悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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色々と忙しく、久しぶりの投稿になってしまいました。
感想の方も中々返せず、申し訳ない気持ちです。

応援して下さっている方々、本当にありがとうございます。


第百四十三話【憧憬】

とある満天の星の下、多少の草が生える程度の荒野の中に有る、白いテントが並んだこじんまりとした集落。

その外れに有る、鉱山作業で発生した砂利を積み上げた小高い丘の上に、三人の人影があった。

キャッキャと笑いながら将来の夢を語り合う幼い兄弟、そしてそれを温かい目で見守る父親。

 

「友達をいっぱい作る」

「偉くなって皆を幸せにする」

 

そんな無邪気な夢を聞いていた父親は、徐に懐から一個の革で出来たペンダントを取り出した。

ペンダントトップには、V字のような形をした橙色の鉱石が、革紐で括られるようにして固定されている。

 

「夢はな、信じて努力すればきっと叶うんだ」

 

そう言いながら、手の中に有るそれをじっと見た後に、兄弟へと差し出した。

 

「二人を守ってくれるお守りだ、一族に代々伝わる宝物だぞ」

「宝物?」

 

兄の言葉に、父親は得意げな笑みを浮かべながら、兄弟の目の前にペンダントを掲げ、ペンダントの云われを語っていく。

 

「二人を守るだけじゃない、この世界を守ってくれる凄い宝なんだ」

 

父親が語る夢物語のような話を、兄弟は目を輝かせて聞き入る。

世界を守ってくれる凄い宝……遊びたい盛りの子供にとっては一番大好きな話だ。

 

「いつかこの世界がピンチになった時、必ず力を貸してくれる……だから二人で大切に持っているんだ」

「「うん、分かった!!」」

 

父親の言葉を聞いた兄弟二人は、その胸に湧き上がる興奮もそのままに元気良く頷く。

 

「兄貴が持っててよ」

「うん」

 

弟に促された兄が、父親からペンダントを受け取る。

月の光に翳してみれば、ゴツゴツと粗削りではあるが、何処か神秘的なペンダントトップ薄っすらと月の光を透過していた。

 

「そこの夜更かし三人組さ~ん、そろそろ帰って来てくれないかな?おばあちゃんが心配してるよ!!」

「「「は~い!!」」」

 

いつの間にか祖母と共に丘の下へと来ていた母親が、三人に向かって声を張り上げる。

笑顔で顔を見合わせた三人は、元気良く返事をすると丘を滑って下り、競争するかのように家の方へと駆けだすのであった。

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

「……っ?」

 

ハッと目を覚ましたゼロは、自分が寝台に寝かされている事に気付いた。

自分の……いや、ランの体を見てみるが、どうやら痛みも無く五体満足で傷も無さそうだ。

首を隣に向ければ、若干の間をおいて隣に置かれた寝台の上でナオが安らかな顔で熟睡しており、ホッと胸を撫で下ろす。

 

それにしても……

 

「あれはランの記憶か?」

 

先程まで見ていた夢、なのだろうか?

家族が仲睦まじく談笑する光景、自分には得られなかった尊い絆の光景に、ゼロは何とも言えない温かさと切なさを感じた。

それが『憧憬』という感情だという事は、ゼロはまだ知らなかった。

 

「ようやく起きたか」

 

胸の切なさに気を取られていたゼロは、空気が抜けるような音と共に開いたドアへと視線を移す。

そこには、両手に袋を持ったゼクダスが、いつもの仏頂面で佇んでいた。

いや、多少眉間に皺が寄っているのを見るに、不機嫌にも見える。

 

「あまりランの体で無茶をするな」

「悪ぃ……」

 

かなりの危険をやらかした事に思う所が有ったのだろう。軽くゼロを睨みながら苦言を呈するゼクダスに、ゼロは言い返す言葉も無い。

しばらく部屋の入り口からゼロへと厳しい視線をやっていたゼクダスは、一つ溜息を零すと歩みを進め、部屋へと入室して来る。

そして、奥に置かれた小さなサイドテーブルへと袋を置いた。

 

「こちらの袋には食料、もう一つの方には水、どちらも二人分入っている」

「礼を言うぜ」

「特にゼロ、お前はキチンとエネルギー補給をしろ、まだ先は長い」

 

ラン(の肉体)を心配しているのか、ゼクダスはいつもより口数多く注意だけすると、そのまま部屋から出て行こうとした。

だが、突如として聞こえて来た呻き声に、その足はピタリと止まった。

 

「うぅぅぅ……」

 

苦悶の表情を浮かべて、胸を掻き毟るかのように体に掛けられた毛布を握り、苦し気な声を上げるナオ。

そんなナオを放っておけなかったのか、ゼクダスは再び部屋の中へと戻ると、寝台から立ち上がったゼロと共にナオが横たわる寝台の脇へとやって来る。

 

「ナオ」

 

眠りが浅かったのか、ゼロが呼びかけた瞬間に呻き声が止み、薄らとナオの瞼が動いた。

しばしボーっと天井を見ていたナオだったが、自分を覗き込むゼロとゼクダスへ視線を合わせると、完全に覚醒したのか大きく目を見開いた。

 

「兄貴……ゼクダスさん……」

「大丈夫か?」

「うん……」

 

己を気遣うゼロの言葉に返事をするも、その顔は何処か浮かない。

ナオは寝台から起き上がると、しばしの沈黙の後に口を開く。

 

「あのさ、グレンってどうなったのかな」

 

その言葉に、先程の鬼気迫る状況を思い出す。

スペースニトロメタンの海へと落ちていく、グレンファイヤーとゴルバ。

そして広がる地獄のような爆炎。

 

普通に考えれば、無事では済まないだろう状況だ。

 

「あいつは無事だ、きっと……」

「……そっか」

 

それでも、ゼロは諦めずに無事を信じ続ける。

拳を交えたからこそ分かる、その強さを信じて。

 

「僕はそんなに強くない」

 

そんなゼロの、ある意味で強がりとも言える感情に気付いたのだろう。

ナオは一瞬考え込むように俯いた後、顔を上げてゼロの瞳を真正面から見つめた。

 

「でもやらなきゃ、ね」

 

その決意に満ちた眼差しに、ゼロの顔にも自然と笑みが浮かぶ。

 

「おう!!」

 

力強いゼロの返事に、ナオの顔にも笑みが浮かんだ。

その背後で、どこか複雑そうな表情を浮かべたゼクダスの様子に気付くことなく。

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