悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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クシア編最終話となります。
終わる終わる詐欺をして本当に申し訳ない。


第十一話【さらば惑星クシア】

真っ赤なランプだけが明滅する通路を。俺は奥へと歩いて行く。

痛む体を引きずるように一歩ずつ進み、やがて奥に一つの扉が現れた。

 

《ガチャ、ズズッ……》

 

最低限の電源は既に重要機器の稼働に回されている為、手動で引き戸を動かす。

軋むような音を立てて開く鉄の扉。

その向こうにはズラリとコンテナが並んでいた。

 

「……」

 

俺は無言で部屋の中へと入る。

積み上げられたコンテナを持っていたランプで照らし、目的の物を探す。

 

[備蓄コンテナDB-007]

 

そう書かれたコンテナの前で俺は立ち止まり、徐にその扉を開けた。

コンテナ内にはいくつもの保存ボックスが置かれており、上部のボタンを押せば空気が抜けるような音と共にふたが開く。

ボックスの中には隙間なく収められた数十本の瓶が並んでおり、俺はそこから一本の瓶を取り出した。

 

「クシア最後の酒か、貴重な物だな……」

 

さてどうやって栓を開けるか、と考えていた所に、ふとポケットにしまっていたギガバトルナイザーの事を思い出し、懐から取り出した。

伸縮自在のその武器は、今は片手で持てるダンベル程の大きさになっている。

コレしか無いか。

 

ギガバトルナイザーの角で栓を抜き、そのまま瓶を口に付けて酒をあおる。

芳醇な香りとアルコール臭が混じった芳香、甘苦い味と胸の焼けるような感触、

普段飲まない酒は、美味しくも思えるし不味くも思える。

 

まさかギガバトルナイザーがこんな所で役に立つとはな、まさに平和利用だぞ、ハッハッハッ……ハァ。

 

「やってられるかクソッ」

 

空になりかけた瓶を苛立ちを現すかのように投げれば、遠くの方でガチャンと瓶が割れる音がした。

そして二本目の瓶を手に取り、再びギガバトルナイザーの角で栓を開け、あおった。

 

終わりだ、見事にしてやられた、もう脱出は不可能だ。

 

アーク号はどうにか砂漠に不時着した。

だがミサイル攻撃によりメインエンジンは破損、今はサブの機関で艦内設備をどうにか動かしてはいるが、それだけでは船体を飛ばすためのエネルギーは賄えない。

さらにはワープ装置の故障だ。これが無ければ光年単位の移動は不可能だし、異空間ゲートを作り出す機械も損傷していて、これではアイル達が居るであろう平行宇宙へと渡る事も不可能だ。

完全なる詰みであり、俺は自棄になって酒をぐびぐびと飲む。

普段は飲まない酒の味が、心身ともに浸み込んで来る。

 

間もなくギルバリスの惑星データ化が始まるだろう。

そうなればもう終わりだ。

 

「カンパーイ」

 

少しでも死の恐怖を紛らわそうとした一人ぼっちの酒宴は、薄暗い船内で粛々と続くと思われた。

この惑星からは逃げられる人々は全て逃げて行った。

だからもう、誰もここには居ないと思っていた。

 

『随分な有様だな、パルデス・ヴィータ』

「!?」

 

突然聞こえて来た声に、酔いかけていた意識が急速に引き戻される。

赤い照明に照らされない角、陰になっている部分に殊更深い闇が有った。

その闇は俺の足元へとやって来ると、まるで闇そのものが形を作るようにソイツは現れる。

 

『実に絶望的な状況、貴様の精神から闇が漏れ出ているのを感じる』

 

完全に姿を現したソイツは、光る眼を楽しげに細める。

俺はその様子を見てため息をつき、上に有るその顔を見上げた。

 

「久しぶりだな、()()()()()()

 

楽し気に俺を見下ろしながら、ソイツは嗤った。

 

レイブラッド星人、怪獣を自由自在に操るレイオニクスの祖であり、かつて何万年にも渡ってこの宇宙を支配した支配者。

そして俺が交わした『()()()()()』の相手。

 

『我が力、存分に役立てたようだな』

「ああ、感謝している」

 

俺がレイブラッドと交わした契約、それは『俺達にレイオニクスの権能を授ける』事。

その闇の力により、俺達は疑似的にではあるものの、怪獣を操る事でギルバリスからの刺客であるギャラクトロンを撃退し、多くのクシア市民を救う事が出来た。

 

『では契約通り、例の物を』

「分かっている」

 

レイブラッドは闇の存在という事で内心では警戒していたものの、キチンと約束を守ってくれたのだ。

ならば、俺もその約束を果たさねばならない。

俺はギガバトルナイザーをレイブラッドへと差し出す。

 

「これが約束していた物だ」

『ほう……』

 

レイブラッドが手をかざせば、ギガバトルナイザーはフワリと宙に浮かんで、レイブラッドの前まで運ばれる。

霊体の為に直接触れる事は出来ないようだが、纏わりつく黒い闇がギガバトルナイザーに触れると、チリチリと赤い火花が散った。

暫くそうしてギガバトルナイザーに触れていたレイブラッドだが、「ふむ」という一言と共にこちらを振り向く。

 

『ギガバトルナイザー、《闇を極限まで増幅する神器》というのは(まこと)のようだな』

「ああ、それとこっちも完成している、好きに使うと良い」

 

俺は奥のコンテナへと歩いて行き、そこから一つの箱を取り出して開封する。

中には数十個のバトルナイザーが入っていた。

ちなみに、ここら辺のコンテナ中身は全てバトルナイザーだ。

 

「悪いが一つ貰っていく、その怪獣は俺の物だからな」

 

俺がその中から取り出したバトルナイザーをかざせば、ギガバトルナイザーから光球が飛び出してこちらへとやって来る。

そのまま光球はバトルナイザーに吸い込まれ、小窓から光球……サルヴァラゴンがキチンと移動して来たのをを確かめると、俺はバトルナイザーを懐にしまった。

サルヴァラゴンには可哀そうだが、俺が管理できなくなる以上は放っておく事はできない。

どうにか処理しないとなと考えつつ、俺はまた地べたに座り込んで酒を注ぐ。

 

「バトルナイザーの数は十分なはず、早く脱出しないとデータ化に巻き込まれるぞ」

『貴様はどうする?』

「もう脱出は諦めた、このまま大人しく、最後のひと時を過ごすさ」

 

俺はまた一口、酒をグビリとあおる。

 

確かに死ぬのは怖い、だが俺は十分に生きた。

最初の生こそ早死にだったものの、二度目の生では寿命まで生きたし、三度目の今世ではクシア人の寿命が長い事も有って既に2万年以上も生きている。

もう十分だ、このままゆっくりと限られた生を過ごそう。

 

「さて、つまみはあそこのコンテナだったかな?」と考えながら立ち上がった時、レイブラッドがボソッと一言こぼす。

 

『つまらん』

「はぁ?」

『つまらんと言ったのだ』

 

レイブラッドは不機嫌そうな表情でそう言いながら、ギガバトルナイザーへと再び手をかざす。

その瞬間、視界がグニャりと歪んだ。

悪酔いか?と思ったが、次に発せられたレイブラッドの言葉によって、俺は我に返る。

 

『ブルトンを呼んだ』

「へ?ブルトン!?」

 

ブルトン、四次元怪獣とも呼ばれる生命体で、フジツボのような奇怪な見た目をしている。

体内の四次元繊毛で四次元空間を操るというチートじみた能力を持っており、初代ウルトラマンに登場した怪獣の中では強豪怪獣の一体として数えられる。

 

そういえば、レイブラッドはブルトンを操る事で様々な時空から怪獣を呼び、ギャラクシークライシスと呼ばれる大事件を起こしたって設定が有ったけど……まさか!!

 

『このまま貴様が未練たらしく死ぬのを眺めようと思ったが、気が変わった』

「なにをする気だ!?」

『適当な時空へと貴様を送る、精々抗ってみせろ』

「ちょっ!?」

 

次の瞬間、形容出来ない程の吐き気と眩暈を感じた。

時空が歪み、床が天井へ、天井が壁へ、壁が床へ……

天地が無くなり、空間が回る。

全ての法則が乱れていく中で、俺は耐え切れずに本日二度目の失神を経験する事となった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

《理解不能》

 

必要なエネルギーを貯め、惑星クシアをデータ化したギルバリスは、そのデータを見てそう零した。

 

《理解不能》

 

撃墜したはずの宇宙船、そしてパルデス・ヴィータ博士、惑星をバリアで封鎖し、逃げ道をすべて断ったはずだ。

 

《理解不能》

 

だが、データ化した惑星の中にはそのどちらのデータも無かった。

 

《理解不能》

 

時空が歪曲した痕跡が確認されたが、今のパルデス・ヴィータにはそんな事は不可能のはず。

 

《理解不能》

 

《理解…不能》

 

《理解……不能……》

 

全ての生命が失われた星で、ギルバリスの声だけが空しく響いていた。

 

 

 

 

 

【惑星クシア編:完】




とうとうクシア編完結、長かった……
次回から新章開幕です、ご期待ください。
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