「カップを片付けてくれ」
『了解いたしマシた』
カチャリという軽い音と共にカップをソーサーに乗せると、アナライザーはそれを持って居室から出て行く。
その背中を見送った後、俺は自室に備え付けのデスクチェアへともたれかかり、「ふう」と溜息を吐いて天井を見上げた。
「さて、
グレンファイヤーとの一件を収めた俺はUX-01に搭乗したまま、護衛の第28統治艦隊を従えてマレブランデスへの帰路を急いでいた。
ベリアル様が俺の事を心配している……という事は無いだろうが、俺が居なくなった場合にどのような行動を取るのか全く予想が付かない。
下手すればニュークシアにも危害が及ぶかも考えると、正直言って気が気ではない。
『間もナク、エスメラルダ側の亜空間ゲートへと抜けマス』
延々と続く青い靄のような空間の中、正面に巨大な円形の壁が見えて来る。
銀色の水面のようなそれに、俺の乗った宇宙船は突っ込んで行った。
そして接触した瞬間、滝を割るかのように壁を掻き分け、宇宙船は通常宇宙へと顔を出す。
『第28統治艦隊も亜空間ゲートを抜けマシた』
いや、それにしてもこの亜空間ゲートを作っておいて良かった。
俺は艦の背後に有る巨大な構造物を見上げる。
コレもまた、ベリアル銀河帝国の兵站を支える重要なシステムだ。
そしてそれと同時に、ベリアル様には明かせないメインの製造施設となる“ある工場”の存在を誤魔化す為の物でもある。
この亜空間ゲートは、その“ある工場”へと繋がってはいるが、俺の認証が無ければ、そこへ至るゲートは開かないようになっているのだ。
そうする事で、“ある工場”で製造した大量の兵器を秘密裏に運ぶ事が可能なのである。
……ん?「“ある工場”とは何か」って?
それに関しては今は答える事は出来ないが、ヤマトのファンなら勘づく人も居るかもしれないとは言っておこう。
さて、目の前の問題を片付けるか。
通常宇宙へと抜けた俺の目の前に、惑星エスメラルダと、それに寄生するかのように取り付くマレブランデスが目に入る。
どうやら変わりは無いようだな。
≪ドォンッ!!≫
「……は?」
そんな事を思っていた俺の目の前で、マレブランデスの一角が爆発した。
一体何事だ!?
「アナライザー!!」
『爆発が起キタ場所は、第一指令室のヨウです』
「第一指令室だと!?」
第一指令室、マレブランデスの制御を司る中枢部にして、ベリアル様の玉座が設置してある場所だ。
何故そんなところで爆発が起こる?テロか?
いや、マレブランデスへの侵入なんて、よほどの手練れでなければ不可能の筈。
「第一指令室へ急行しろ!!」
―――――――――――――――
パルデスがグレンファイヤーとの一件を納める少し前、
エスメラルダを一望し、護衛の膨大な艦体が整然と並ぶ壮観な光景を見下ろすマレブランデスの第一指令室は、凄まじい緊張感に包まれていた。
咄嗟の機転により搭乗艦のワープでスペースニトロメタンの爆発から逃れたダークゴーネ、
そして運よくめり込んでいた宇宙船が旗艦に続いて自動ワープした事により同じく難を逃れる事が出来たザウラー、
ベリアル銀河帝国が誇る二人の大幹部が直立不動で立ち並ぶ。
そしてそんな二人の前で、玉座に腰を掛けるカイザーベリアル。
「……で?」
カイザーベリアルの発した一言が、静まり返った第一指令室内に響き渡る。
足を組み、悠然と背もたれにもたれ掛かるカイザーベリアルは、一見するだけではいつもの態度と変わらないように見える。
その全身から発せられる、猛烈な不機嫌オーラを感じる事が出来ないのなら、ではあるが。
しかし、余程の神経の図太さでもなければ、そんな事は有り得ないだろう。
現に、ダークゴーネとザウラーの額には猛烈な脂汗が浮かんでいる。
「グレンファイヤーの抵抗により、スペースニトロメタンの海が爆発、それに巻き込まれパルデス・ヴィータは行方不明に《ガンッ!!》
カイザーベリアルの拳が肘掛けに振り下ろされ、凄まじい衝突音が発せられる。
あまりの轟音に、ザウラーはビクリと背筋を跳ねさせ、途中で言葉を遮られる形となったダークゴーネは喉奥から「ヒッ!?」という小さな悲鳴を上げて黙り込んだ。
「俺様の帝国は確かに弱肉強食、己の身を守れねぇ奴は死んで当然だ」
ゆっくりと立ち上がったカイザーベリアルが、ゆったりとしたマントを引きずりながら、一段一段踏みしめるように玉座前の階段をゆっくりと降りて来る。
それを見る二人の心境は、階段を下りて来るのを見ているだけなのに、まるで自分達が死刑台の階段を昇って行くような錯覚に囚われた。
「そっ、そうです、我らの帝国は弱肉強食!!能力の無い奴は排除されて当然です!!」
「ああ、弱い奴は居なくなって当然だ!!」
その様子からカイザーベリアルが明らかに激怒している事を悟ったダークゴーネは、慌てて機嫌取りの為にカイザーベリアルの言葉を肯定し、
ザウラーもそれに続いて頷きながら、カイザーベリアルの機嫌取りの為にごまを擦る。
……それがカイザーベリアルの更なる不興を買う行為だとは夢にも思わずに。