申し訳ないです。
「……」
「おい、大丈夫か?」
通信機のマイクをジッと見つめたまま、無言で俯くゼクダス。
その体から発せられる剣呑な気配に、周囲の男の一人が恐る恐る話しかける。
《ミシッ……パキッ……》
「ヒッ!?」
反応が無い為に、話しかけながらゼクダスの顔を見た男は自分の行動を後悔した。
感情を感じさせない完全な無表情で、それでも額には怒り具合を示すように青筋が立ち、凄まじい握力で握られているのかマイクは不穏な軋み音を鳴らしている。
その恐ろしい光景に、男は思わず腰を抜かして尻餅を突き、全速力で後ろへと引き下がる。(とは言っても、狭い地表艇の中なので2メートルもいかない内に壁に背をぶつけるのだが)
「……フゥーッ」
しばし後に、一つ溜息を吐いたゼクダスはマイクをフックに戻す。
そして徐に立ち上がると、そのまま上部ハッチへと続く梯子へと足を掛けた。
「ゼクダスさん!?一体何を……」
「確か、この地表艇にはホバーバイクを積載していたな?」
「ホバーバイクって、あんたまさか!?」
ゼクダスの意図に気付いた男の一人が、ゼクダスを引き留めようと服の裾を掴む。
「無理だ!!レギオノイドが追って来てるんだぞ!?」
「お前達は煙幕を張って、そのまま予定通りに洞窟へと逃げろ、俺はあの馬鹿共を連れ戻さなければならない」
「……ああもうっ、絶対に死ぬんじゃねぇぞ!!」
引き留めても無駄だと察した男はゼクダスの服を離し「60秒後に煙幕を放出する」とだけ言って持ち場に戻る。
それに対して軽く礼を言うと、ゼクダスは梯子を上へと昇って行き、ハッチを開けて外へと身を乗り出した。
「ぐっ!!」
瞬間、全身に打ちつける強烈な走行風と砂埃に、思わず顔を顰める。
背後を見れば轟音と共に追いかけて来るレギオノイド達の姿。
「チッ……」
今この瞬間だけは機械の体を捨てた事に後悔をしたが、それでどうにかなるという訳でもない。
地表艇の表面に備え付けられた取っ手を伝い、上面に取り付けられた小型の収納ボックスの前へと行く。
留め金を外し、収納ボックスを開封すれば、そこには折り畳まれた状態のホバーバイクが横たわっていた。
「バッテリー異常無し、フレーム異常無し」
軽く点検した後に引き起こせば、それまで折り畳まれていた部品たちが金属音と共に結合し、一台のホバーバイクが搭乗可能な状態でそこに現れる。
揺れる地表艇の上でバランスを取りつつ、ゼクダスは背後から追いかけて来る数体のレギオノイドを睨んだ。
《ボシュッ!!》
そして約束の60秒が経ち、地表艇の上部に設けられた筒から発煙弾が発射される。
発煙弾は追って来るレギオノイドの胸部付近で炸裂し、周囲の視界を奪う。
「よし」
敵の視界から隠れた事を確認したゼクダスは、ホバーバイクへと跨ると起動スイッチを入れる。
そして長い溜息を一つ吐いて軽く目を瞑り、集中する。
タイミングを逃せばレギオノイドに見つかるかもしれない、実に危険な賭けだ。
だからこそ、ゼクダスは自信の心を落ち着かせ、失敗の確立を極限まで減らせるように努力する。
そして……
「っ!!」
グリップを思い切り捻り、ゼクダスはホバーバイクと共に、その身を空中へと躍らせた。
―――――――――――――――
ランとナオを乗せたハスキーはレギオノイドを引き連れたまま、濛々とした湯気が立ち込める火山の山頂へと昇って行く。
火山ガスによって立ち昇る硫黄の匂いに二人は顔を顰めるが、それに構わず目的地の火孔へと近づいて行った。
「速度が落ちてるぞ、ナオ!!」
「分かってるって!!」
高度が上がるにつれて斜面の傾斜は増していき、それに伴ってハスキーの速度も堕ちて行く。
ナオはスロットルを上げて行くが、それでも段々と速度は落ちて行った。
対してレギオノイドは余程強力な動力をしているのか、その速度に陰りは見られない。
そして、レギオノイドの額のビーム砲が、ハスキーを捉えようとした時であった。
《ガクンッ!!》
衝撃と共に、ハスキーの機体が落ちるように下降した。
それとほぼ同時に、レギオノイドが放ったビームがハスキーの直上を掠める。
「よしっ!!」
レギオノイドがハスキーを捉える直前、ギリギリで火山の頂上へと到達していた。
外周部を乗り越え、火孔側の窪みへと入ったお陰でビームを避ける事が出来たのだ。
「行くぞっ!!」
「おい、そっちは火孔だろ!?」
一直線に火孔へと向かって行こうとするナオに、ランは驚愕して声を上げたが、
次の瞬間、内臓が持ち上げられるような浮遊感がその身を襲う。
「落ちろぉぉぉっ!!」
「マジかよぉぉぉっ!?」
煮えたぎる溶岩へと落下して行くハスキーの内部で、ナオは戦いの高揚感に猛る叫びを、ランは落下して行く浮遊感に恐怖の叫びを上げる。
近づいて来る灼熱によって、装甲に越しでも凄まじい熱気が満ちていく。
「今だっ!!」
そのまま溶岩に落ちるかと思われた矢先、
ハスキーの操縦桿を握っていたナオが、あるタイミングでスロットルを全開にし、操縦桿を引っ張った。
瞬間、溶岩スレスレでハスキーの機首が上を向き、溶岩の熱によって発生した上昇気流を掴んで火孔外縁へと上昇して行く。
しかし、ハスキーを追って火孔へと同時に飛び込んだレギオノイドは、成すすべなく溶岩へと飲み込まれて行った。
《ガガガガッ!!》
限界出力で上昇して行ったハスキーは溶岩の熱も相まってオーバーヒートし、機関が停止する。
しかし、辛うじて火孔外縁部の平地へと不時着し、岩や地面に機体を擦り付けながらどうにか止まった。
「よいしょっと……」
シュウシュウと湯気を上げながら動かなくなったハスキーのハッチが開き、ランと、次いでナオが機外へと脱出する。
そして火孔へと走って行き、溶岩をジッと眺めるが、その中に動く物は無い。
『レギオノイドを倒した!!』と二人が結論付けるのに、そう長い時間は掛からなかった。
「やったぁっ!!」
「よっしゃぁっ!!」
歓喜に沸いた二人はグータッチをして互いの健闘を称え合う。
これでベリアル軍に一矢報いる事が出来た。
この調子で、他のレギオノイドも倒す事が出来るのではないか?
そんな風に喜んでいた二人の足元で、地面が揺れた。