「ワープ終了、鏡の星への二次元ゲートへ到着いたしました」
幾度かのワープを繰り返した後、艦内放送によりジャンバードによる報告が入る。
その報告を聞いたゼクダスとエメラナはコックピットへと戻り、先程まで稽古していたゼロとナオに合流した。
「何、あれ?」
そしてそれと同時にコックピットのスクリーンへと投影された外宇宙の光景は、知らぬ者が見れば異様にも思える物で、
ナオが思わず口走った一言は、あらかじめ鏡の星の事を知っていたエメラナ以外の心情を的確に表現していた。
そこに有ったのは、漆黒の宇宙空間に浮かぶ、数十本もの巨大な結晶だった。
数百メートルはあろうかという高さのその結晶は、ジャンバードの航路の左右にまるで神殿の柱の如く等間隔に並んでおり、周囲の星の光を複雑に反射している。
そしてその結晶の間を進んで行った奥に、明らかに人工物と思しき物体が浮かんでいた。
「鏡……か?」
目の前の不可思議な光景に、軽く目を見開いたゼクダスが呟く。
分かりやすく言えば『巨大な姿見』とでも言えば良いのだろうか?
四方に額縁のような装飾が施された、これもまた一辺が数百メートルはあろうかという長方形の鏡、
これが回転しながら宇宙空間に浮かんでいるのだ。
しばし呆気に取られていたゼロではあったが、戦いの中で鍛えられたその鋭い観察眼は、回転する鏡の中にあるものを発見していた。
「あれが鏡の星?」
回転する鏡の平面が此方を向いた数瞬、鏡の中に一つの惑星が映っているのが見える。
ゼロのその言葉にエメラナは頷くと、その星について語り始めた。
「私達の先祖は、二次元の民と交流が有ったのです。王宮を守っていたミラーナイトは、二次元人の父と、エスメラルダ人の母を持つ偉大な勇者でした」
「ミラーナイト……」
「でも彼は、ベリアル軍に襲われた時に私を逃がしてくれて……」
エメラナの口から出て来た聞き慣れない名前。
ただエメラナの口ぶりから察するに、かなり親しい間柄だったのだろう。
そして同時に、悲し気に口をつぐんだ様子から、ベリアル軍の襲撃でその身に何らかの出来事が起こったという事は分かった。
「光信号発信、『ワレ ジャンバード ニュウコク キボウ』」
ジャンバードの声と共に、主翼の根本からフラッシュが明滅する。
そしてしばらく後に、鏡の表面に紋章のような物が浮かび上がった。
「姫様、入国を許可されました」
「そのまま入国を、航路に関しては先方の指示に従って下さい」
「了解」
俯いていたエメラナだったが、ジャンバードの声にハッと我に返ると鏡の星へと入国するように指示を出す。
ゆっくりと動き出したジャンバードは、そのまま鏡へと接近して行く。
「これって大丈夫なの?」
「二次元人からの許可は取れたので、大丈夫ですよ」
その際に、鏡に激突した小惑星が粉々に砕け散るのを見たナオが不安気にエメラナへと問いかけるが、
エメラナは不安を取り除く為なのか、ナオの方へと振り返り笑顔を見せた。
そして、ジャンバードの機体は鏡へと接触した。
「……二次元ゲートを通過、間もなく鏡の星へと到着いたします」
何の揺れも抵抗も無く、ジャンバードの機体はスルリと鏡を抜け、二次元世界にある鏡の国へと向かって行った。
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《蒔いた種のどれぐらいが生き残るかは私にも分からない、そんな辛い道だが、きっとこれが宇宙の存続には必要な事なのだ》
《お前に名を与えよう、三つ目の箱舟である『導きの箱舟』として、人類が諦めぬ限り、それを助ける者として……》
『ご主人様?』
「……」
『パルデス様!!』
「……ハッ!?」
自分を呼ぶ声に意識が急激に覚醒し、飛び起きるようにして俺は周囲を見渡す。
様々な情報を映し出すディスプレイに、発光している機器類……戦艦の艦橋である。
『モウ間も無く、目的地に到着いタシます』
覚醒し切れずボウとした頭のままに自分の右隣を見れば、アナライザーが此方を見て立っている。
どうやら艦橋の艦長席でうたた寝をしてしまっていたようだ。
「すまないな、眠っていた」
『毎日無理をし過ぎではないデスか?人間には休養モ必要でショウ』
「確かに必要だな、けど今が正念場なんだ」
指で摘まむ様に眉間を擦りながら、寝ぼけ眼を覚ましていく。
それにしても……
俺は先程の事を思い出す。
勿論、考えている事は睡眠中の夢の事だ。
数週間前から、ずっと同じ夢を見ている。
幼き命の手を引きながら歩き、何かを言い聞かせる夢。
夢の光景からして、おそらくは自分の前世の記憶……古代アケーリアス文明に関する物なのだろう。
だが、全てが朧気で、ハッキリとした事は分からない。
何か重要な事を忘れている気がするのだが……
『アイアロンが率いる艦隊ヲ補足、間もなく合流いたしマス』
「分かった、これより作戦行動を開始する」