悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第百二十話【彼岸への旅立ち】

ランは満身創痍の体に必死になって力を籠め、ナオの体を引き上げようとする。

しかし、無情にもレギオノイドの攻撃の方が早く、高速回転するドリルが突き立てられた。

幸いと言うべきか、ドリルは二人の体を直接攻撃する事は無かったが、その威力により周辺が抉れ飛び、二人の体は空中へと放り出される。

 

「うわぁぁぁっ!!」

「兄貴っ!!」

 

真っ逆さまに落ちて行く二人の体。

その下には煮え立つ溶岩を湛えた火孔が待ち受けている。

 

「くっ……」

 

無駄な行為だと分かりつつも、ランはナオを守るように強く抱き締めた。

赤熱した溶岩が迫ると共に、情け容赦のない熱気が肌を焼く。

 

「誰かっ……」

 

迫って来る死の間際、それでもランは祈った。

『誰か、せめてナオだけでも助けて欲しい』という願い。

本来なら溶岩の海に飲み込まれて消える筈だったであろうその願いは、思いもよらぬ形で聞き入れられる事となる。

 

《キィン!!》

 

突如として周囲に甲高い音が鳴り響き、落下していた二人の体が眩い光に包まれる。

同時に、温かい物に包まれて浮遊するような感覚。

何が起こったのかを疑問に思う暇も無く、気が付いた時には火孔近くの傾斜の緩い斜面に横たわっていた。

 

「……助かった?」

 

二人が恐る恐る顔を上げると、目の前には信じられない光景が広がっていた。

 

『シェアッ!!』

 

自分達をレギオノイドから庇う様に立ちはだかる、巨大な光。

眩い光に目を細めれば、その光が巨大な人型――()()()()だという事が分かった。

突然の事態に戸惑うかのように後ずさりするレギオノイドと相対し、その光の巨人は徐に腕をL字に組む。

 

「うおっ!?」

 

瞬間、凄まじい熱気と空気の揺らぎと共に、その光の巨人の腕から一条の光線が放たれた。

その光線は一直線に飛んで行きレギオノイドの体に当たる。

そしてしばし苦しみ悶えるような様子を見せた後に、レギオノイドは爆散した。

 

『助けてくれた、のか?』

「ランっ!!ナオっ!!」

 

その光景をしばし呆然と眺めていたランとナオだったが、自分達を呼ぶ声にハッと我に返る。

背後を振り返れば、額に汗を流しながら慌てた様子で駆け寄って来るゼクダスの姿が有った。

 

「ゼクダスさんっ!?」

「言いたい事は沢山有るが後にしよう、大丈夫か?」

 

足場の不安定な場所を全力で駆けてきたからか、肩で息をしながら二人の安否を気に掛けるゼクダス。

その様子に罪悪感を覚えた二人だったが、今はそんな事を考えている暇は無いと頭を振るうと、ゼクダスの質問に答える。

 

「うん!!レギオノイドにやられそうになったけど、あの巨人?が助けてくれたんだ」

「巨人……」

 

ナオの返事を聞いたゼクダスが視線を外し、自分達の背後を見上げる。

釣られるように二人も顔を上げると、徐々に巨人を包み込んでいた光が治まっていく。

そして、その光が完全に無くなると同時に、ナオが慌てたように腰のホルスターへと手を伸ばした。

 

「ダークロプス!!」

 

光が収まり、現れた巨人のその姿は、今まさにアヌーへと侵攻しているベリアル軍のダークロプスと酷似した物であった。

焦りと怒りを綯交ぜにした感情のままに、ナオはホルスターから光線銃を取り出して巨人へと向けようとする。

 

「ナオッ!!彼は助けてくれたんだ、ダークロプスじゃない」

 

が、それは他ならぬ兄のランによって止められた。

腕を引っ張られ銃を下ろされたナオは、戸惑ったような様子でランと目の前の巨人を交互に見る。

 

「分かったよ、兄貴……」

 

しばらくして、目の前の巨人が自分達を見ているだけで害意は無さそうだと判断し、ナオはようやく光線銃をホルスターへとしまった。

その光景を見てホッとしたランだったが、不意に苦しそうな表情で跪き、仰向けになって倒れた。

 

「ぐっ、ううううっ……」

「兄貴?兄貴っ!!」

「ランッ!!」

 

駆け寄ったゼクダスが持って来ていたファーストエイドキットを取り出し、心配そうに見ているナオの目の前で、ランの血に染まった上衣をキットの中に入っていたハサミで切り取り脱がす。

しかし、患部の様子を見たゼクダスは、ピタリとその手を止めた。

 

「ゼクダスさん?」

「……」

 

戸惑ったような表情で見上げて来るナオを一瞥もせず、ゼクダスは沈黙する。

服を脱がせたランを一目見て、ゼクダスは悟ってしまった。

『もう手遅れだ』と。

 

腕に出来た傷は深く、出血量から察するに動脈が傷ついているのだろう、こうしている間にも血液が溢れ出て来ている。

そして胸にも深い傷が出来ており、呼吸の乱れからすると肺に穴が開いている気胸の状態だ。

治療するには設備の整った病院まで行く必要が有るが、この荒野からそこまで行くには数時間は優に掛かる。

 

誰の目にも、この状態のランがそこまで耐え抜くのは不可能だと分かるだろう。

 

「……ナオ」

 

その沈痛な表情を見て全てを悟ったのか、ランはナオを呼びよせると、震える手で自らの首元に有るペンダントを外してナオへと手渡し、その手を強く握る。

まるで形見分けのようなその仕草に、苛立ちのあまりナオは思わずランを怒鳴りつけた。

 

「何の真似だよ!!」

「これが、最後の希望……お前が見つけるんだ」

「何言ってんだよ!!二人で見つけるんだろ!?」

 

ランはゼクダスの方へと振り向くと、最後の力を振り絞るように言葉を口にする。

 

「ゼクダスさん……関係ないアンタを巻き込みたくは無いが……」

「……ナオの事は任せろ」

「ありがとう、本当に……カヒュッ」

「兄貴!?兄貴っ!!」

 

ランの呼吸が浅くなり、再びもだえ苦しむ。

ナオは必死になって名前を呼びかけ続けるが、状況は酷くなるばかりだ。

 

そんな痛々しい光景を、ゼクダスは後悔に苛まれながら見ていた。

 

もう少し早く駆け付ける事が出来ていれば、もしも元のロボットの体であったなら、彼を助ける事が出来ていただろう。

しかし、そんな事を考えても意味は無い。既に起こってしまった事なのだから。

 

『何故だ?もうエネルギーが……』

 

その背後で、ウルトラマンゼロもまた、生死を左右する事態に陥っていた。

ウルトラ戦士にとってのパワーの源である太陽光が射しているのにもかかわらず、カラータイマーが点滅し体から力が抜けて行くのを感じる。

 

ゼロにとっては知る術の無い事ではあったが、法則や成り立ちの違う平行宇宙の太陽は、元の宇宙の光とは異なりウルトラ戦士に力を与えてはくれない。

そう、このままではゼロもエネルギー切れで消滅してしまう。

 

『一体どうすれば……』

 

立っている事すらままならず、膝をつくゼロ。

体勢が低くなった事で、横たわるランと視線がかち合う。

大切な者との別れの悲しみか、志半ばで旅立つ事への悔しさか、ランの目から一滴の涙が零れ落ちた。

 

「ナオを、弟を、頼む」

 

ランの言葉に答えるように、ゼロはその手を胸のカラータイマーへと翳した後、ランへと差し出す。

その仕草を了承と受け取ったランは、一つ頷くとホッとしたような表情で静かに目を閉じた。

 

「彼を、信じろ……」

「ラン……」

「兄貴ぃぃぃぃぃっ!!」

 

こと切れようとするランを、沈痛な面持ちで見るゼクダスと、叫ぶナオ。

今、勇敢な若き命が彼岸へと旅立とうとしていた。

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