悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第百五十六話【表返り】

どうする?どうすれば……

 

額から流れる汗を拭う事もせず、俺は目の前で差し伸べるように手を差し出すパルデスを睨む。

援軍も無く、奴はたった一人で来た。見た限りでは白兵戦には慣れていないようで、俺が拳を繰り出した時はかろうじて受け身を取って避けたが、その動きは素人に毛が生えた程度。

 

制圧だけなら容易い。

が、奴の背後には惑星の破壊を簡単に出来る宇宙艦隊が控えている。

下手な事をすれば、また何億、何十億の命が宇宙に消える事になるだろう。

 

選択肢は限られている。

 

固唾を飲んで俺達を見るエメラナ、ナオ、ゼクダス。

そして今この瞬間にもベリアル軍による侵略を受けている鏡の星の住人たち。

 

その重みを感じながら、俺は深く息を吐きつつ右手を前へ翳せば、光と共に虚空から現れるウルトラゼロアイ。

掌の上に現れたそれの硬質な感触を指でなぞりつつ、思考を巡らせる。

 

一分も無いような短時間だったが、張り詰めた空気の中での体感時間は永遠にも感じる。

そしてゆっくりと顔を上げ、俺はただ一言だけをパルデスに告げた。

 

「コレが欲しいんだろ?」

 

パルデスの目の前に見せつけるようにゼロアイを見せつければ、奴は笑みを深める。

奴の目には勝利の確信が宿っているように見えた。

 

「賢明な判断は称賛に値する、ウルトラマンゼロ」

 

俺はゼロアイを手にしたまま、ゆっくりと歩み寄る。

距離は数メートル、奴の視線が俺の手の中に有るウルトラゼロアイへと集中した瞬間。

 

そこがチャンスだ。

近づいたら一瞬で奴の腕を捻り上げ、銃を奪い取って拘束する。

 

艦隊の脅威は残るだろうが、拘束した後にすぐパルデスに止めさせる。この状況を打開するにはそれしか無いだろう。

ベリアル軍は少数の幹部以外はパルデスが開発した無人戦艦とロボットのみの軍隊、まず間違い無く兵器に関して高い権限を持っているはずだ。

 

一歩一歩踏みしめるごとに響く自分の靴音に合わせ、心の中でカウントダウンを始める。

 

(タッ)……

 

(タッ)……

 

(タッ)……

 

(タッ)……

 

(タッ)……

 

あと一歩で間合いに入る。

そう思った瞬間、徐にパルデスの口が開いた。

 

「待て」

 

奴は俺の動きを察したかのように一言発した後、銃口を向けたまま一歩後退る。

 

「ウルトラ戦士とは最後まで諦めないものだ、そうだろう?ゼロ」

「……」

 

俺の行動を察したかのようなパルデスのその言動に、内心で悪態を吐く。

やっぱり一筋縄じゃいかないか。次はどんな行動を取る?

 

ギリギリの状況で必死に思考を回転させている俺を他所に、パルデスはしばしの沈黙の後に視線を俺の背後へと移し、穏やかな口調で呼びかけた。

 

「君が持って来るんだ」

「え……?」

 

エメラナの驚きの声が漏れる。俺も一瞬、振り返りかけたが奴の銃に意識を集中させた。

奴が銃口で指し示した先に居たのは、ゼクダスだった。

指名されたゼクダスはと言えば、目を見開き驚きの表情を見せた後に、多少の間の後に一歩を踏み出す。

 

「ゼクダスさん!!」

「こっちに来るな、ナオ!!」

 

ナオが今にも駆け出しそうな様子で叫ぶが、俺はその行動を制止するよう言葉と視線を送る。

今迂闊に動けばただでは済まない、その事をナオも分かってはいるのだろう。

制止の言葉を聞いたナオは、悔しさを堪えるようにグッと押し黙る。

 

「ゼロ、すまない」

 

ゼクダスは謝罪の言葉を口にしながら、ゆっくりと此方へと歩み寄って来る。

近づいて来るにつれ、その強張った表情と、額を流れる汗が視界に入る。

 

ここでふと、疑問が浮かぶ。

何故、パルデスはゼロアイの受け渡しにゼクダスを選んだんだ?

 

一見して無力そうに見えるエメラナや、少年であるナオではなく、青年であるゼクダスを。

リスクを考えれば、肉体的アドバンテージで有利なエメラナやナオを選ぶはず。

それなのに、俺とそう変わらないぐらいのゼクダスを態々選んだのがどうにも不自然に思えた。

 

が、その疑問を解決する暇は無かった。

一歩一歩と歩み寄って来たゼクダスへと視線をやり、次にしばしゼロアイを見た後、ゼクダスから差し出された手へとゼロアイを押し付けるようにして渡す。

 

「すまない……」

「謝るなって、お前は悪くない」

 

再度、ゼクダスが謝罪の言葉を口にする。

何処か悲し気で、申し訳なさそうな顔で俯くその表情を見た俺は、ゼクダスを励ますように軽口をたたいて笑顔を作る。

 

が、その表情は晴れない。

 

「いや、俺はお前に謝らなければいけない」

 

俯いていた顔を上げたゼクダスは、スッと顔を上げて視線を合わせて来た。

 

何の感情も抜け落ちたような無表情。

 

先程と様変わりしたゼクダスの表情に、異変を感じた時にはもう遅かった。

 

「あっ……?」

 

普段は上げないような間抜けな声を上げ、俺の視界はぐるりとひっくり返った。

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