悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第百十六話【未知への忠告】

アヌーの乾いた大地に、人々の悲鳴が響き渡る。

地上へと着地したブリガンテは、逃げ惑う人々へ無感情に、そして容赦無く光線を放つ。

その光線は着弾と共に爆発し、衝撃が避難中の人々を襲った。

 

「うわぁぁっ!?」

「キャァァッ!!」

 

運悪く着弾場所の近くを走っていた何人もの人々が、吹き飛ばされて転倒する。

そんな中、杖を突いた老婆――ランとナオの祖母が虚ろな目で歩みを進めて行く。

 

周囲では、開拓キャラバンが設置していたテントや重機が、時折爆発音を上げながら轟々と燃え盛っていた。

 

「皆逃げろぉぉっ!!すべて終わりじゃぁぁっ!!」

 

苦労して一から築き上げた物が灰燼として消え去り、日常が脆くも崩壊したその絶望に、老いさらばえた心は耐えられなかったのだろうか。

逃げる人々の流れとは逆に、ヨタヨタとした歩調でレギオノイドへと近寄っていく。

 

そのままレギオノイドの至近距離まで来た時、避難誘導をしていた青年の一人がようやく老婆の存在に気付いた。

老婆を放っておけず、青年は恐怖に震えながらも老婆へと駆け寄って行き、その腕を掴む。

 

「危ないです、逃げましょう!!」

 

必死に自分を引き留める青年に思うところが有ったのか、老婆は無言で振り返り青年を見る。

そして渋々といった面持ちで力無く青年に腕を引かれ、避難しようとした時だった。

此方を認識したであろうレギオノイドが片足を上げ、そのまま振り下ろしてきた。

 

「うわぁぁっ!?」

 

潰される!!と思った青年は、そんな事をしても意味は無いと分かりつつも、咄嗟に老婆を体の下へと庇いながら目を瞑った。

そしてすぐに来るであろう激痛を覚悟し、固く歯を食いしばる。

 

《ズンッ!!》

 

凄まじい振動と風圧が、体に叩きつけられる。

だが、想像したような金属の感触も、押し潰される苦痛も感じない。

恐る恐る青年が顔を上げれば、先程までは無かった鉄塊――レギオノイドの足が目の前に有った。

 

何が起こったのか?

 

青年が更に顔を見上げれば、レギオノイドの顔の前を高速で通り過ぎて行く一隻の地表艇の姿が有った。

地表艇は砲塔からビーム砲を撃ち続けるが、レギオノイドの分厚い装甲には傷一つ付かない。

しかし、陽動という意味では効果が有ったらしく、そちらの方を脅威だと判断したレギオノイドが脚部のキャタピラを作動して猛スピードで追尾して行った。

 

「あの地上艇……」

 

颯爽とレギオノイドを引き連れて遠ざかって行くその地表艇に、青年は見覚えが有った。

開拓キャラバンの中でも最も若手で、その働き者具合から皆に愛されていた兄弟、その兄弟が手ずから整備していた地表艇。

 

「ランっ!!ナオっ!!」

 

その兄弟の育ての親である目の前の老婆が悲痛な顔で叫ぶのを、青年はただ茫然と見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「追いつかれるぞ、ナオ!!」

「ヘヘッ、わざとだよ兄貴」

 

レギオノイドに追い立てられるハスキー(地表艇)の中で、ランは激しい揺れに耐えながら必死になって砲塔のビーム砲を撃ち続け、ナオは不敵な笑みを浮かべながら操縦桿を左右に動かして蛇行し、間一髪で攻撃を避ける。

ハスキーには多少の武装が備わっているとはいえ、あくまでも民間用の地表艇だ。軍事用として作られたレギオノイド対して、普通に考えれば勝ち目は無いだろう。

 

が、ナオには勝算が有った。

 

地表艇が目指す先、そこには並々と溶岩を湛え、地獄の大釜の如くその口を開く火山の火孔が有る。

先程の襲撃を見た限りでは、レギオノイドは降下時にもブースター等は使用していなかったので、おそらく飛行能力は無いはずだ。

なのでレギオノイドを誘導し、火山の火孔へと落とすという作戦を立てたのである。

恐ろしい兵器とはいえ、流石に溶岩の熱さには勝てないだろうという見積もりだ。

 

だが一つだけ、懸念すべき点が有った。

 

「でもゼクダスさんからは『倒そうとは考えるな』って言われただろ?」

 

どこか心配そうに、ランが先程ゼクダスから受けた忠告を口にする。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

―数十分前―

 

必死な様子を見たゼクダスは、しばし二人の顔を見て黙り込んだ後、「ふう」と一つ溜息を吐いて体を横へと避ける。

 

「ありがとう」

 

その様子を見たランは礼を言い、ナオと共に地表艇の場所へと向かおうとした。

が、その腕をゼクダスに掴まれて止められる。

 

「忠告だ、『レギオノイドを倒そう』だなんて蛮勇染みた事は考えるなよ」

「大丈夫だって、俺の操縦の腕はピカ一だからな!!」

 

悠々とそう言って、力こぶを作るナオに向かって、ゼクダスは何処か冷めた目を向ける。

 

「……パルデス・ヴィータの造った兵器を、あまり甘く見るなよ」

「パルデスって誰だ?」

「ベリアル軍の幹部で、レギオノイドの設計者だ」

 

ゼクダスはこのアヌーから一歩も出た事が無く、星外の情報に疎い兄弟に、パルデス・ヴィータがいかに恐ろしい存在なのかを解く。

 

いわく、星の全生命を無慈悲に根絶やしにした。

いわく、エスメラルダの無敵艦隊を一瞬で壊滅させた。

いわく、惑星を一瞬で粉々にした。

 

まるで御伽噺のように信じられない話ではあったが、真剣な表情で語るゼクダスの様子から、単なる与太話では無いという事だけは分かる。

 

「いいか、奴の兵器はこの文明圏の技術力を超えた物だ、繰り返し言うが、絶対に倒そうとは考えるなよ」

「分かった、キャラバンから引き離して避難の時間を稼ぐことに集中するよ」

「それなら良い……俺はキャラバンの人と一緒に住人の避難誘導をする」

 

そのまま再び駆け出そうとしたランとナオ。

だが、少し前へ行ったところで足を止めて振り返る。

 

「死なないでよ」

「また一緒に遊ぼうな」

「……ああ約束しよう、だからお前達も約束してくれ、死なないと」

 

最後の願いの言葉に「「おう!!」」と返事をして、二人は駆け出していく。

その後ろで一人取り残されたゼクダスは、フッと自嘲した笑みを浮かべて呟いた。

 

「ままならない物だな、感情という奴は……」

 

場合によっては主人からの命令に逆らう事になる選択をした自分の心。

その厄介さにゼクダスは戸惑いつつも、どこか清々しい心地良さを感じるのであった。

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