悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第百五十三話【バラージの盾は…】

流れる川の上流へと向かい走っていたゼロ達四人。

ドレスという動きにくい恰好のエメラナを気遣いつつも急ぎ進んでいると、洞窟の光景に変化が現れ始める。

 

それまでは薄ぼんやりと洞窟を照らしていた程度の光源が、まるで朝焼けの如く明るくなってきたのだ。

そんな変化を感じ取りながらも足を進めれば、やがて洞窟の奥に建造物が建っている見えて来る。

 

岩から掘り出されたであろう、まるでギリシャのパルテノン神殿を思わせるようなドーリア式の立派な柱。

そんな物が洞窟の奥までズラリと並び、先程までの岩石が露出した洞窟とは明らかに雰囲気を異としている。

 

おそらくはココが、ミラーナイトの言っていた地下神殿なのだろう。

 

ゼロ達は歩みを緩め、慎重に神殿の中を探索して行く。

大小さまざまな石が転がっていた先程までの川底と違い、しっかりと平坦な石のブロックにより舗装された床、奥の方まで数十本もの建っている柱、

神殿の中は暖色の光で満ちており、視界を邪魔されずに隅々までよく見渡せた。

 

そして神殿の最深部に“ソレ”は有った。

 

「これは……」

 

目の前の光景を見たゼロは、驚きに思わずそう口から零し“ソレ”を凝視する。

 

“ソレ”は巨大な数十メートルはあろうかという人の上半身の形をした石像であった。

いや、形は人型だが明らかに人間ではない。

 

まるで甲冑を着たかのような胴体、口であろう部分はまるで退化したかのように奥行きが無く、その目はまるで鶏卵のような形状をしている。

そして何より、背中から生えて頭部の上まで伸びた一対の翼。

 

「伝説の巨人、『ノア』だ」

 

「ノア……」

 

ナオが口走ったその名前を聞き、反芻するようにゼロもまたその名を呼ぶ。

遺跡の最奥にそびえ立つ、神秘的な神々しさと戦士の猛々しさを併せ持つその像は、巡礼者たるゼロ達を静かに見下ろしている。

 

「これがバラージの盾……」

 

そして視線をその石像の下へとやったエメラナが、驚きに目を見開きながら前方を見る。

 

ゼロ達が歩いて来た通路の最奥に、そこに地面に突き刺さるようにして鎮座する一つのオブジェクト。

ノアの石像よりかは小ぶりなものの、それでも成人男性の背丈を優に超えるぐらいの大きさが有り、形状そのものは鋭利な角が幾本も突き出た花弁のような形をしている。

 

それは一般的に言われているような盾とはあまりにも異なる形状ではあるものの、ゼロ達は直感的に、それが自分達の追い求めて来た“バラージの盾”だという事を悟った。

 

「それならそこにナオのペンダントを……」

「そうだよ、欠片を嵌める場所があるはずなんだ」

 

ゼクダスの呟きに答えたナオが、石像全体をくまなく観察する。

石像の中央、そこだけ岩肌のようになっておらず、ナオの持っているバラージの盾の欠片と同様の橙色をしている。

そしてその中央に、丁度バラージの盾の欠片と同じ形状の溝が掘られていた。

 

「ここだ!!」

 

ナオはペンダントを首から外すとその紐を解き、ペンダントトップとして括りつけられていたバラージの盾の欠片を手に取った。

これでカイザーベリアルを倒し、宇宙を……故郷を救う事が出来る。

 

歓喜に満ちた笑みを浮かべ、ナオは慎重に溝へとバラージの盾の欠片を嵌め込んだ。

 

「よし、これで蘇る」

 

後ずさり、バラージの盾から距離を取るナオ。

その横でゼロ、エメラナ、ゼクダスも固唾を飲んで見守る。

 

≪ザァァァァッ……≫

 

が、その期待は崩れ落ちた。

そう、文字通りに。

 

「嘘だろ?何で……何でだよ!!」

 

欠片を嵌めた途端、地鳴りと共に一瞬にしてバラージの盾は砂塵となって消え去った。

あまりにも無情な目の前の光景に、ナオの銅突が虚しく響く。

 

「石の盾は光り輝く筈なんだ!!父さんがそう言ってたんだ!!」

 

カイザーベリアルを倒す為の最後の希望、それを信じていくつもの死線を乗り越えてここまでやって来たのだ。

その結末がコレである。

人一倍、伝説を信じて頑張って来たナオの心は、脆く折れそうになっていた。

 

「父さんは間違ってたの?ねえ!!」

 

背後のゼロへと振り向いたナオ。

その顔には悲しみと困惑がありありと現れ、絶望に染まろうとしていた。

 

「ナオ、自分の親父を信じなくてどうする」

 

今にも涙を零しそうな瞳と静かに見ながら、ゼロは言い聞かせるようにナオへと語り掛ける。

 

脳裏に思い浮かべるのは、故郷で自分の帰りを待っているだろう凛々しく赤い戦士、ウルトラセブン(父親)の姿。

そしてランの物であろう記憶の中で見た、ランとナオの父親の記憶。

 

全く違う父親像ではあるが、子を想う愛情の強さは変わらない物だった。

だからこそ、ナオの父親が言った事に嘘はない筈だ。

 

「きっと何か理由が有るのですよ」

 

そんなゼロの想いを肯定するかのように、エメラナも言葉を紡ぐ。

彼女の父親もまた、王としての偉大さを持ちながら、誠実に家族と接する人物であった。

だからこそエメラナもまた、ナオの父親の事を信じたかった。

 

「……」

 

二人の言葉を聞いたナオは、目元に滲んだ涙を袖で乱暴に拭うと、顔を上げてノアの石像を見上げる。

ナオ自身も、何故そうしたのかは分からない。

ただ、不思議とそうしなければならないと思ったのだ。

 

そして……

 

「今、何か……」

 

ナオの脳裏に、まるで電流の如く流れ込んで来た声。

その不思議な声に、導かれるようにノアの石像へと一歩を踏み出した瞬間だった。

 

「宝探しは済んだかな?諸君」

 

神殿の中に、場違いな程に穏やかで、そして全てを嘲笑うかのような声が響いた。

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