悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第百三十二話【勘違い】

広大な宇宙空間では、その静謐さが嘘かのように大規模な自然現象が様々な場所で巻き起こっている。

例えば人類が消費する量の数百億年分ものエネルギーを一気に発散してしまうガンマ線バーストや、強大な重力により光が捻じ曲げられることによって起こる重力レンズもそうだ。

 

そんな神秘に満ちた大宇宙の片隅に広がる広大なガス帯――『スペースニトロメタンの海』もまた、大宇宙の神秘と言える現象だろう。

周囲の恒星から発せられる光を反射して青白く発光し、幻想的とも言える光景が広がるこの場所は、一歩間違えれば爆発的な燃焼と共に崩壊を起こす危険な宙域でもある。

 

だからこそ、そこに近寄るものは誰も居ない……ただ一つの例外を除いて。

 

《ゴウッ!!》

 

突如、宇宙空間に現れた光。

光は赤熱した火球となって、凄まじい速度でメタンの海へと突っ込んでいく。

 

「来た!!」

 

そのメタンの海の外縁近く、停泊していたジャンバードの中でその光景を見ていたナオが嬉しそうに声を上げた。

メタンの海に着水する直前に、火球を構成していた炎が消えていき、中から巨大な宇宙船が姿を現す。

 

「あれが、炎の海賊……」

 

思わず、といった感じでゼロが呟く。

 

まるでガレオン船を思わせる艦首、甲板の砲台を彩るように細かい装飾が至る所に施されたレッドメタリックの外装の宇宙船は、堂々たる巨体をメタンの海に揺蕩わせる。

船の名は『アバンギャルド号』、炎の海賊の旗艦である。

 

そして、その船の甲板に一つの人影が有った。

いや、人と言うには語弊が有る。

 

筋骨隆々に鍛え上げられたその身の丈は50mに迫り、その頭頂部は赤々とした炎を噴出させている。

彼は炎の海賊の用心棒、その名を『グレンファイヤー』と言う。

 

甲板で自作と思しき歌を歌いながら、だらっとした姿勢で座っていた彼であったが、

目の前の宇宙空間に浮かぶジャンバードの姿を見つけると、一睨みした後に背後へ振り返る。

 

「よう、船長」

 

グレンファイアーの視線の先、アバンギャルド号の艦橋の中で、たむろしていた船員らが一瞬で左右へと避けていく。

その避けて出来た道を堂々と歩いて来る三人の男。

他の船員よりも明らかに豪著な服装に身を包んだ男らは、艦橋前面のガラスの前へと悠々と歩いて来ると威風堂々と名乗りを上げる。

 

「ワシら海賊三兄弟……ガル!!」

「ギル!!」

「グル!!」

 

名乗りを上げた瞬間、船員らが雄叫びを上げた。

その光景を見たエメラナ達は悟る。

この三人こそが炎の海賊をまとめ上げている頭領なのだと。

 

「ワシらの海に、おかしな奴らがいるぞ!!」

「ベリアル軍じゃないようじゃが……」

「留守中、人ん家に土足で入り込みおって!!」

 

彼ら三人はアバンギャルド号の目の前へと接近して来たジャンバードへ、気迫に満ちた鋭い視線を飛ばす。

その言葉と態度を見たグレンファイヤーはエメラナ達を侵入者だと断定し、ジャンバードへと挑発するように啖呵を切った。

 

「どこのどいつだ?焼き鳥にして食っちまうぞ……嫌なら、とっとと出てけ!!」

 

髪をかき上げるような動作と共に、グレンファイヤーの頭部から火の粉が散る。

どうやら臨戦態勢のようだ。

 

「焼き鳥?無礼者っ!!」

「ジャンバード、まずは挨拶を……」

「……了解しました、姫様」

 

挑発するようなグレンファイヤーの発言に、ジャンバードは怒りのあまり声を荒げる。

しかしエメラナに窘められたことで多少の落ち着きを取り戻し、渋々ながらも引き下がった。

 

「ふぅ……」

 

ソファーから立ち上がったエメラナは、一つ息を吐くと炎の海賊との交渉に臨もうとする。

だが、外交経験も殆ど無く、しかも相手は本来なら接触すらしないであろう無法者の集団だ。

今現在はベリアルを討たんとする目的に関しては一致しているものの、今後はどうなのかと言えば「分からない」としか答えようが無い。

 

ネガティブな考えが脳裏を過り、緊張のあまりエメラナの額に汗が滲む。

どうしようかとエメラナが考えあぐねていると、その肩に大きい手がポンと乗せられた。

 

「ここは俺に任せろ」

 

そう言って、エメラナを元気づける様に力強く頷くゼロ。

 

ゼロはコックピットの出口方面へと歩いて行き、ブレスレットを装着している左腕を前方へと翳した。

その瞬間、眩い光と共に、ゼロの掌の上に仮面のような物が現れた。

 

仮面のような物――ウルトラゼロアイを手にしたゼロ。

ゼクダスはその光景を見てハッと何かに気付いたように目を見開き、ゼロへと歩み寄る。

 

「止せ!!今その姿は……」

「デュワッ!!」

 

ゼロの行動を制止しようとしたゼクダスだったが一足遅く、ゼロはウルトラゼロアイを目元へと当てた。

コックピット内に、先程とは比べ物にならない閃光が迸る。

 

そして閃光が収まった時には、既にコックピット内にゼロの姿は無かった。

 

「遅かったか……」

 

ゼクダスが振り返った視線の先、コックピット内に設置されたスクリーンには、

ジャンバードの前方を浮遊するゼロと殺気立ったグレンファイヤーが映し出されていた。

 

「テメェ、ベリアルのダークロプスか!!」

 

グレンファイヤーの怒声が響く。

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