『惑星アヌーにテ、エスメラルダ王族の星間宇宙船を確認しまシタ』
「そうか」
報告を行うアナライザーの声を聞きながら、俺はニルギリ紅茶を一口含み、鼻を抜ける爽やかな香りを楽しんだ後に嚥下する。
そして精緻な椿の紋様が彫り込まれた純銀製のティーカップを置き、目の前のディスプレイへと視線を移した。
「どうやらゼクダスも乗り込んだようだな」
モニターにはレギオノイドの一体から送られてきた映像が映し出されており、洞窟の中に逃げていた『ラン』、いや、今は『ゼロ』と呼んだ方が良いか、それと『ナオ』『ゼクダス』の三人の姿が映し出されている。
画面の中の三人はどうにか逃げようとしているが、レギオノイドが無理矢理地底を掘削して追って来たせいで洞窟は崩れかけており、その瓦礫のせいで道をふさがれてしまったようだ。
せめて瓦礫から身を守ろうと、レギオノイドから遠ざかるように洞窟の隅へと後ずさりしていく。
傍から見れば絶体絶命の状況だ。逃げ道も無く、崩落寸前の洞窟に閉じ込められているのだから。
しかしそこは主人公、助け舟は意外な所からやって来る。
突如として三人の足元に赤い光の輪が現れ、三人を取り囲む。
訳の分からない事態に困惑し、思わず動きを止めてしまった直後、光の輪に囲まれた地面にポッカリと穴が開いた。
「あ」という表情のまま、吸い込まれるように穴へと落ちて行く三人の姿は実に滑稽だ。
《ズゴゴゴゴゴっ!!》
その直後、レギオノイドから送られてくる映像に乱れが生じる。
激しい揺れに、空を舞う大量の砂埃に視界が遮られ、全く状況が確認出来なくなった。
そんな状況が数十秒続いた後、ようやく映像が鮮明に戻るが、空には既に飛びあがった巨大な宇宙船――ジャンバードの姿が有り、何も出来ぬままに宇宙へと飛び立って行く姿を見送る事となった。
「さて、
独り言を言いつつ再びティーカップを手に取り、俺は茶を口に含んで飲み込んだ。
そして再びソーサーにカップを起くと、通信パネルを操作して目的の人物を呼び出す。
「ダークゴーネ、ウルトラマンゼロが行動を起こした」
『ほう?場所は分かっているのでしょうね?』
モニターに表示されたダークゴーネが、相変わらずのネットリとした声で此方へと返して来る。
こちらを小馬鹿にしたような態度に少々の苛立ちを感じるが、まあ今は気にする程の事でもない。
それどころか、最終的にナオとジャンバードに倒されると分かっているものだから憐憫の感情すら湧くようになってきた。
まあ、それは置いておいて……
『方角から推測シタ結果、ウルトラマンゼロは【スペースニトロメタンの海】へ向かっタト思われマス』
「ありがとう、アナライザー……という訳だ、おそらくはベリアル様と敵対する炎の海賊に保護を求めに行くのだろう」
アナライザーと俺の推測を伝えると、ダークゴーネは『ハッ』と嘲笑を漏らす。
……一体、今の情報のどこにそんな嘲笑をする要素が有ったんだ?
俺がそんな事を疑問に思っていると、まるで意味が分からないという俺の考えを察したかのように、俺へ朗々と語り出した。
『保護されに行くですって?光の国の戦士が?あなた奴を舐め過ぎではないですか?』
笑い交じりだった声が、途中から冷淡に変わりダークゴーネがモニター越しに冷めた目で俺を睨む。
ああそういう事ね、俺の読みが甘すぎると、それでベリアル様の腹心を務められるのか?という事ね。
心配しなくても、俺はウルトラマンゼロが逃げ腰になるような事は有り得ないという事は分かっている。
ただ、ゼロ達がバラージの盾を追い求めている事を、というかそれ以前にバラージの盾の存在自体を知っている者も、今のベリアル軍内では皆無だからな。
なので俺が“
「敵を舐めているだと?それこそあり得ないな、ウルトラマンゼロは確実にベリアル様の首を取りに来るだろう」
『ほう?じゃあ何故あんな事を口にしたのですか?』
「奴は今、惑星アヌーで接触したエスメラルダ王家の人間と一緒だ、おそらくはそいつの保護を求めに行くんだろう」
とはいえ、ベリアル軍でもうしばらく活動する必要が有る現時点では、まだダークゴーネと連携を取る必要が有る。
嫌われているのは重々承知ではあるが、連携の為に最低限の心証を保っていかなくてはならない。
そういう訳で、傍目から見た場合に現時点で最も納得できるであろう【エスメラルダ王女の保護】という理由を話すと、ダークゴーネは然程関心が無いかのように『ふむ』と返して来る。
『確かに、ベリアル様との直接対決に王族を連れて行くというのは考えにくいですね』
「納得してくれたのならそれで良い」
ようやく納得してくれた様子のダークゴーネに内心胸を撫で下ろす。
そして次なる行動を起こす為に、俺は指示……と言うとダークゴーネが従わなさそうなので、少しだけ下に出つつも“お願い”を口にした。
「私はザウラーを連れてスペースニトロメタンの海へと向かう、ダークゴーネも同行して欲しい」
『……まあ良いでしょう、ベリアル様の命令は絶対ですしね』
「では、一旦通信を切る、現地で合流しよう」
そう言った途端、アナライザーの操作で通信は切断される。
ひとまずは怪しまれずに済んだ事に再度胸を撫で下ろしながら、俺はアナライザーへと指示を出した。
「ザウラーの場所は?」
『今現在ハ、レジスタンスの殲滅任務のタメに10光年先ノ惑星へと出てオリます』
「じゃあ奴を回収し次第、我らも目的地へと向かうぞ」
『了解』
指示を出すと共に、俺の乗った艦は急加速して行く。
そしてその速度が光速に達した途端、閃光と共に艦が宙域から消失した。
その後ろで加速していた数十隻の戦艦と共に。