二次元世界への侵入を許されたジャンバードは、大気圏を突っ切るように急降下していく。
薄い雲を抜けた先にあるその光景は山一つ無く平坦で、街の一つすら見えない。
そんな光景を尻目にジャンバードは空中を滑らかに飛んで行き、大気の動きからか多少の揺れは有ったが、無事に鏡の星の地表へと降り立った。
そして降り立つと共にすぐさま機体に内蔵されていたタラップが自動で展開し、外部へとアクセスする機密ハッチがゆっくりと開いて行く。
「すげぇ……」
ハッチの外に広がっていた光景に、万一に備えて危険を確認しようと真っ先に外に出たゼロの口から感嘆が籠った言葉が漏れる。
地平線まで続く、磨き上げられた硝子のような大地。
よく見てみれば硝子の大地の下ではエメラルドグリーンの海がさざ波を描いている。
宇宙そのままの濃紺に染まった空にはレースの如く緑色のオーロラが揺らめき、その緑色の光を地表が反射して4人をボヤリと照らす。
「うわっ!?」
幻想的な光景に呆気に取られていたナオが、不意に感じた妙な感覚に驚きながら足元を見れば、
そこにはまるで川のような白い筋が流れており、ナオの足の動きに合わせてパシャリと水跳ねの音を上げる。
だが、その見た目に反して、水流はナオの足を濡らす事は無かった。
「答えてください二次元の民よ、私達はバラージの盾を求めてここへ来ました」
そんな中で、エメラナは一歩前へ出ると声を張り上げて二次元の民へ問いかける。
周囲に人っ子一人いないこの場所で誰が答えてくれるのか?
そう思ったゼロの疑問に答えるように、周囲に一つの声が響いた。
《我々は三次元世界で起こる事に関知しない》
冷たく切り捨てるようなその声――二次元の民の返答に、ゼロは思わずカッとなって言い返した。
「ベリアルはいずれここにも侵略に来るぞ!?」
《承知している。我らの鏡は宇宙のあらゆる場所を映す》
「じゃあ何故動かない!!」
言いながら、ゼロは炎に包まれたエスメラルダの惨状を思い浮かべる。
あんな事になってしまったのはベリアルを倒しきれなかった自分のせいだ。
だが、罪悪感混じりのゼロの怒声にも、二次元の民は小動もしない。
《誰が何をやっても変わらない。滅びる時は滅びれば良い》
諦観混じりのその態度に、今度はナオが怒声を上げた。
「ふざけるな!!みんな頑張って生きてるんだぞ!!」
《……見るがいい》
ナオの怒声に一拍の沈黙を置いた後、二次元の民の苦々し気な声と共に4人の目の前に有る地面が円形に割れ、ある光景を映しだした。
辺り一面に広がる岩の荒野、その中の一つ、一等大きい岩の上に一つの人影が有った。
「ミラーナイト!!」
人影の姿を視認したエメラナから悲鳴のような声が響く。
どうやらエメラナの様子からして、この人影の正体こそが先程話していたミラーナイトのようだ。
そう理解したゼロ、ナオ、ゼクダスの三人は改めてミラーナイトの様子を見てみるが、どうにもおかしい。
岩の上に体育座りで膝に顔を埋め、どうも塞ぎ込んでいるように見える。
「彼はどうしたの!?」
《エスメラルダの王宮を守る為、持てる力の全てを使ってしまった》
《ミラーナイトの魂はベリアルの闇に侵され、自らを封印するしか無かった》
ミラーナイトの様子のおかしさに気付いたエメラナが、二次元の民にミラーナイトの異変を問いただす。
しかし返って来たのは、あまりにも残酷な現実であった。
《もう、どうにもならん……》
その姿を見て、二次元の民もショックを受けたのだろう。
諦観に満ちたその声には深い絶望が垣間見えた。
が、それに反発する者が一人。
「諦めるんじゃねぇよ!!俺がアイツを元に戻してやる!!」
「ゼロ?」
怒声を上げたゼロに、エメラナが心配した様子で問いかける。
先程の炎の海賊の一件も有り、また無茶をするのではと思ったのだ。
そんなエメラナの心情を察したかのように、ゼロはエメラナの方へと振り向き視線を合わせると、その心配を払拭するかのように不敵な笑みを浮かべる。
「このままにして良いワケねぇだろ」
駆けだしたゼロは、円形に崩れた地面の淵まで来ると、手を前方へと翳す。
そうするとウルトラゼロブレスレットが発光し、眩い煌きと共にウルトラゼロアイが出現する。
ゼロアイを手にしたゼロは一拍、瞼を閉じ息を吐き、そしてカッと目を見開くと、覚悟を決めるかのようにゼロアイを自らの双眸に重ねた。
「デュアッ!!」
その瞬間、ゼロの体は閃光に包まれ、人型の輪郭が見る見るうちに肥大化して行く。
数十メートルまで巨大化し切った人型――真の姿へと変貌したウルトラマンゼロは、迷う事無く目の前の割れた地面へと飛び込んで行った。
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「随分と遅い到着だったなぁ、パルデス」
「私は忙しいのでね、たまに君を羨ましく感じるよ」
相変わらずの纏わりつくようなバリトンボイスで紡がれる皮肉に、一つ溜息を吐いて皮肉を返すと、アイアロンに額に青筋が浮くのが見える。
煽り耐性低いなら変な煽りをしてくんなよ……と呆れつつ、俺は艦をアイアロンが率いる艦隊に合流させた。
アイアロンにはダークゴーネと同等ぐらいの艦艇とレギオノイドが与えられている。
ただ、ダークゴーネと違い腕っぷし一本鎗でのし上がって来た輩だ。
小細工という物を好まない為、ベリアル軍の中で一番艦艇の損耗率が高いのがアイアロン率いる艦隊だった。
まあ、戦力の追加だけなら特に問題は無い。
今のところは無尽蔵で提供出来る体制が整っているからな。
『間もナク、鏡の星に到着いたしマス』
さて、仕事の時間だ。
アナライザーの報告を聞き、懐のホルスターを確認すると、俺は艦長席から立ち上がった。