前『しし座L77星』が爆発・滅亡した時に観測されたエネルギー勾配のデータだ」