悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第百十三話【ある兄弟】

宇宙の片隅に有る『惑星アヌー』

 

地表の大半が砂漠地帯となっている土色の星。

奇跡的と言えるほどの確率により一応は人類が生存可能な大気を持つものの、荒涼とした大地を見る限りは居住にそぐわない惑星に見える。

 

だが、そんな星にも逞しく生きる大勢の人々が居た。

 

「兄貴~っ!!」

 

数世代前にこの星にやって来て定着した人類にして、今ではエメラル鉱石を求めてアヌーのあちこちを駆け巡る開拓キャラバン。

そのキャラバンによって新しく開坑された露天掘り鉱山の一角で、一人の少年が膨らんだ白い頭陀袋を肩に掛けて歩いていた。

周囲をキョロキョロと見渡していたその少年は、一人の青年の姿を見つけると声をかけ、手を振りながら近寄っていく。

 

「ここに居たんだね、はい弁当」

 

その少年の声に気付いた青年――ランは、走り寄って来る少年――ナオの姿に気付くと、こちらも満面の笑みを浮かべて歩み寄っていく。

 

「ありがとな、ナオ」

「もう、子ども扱いするなよな!!」

 

ランに頭をクシャクシャと撫でられたナオは、文句を言いながらも頭陀袋に付着した砂埃を払い、ペラリと蓋を開けて中から円筒形の三段の弁当箱と、銅の水筒を取り出してランに手渡す。

そしてナオ自身も同様のセットを取り出し、二人で採石場の隅に転がっている、ちょうど良い高さの岩へと腰を掛けた。

 

「「いただきます」」

 

食前の挨拶を二人で言うと共に、ナオが二人分の箸を取り出して一人分をランに渡す。

パカリと弁当箱の留め金を外して蓋を開ければ、中はまるで宝箱のようであった。

 

「うめーっ」

「やっぱり婆ちゃんの弁当は最高だよな」

 

弁当の美味しさに、二人の箸の進みは早い。

祖母が手ずから仕込んでくれたボリューム感満点の弁当は、肉体労働に従事する兄弟にとっては非常に有難い物であった。

 

一段目には色とりどりのおかずが入っていた。カリッとした唐揚げや仄かに甘い卵焼き、パリッとしたウインナーの横には人参とアスパラのバターソテーが隙間を埋める。

二段目にはふっくらと盛られた白米が詰まっており、まるで炊き立てのように湯気を立ち昇らせている。

最後の三段目にはコンソメスープが入っていた。こちらもまだ温かく、コンソメ特有の香味野菜の香りが食欲を増進させる。

 

「冷たい!!」

「あ~生き返る……」

 

更に水筒からコップに中身を注げば、そこには水面に氷が漂うキンキンに冷えたお茶が。

コップを口元へと持って来て思い切り飲めば、冷えた液体が食道を駆け下りていく冷涼な感覚と、鼻から抜ける素朴な草の香りが一種の清涼感を与えてくれる。

直射日光に照らされ隠れられる日陰も少ないこの場においては、祖母が淹れてくれたこの冷たいお茶も、これまた非常に有難い物だ。

 

「これで午後からも働けるな」

「うんっ!!」

 

そう言って互いに笑い合うランとナオの二人。

 

両親が亡くなり、祖母の家に厄介になっている二人にとって、エメラル鉱石を産出する鉱山での労働は生命線だ。

ランは鉱山での採掘作業に従事し、ナオは持ち前の手先の器用さを活かした重機や機器類の整備を仕事とし、兄弟揃って必死になって働いている。

 

しかしこうして楽し気に喋っている姿は、普通の家庭の兄弟と何ら変わらない。

時には喧嘩をする事は有るが、それでも仲良く逞しく、辛い事も多々有れど日々を生き抜いている。

 

「ナオ、それにランも、相変わらず兄弟仲が良いな」

 

そんな二人が喋りながら食事を続けていた所に、突如として第三者の声が割り込む。

箸を止めて見上げれば、そこには自分達と同じく白い民族衣装を着た、一人の青年の姿が有った。

 

「ゼクダスさん」

「何でココに?」

「村長がナオを呼んでいた」

「あー、また重機の故障か……」

 

「食べ終わったら行くって伝えといて」と言うと、ナオは弁当をかき込み始める。

だが、急いで食べると碌な事が無いというのは、古今東西どこにでも有る話だ。

案の定、ナオは白米を食べている最中にゲホゲホと噎せ始めた。

 

「村長は『多少遅くなっても良い』と言っていた、無理するんじゃない」

「ゲホッゲホッ、あっ、ありがと……」

 

噎せているナオの横に座って水筒を渡してやり、その背を優しく撫でるゼクダス、

そんなゼクダスに礼を言いながら、涙目のナオは凄い勢いで水筒の茶を喉へと流し込んで行く。

 

「人間は脆いんだ、もっと気を付けろ」

「なんだそれ?まるで自分が人間じゃないみたいな」

「……細かい事は気にするな」

 

ようやく咳が収まったナオがゼクダスと冗談交じりに談笑する様子を、隣に座っていたランはボンヤリと眺める。

 

「俺の顔に異物でも付いているのか?」

 

しばらくはナオと喋り続けていたゼクダスだったが、自分への視線に気づいたのか、首を傾げながらランへと視線を向ける。

その顔を見返しながら、ランは目の前のゼクダスという青年について考えを巡らせていた。

 

【ゼクダス・ロプロー】それが彼の名前だ。

 

本人の話によれば元々はとある惑星に住む一般市民であったが、星間輸送の職に従事していた時に母星をベリアル軍に制圧され、帰る事が出来なくなってしまった。

そして惑星を転々としている内にアヌーへとやって来て、このキャラバン隊へと身を寄せたという波乱万丈な身の上の男である。

多少不愛想なのは玉に瑕だが、その温厚で実直な人柄と、一人乗り宇宙船の乗組員であるが故のメカニックとしての腕から、現在ではキャラバン隊に無くてはならない存在となっている。

 

その為に、割とこうして喋る機会も多いのだが……

 

「いや、やっぱり似てるなーと思って」

「何が?」

「ナオとゼクダスさん」

 

その言葉を聞いたナオも同じく振り向いた事で、此方にとってはナオとゼクダスの比較がし易い状態となる。

 

顔を合わせる度に感じていた事だが、やはりゼクダスとナオの顔立ちはかなり似ている。

いや、正確に言うならゼクダスは『ナオが後十年ほど成長したら、こんな感じになるだろうな』という感じの顔立ちだ。

『自分とナオよりもよっぽど兄弟っぽいな』と心の中で思うぐらいには、実によく似た顔立ちだった。

 

「生き別れの兄弟って事は……」

「何度も言っているが、偶然だ」

「もう、兄貴が一番分かってるだろ?」

「そうだよな、ゴメンゴメン」

 

冷静にツッコむゼクダス、頬を膨らませて怒るナオ、笑いながら謝るラン。

一通り話した所で、ナオが「じゃあ村長の所へ行って来る」と座っていた岩から立ち上がり駆け出して行った。

 

その後ろ姿をランと共に眺めていたゼクダスだったが、ふと何かに気付いたように、ポケットをまさぐって小型の通信端末を取り出した。

ピカピカとランプを点滅させながら震えるその端末を見て、ゼクダスも立ち上がる。

 

「……仕事仲間から通信だ、そろそろ俺も席を外す」

「おう、気をつけてな」

 

笑顔で手を振るランに同じく手を振って返すと、ゼクダスは少し離れた岩陰へと歩いて行く。

そして周囲に人影がない事を確認し、通話ボタンを押した。

 

『壮健かな?ダークロプスゼロ、いや、今はゼクダス・ロプローと呼んだ方が良いかな?』

「ええ、体調に変わりはありません、それと呼び方はそちらのお好きに、マスター」

 

通話ボタンを押した瞬間、端末上に小さなホログラムディスプレイに一人の人物が映し出される。

その姿を目にしたゼクダスは、そのホログラムの人物――パルデス・ヴィータへと一礼した。

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