悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

156 / 164
第百五十一話【騎士の帰還】

鏡の如く光沢を帯びた地面が波打ち、水飛沫と共に二つの巨大な影が飛び出した。

一つは光の巨人である本来の姿に戻ったウルトラマンゼロ、そしてもう一つは……

 

「ガァァァァァッ!!」

 

まるで吠えるように叫び、猛然と目の前のゼロへ躍りかかる影。

 

銀色の体表に走る翠色のラインが際立つもう一人の巨人。

そう、それはかつてエスメラルダを守護していた偉大なる戦士……ミラーナイトの成れの果てだった。

 

「グルゥゥゥゥゥッ!!」

 

ベリアルの闇に侵され変貌したその姿には、かつて『鏡の騎士』と呼ばれた気高さなど存在しない。

まるで本能で動く獣の如く、肩をいからせて威嚇し、その鋭い爪を殺意を持って振るう。

かつては理知的な光を湛えていたその十字の目は、今では淀んだ朱色に爛々とギラつかせ、目の前の(ゼロ)を狙っていた。

 

「ぐうっ!!」

 

素早く突き出される両手を握って封じ、ミラーナイトと取っ組み合うゼロ。

本能のままに突き出される荒々しいその手刀は、粗削りでも歴戦を戦い抜いて来た戦士の肉体から繰り出される物である。

その凄まじい膂力に、思わずゼロは短くうめき声を上げる。

 

「ウガァッ!!」

 

自らを止めようとするゼロに苛立ったのか、ミラーナイトはゼロの腹に蹴りを繰り出した。

咄嗟に背後へ飛ぶ事でダメージを軽減したゼロだったが、完全に回避する事は出来ず、ミラーナイトの足裏が接触した場所を摩りながらミラーナイトを一瞥する。

 

対するミラーナイトは、そのまま追撃を掛けようと駆け寄り再び脚を振り上げたが、二発目の蹴りはゼロが横へと避けた事で不発に終わった。

 

が、本能に支配されながらも戦士としての能力は凄まじい。

 

そのまま立て続けに繰り出される蹴り技の連撃は凄まじいキレとスピードで、ゼロの体を狙って来る。

一発でもまともに受けてしまえば、流石のゼロでもタダでは済まない。

 

横薙ぎに顔面へと繰り出される物は姿勢を低く屈め、胸へと繰り出される蹴りには上体を逸らし、足元へと繰り出される蹴りはジャンプで避ける。

 

「ガハッ!?」

 

が、足元への蹴りを避けられたミラーナイトが突如として背面へと跳ね上がり、バク転の要領で足を振り上げてゼロの腹へと爪先を食い込ませた。

鈍い衝撃音と共に突き刺さったその蹴りの重さにゼロの口から息が漏れ、体は地面へと転がる。

しかし、ゼロは転がった勢いのまま立ち上がり、再び鋭利な爪で裂こうとしてきたミラーナイトの両手首を掴み封じる。

 

「グッ!!」

 

両手を封じられたミラーナイトは、必死にゼロの拘束から逃れようと幾度も脇腹へと膝蹴りを繰り出すが、ゼロは痛みと衝撃に苦しめられつつもその手を離さない。

動じないゼロの様子に怯んだのか、それとも抵抗しても弱まらない拘束に疲労を感じたのか、ミラーナイトの動きが戸惑うかのように一瞬止まった。

 

その隙を突き、ゼロはミラーナイトの体を半回転させ、背後から抱き留めるような拘束へと体勢を変える。

 

「俺の光で、お前を浄化してやる!!」

 

ゼロの言葉と共に、ゼロ自身の肉体が眩く発光し始める。

その体に内包された光のエネルギーは凄まじく、鏡の星の地表に反射する事で、より強烈な閃光となって周囲を照らす。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

自らの肉体から目の前のミラーナイトへと光のエネルギー注いでいくゼロ。

その注がれていくエネルギーに比例するように、ミラーナイトの肉体から闇のエネルギーが蒸気のように噴き出て霧散して行く。

二人の戦いの一部始終を見ていたナオ、エメラナ、ゼクダスの三人は、眩しさに目を細めながらも、まるでゼロを体現するかのような鋭くも温かいその光に、場違いながらも安堵を覚えていた。

 

そして……

 

「うおらァァァァァッ!!」

 

「きゃあっ!!」

 

「うわっ!?」

 

「――っ!!」

 

最後に発せられた激しい光の奔流。

光なのに質量さえ感じさせる膨大なエネルギーと、先程までとは比にならない爆発的な閃光に、戦いを見ていた三人は腕で顔を覆う。

しばしの間、光が周囲を満たし、そしてまるでゆっくりと沈む夏の太陽の如く光が収まってくる。

 

「ミラーナイト!!」

 

一秒が永遠にも感じられる緊迫した数瞬の後、目を開けられる程度に収まってきた光に、顔を上げて状況を確認する三人。

視線の先には、黄金の瞳を取り戻し、白銀の光を纏った清廉な巨人が一人立っていた。

そこには先程までの荒々しさは微塵も無く、かつての騎士が再び帰還した事を悟ったエメラナが、喜色に富んだ声でその名を呼んだ。

 

「もう大丈夫、彼のお陰です」

 

荒々しい獣のような唸り声は鳴りを潜め、紳士的で穏やかな口調でエメラナへと語り掛けるミラーナイト。

そしてその手の指し示す方向には、ミラーナイトが言う彼――ランの姿へと戻ったゼロが、疲労で少しよろめきながらも、得意満面の笑顔で三人の元へと歩いて来る。

 

「どうだ、参ったか!!」

 

「ありがとう!!」

 

快活に拳を振り上げるゼロへ、心からの感謝の気持ちを込めた礼の一言を言うミラーナイト。

それに重ねて、エメラナがゼロへ駆け寄って手を握り、礼の言葉を口にする。

 

「ありがとうゼロ、本当にありがとう!!」

 

「……礼はまだ早ぇぜ」

 

ミラーナイトが助かり安堵したエメラナは、どこか泣きそうな笑顔で、

その表情と態度に戸惑いと照れが綯交ぜになったゼロは顔を赤らめ、エメラナから視線を逸らす。

そんなゼロの照れを察したのか、ナオがニヤニヤと笑いながらゼロの腹を小突いた。

 

「何すんだよっ……」

 

ナオに揶揄われた事を悟り、ゼロは照れ隠しにナオの頭をクシャクシャとかき混ぜる。

一見、微笑ましく見える光景だったが、ゼロの手首に装着されたブレスレットを見てエメラナの表情が凍り付いた。

 

ブレスレットの光が、また一つ消えている。

 

「そのブレスレット、やはり……」

 

ゼクダスもその事に気付き、ゼロへと視線を向ける。

思わず漏れたゼクダスの言葉とエメラナの態度から、己の変身の秘密――回数制限について知られてしまったと悟ったのだろう。

ナオを不安がらせないように口にはしないが、無言で二人を見つめる視線からは、言葉にせずともその懸念が真実である事を如実に示していた。

 

《ウルトラマンゼロ、そなたの光、我らにも届いた》

《そなた達は希望かもしれん》

《バラージの盾を掴むが良い》

 

だが、そんな不安を払拭するかのように、今までミラーナイトとゼロの戦いを静観していた二次元人の声が響く。

その言葉に、エメラナの胸に希望の炎が灯る。

 

そうだ、自分達にはまだ希望が残されている。

バラージの盾を手に入れれば、ゼロの窮状を打破できるかもしれない。

 

まだ勝機は有る、そう考えていた時であった。

 

≪ゴォンッ!!≫

 

突如として、地面が揺動した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。