「パルデスっ!!」
俺の名前を叫びながら、鋭い眼光で俺を見上げるゼロ。
おお怖い怖い。
もしも拘束されていなければ、今頃俺はどうなっていた事か……
「ご苦労、ゼクダス」
今も無表情でゼロの拘束を続けるゼクダスの労を労う様に、礼の言葉を口にする。
それにしても鮮やかな一本背負いだったな。
俺が指名した意図を察知して自主的に行動を起こしたのもポイントが高い。
実にお見事な手際だ。
「何でだよっ!?ゼクダスさんっ!!」
「おっと」
「っ!!」
突如として目の前で行われた裏切り。
混乱したナオは此方へ駆け寄ろうとするが、俺は銃口を向ける事でそれを制した。
悔しそうな表情を浮かべたナオは、それでもせめて目の前のか弱い存在を守ろうと思ったのか、エメラナを背後に庇う様に此方と正対する。
ふむ、お子様なのに殊勝な心掛けだな。
「何故なのです?」
「ん?」
呑気にそんな事を思っていると、か細く震えるような声が耳に届く。
その声の発信源へと視線をやれば、震える手で自らの服の胸元を握るエメラナが、悲しさと困惑の綯交ぜになったような表情でゼクダスを見ている。
「ゼクダスさん、あなたにとってお二人は大切な存在では無かったのですか?」
「……」
エメラナの泣き落としにも近い台詞。
それを聞いたゼクダスの表情は変わらない無表情ではあるが、ゼロを拘束している手が一瞬、ピクリと動く。
どうやらゼクダスにも思うところが有るようで、それなりに動揺したようだ。
まあ、良いだろう。
別に裏切るという事はしないだろうし、情緒の発達は望むところである。
「そもそもゼクダスをアヌーへ行かせたのは私の指示だ」
「……え?」
「バラージの盾の噂を聞いてね、ベリアル様の障害になる可能性を考えて、調査の為に送ったのだよ」
「じゃあ、ゼクダスさんが俺達に近寄ったのも……」
「君達が有力な手掛かりだと悟ったからだろうな」
俺からのネタバラシ――まああくまでも、原作知識が有る事を察知させずにゼロの行動を監視させる為の表向きの理由ではあるが――を聞いたナオは、膝から崩れ落ちる。
その顔からは血の気が引いて真っ青になっていた。
「そんな、じゃあゼクダスさんは最初から……」
「ナオっ!!」
心配したエメラナがナオの隣にしゃがみ、その背を撫ぜる。
だがナオは呆然と地面を見つめるばかりだ。
余程ショックだったのだろうな、可哀想に。
「ゼクダス、お前は本当に……本当にベリアルの手先なのか!?」
そう叫びながら、ゼロがどうにかこうにかゼクダスの方へと振り返ろうとする。
ガッチリ押さえつけられてるのによくやるものだな。
「ナオやラン、エメラナへの態度も全て嘘だったのかよ!!」
その言葉に、僅かにゼクダスの顔が歪む。
……何だか可哀想になってきたな、助け舟を出してやるか。
―――――――――――――――
目の前で飄々と振舞うパルデスを目の前に、地面に押し付けられた俺は歯噛みする。
まさかゼクダスがベリアル軍のスパイだとは夢にも思っていなかった。
ランの記憶の中の物であるが、少なくともゼクダスはランとナオに対して友好的だったはずだ。
あの笑顔や労わるような行動が嘘だったとは思えない。
それなのに何故……と思っていた所に、パルデスの言葉が耳へと届く。
「そんなに責めないでくれたまえ、ゼロ、そもそも君がゼクダスを生み出したようなものなのだからね」
「何を言っていやがる!!」
意味の分からない事を言い始めたゼクダスを、俺は精いっぱい顔を上げて睨みつける。
対するパルデスは、相変わらず考えの読めない薄い笑みを浮かべるだけだ。
「君と初めて出会ったあの時、あの異空間で約束をした事を覚えているかい?」
「約束?」
その言葉を聞いた俺は、あの時……異空間で共に戦った時の事を思い出す。
確か別れ際にした約束……
そしてもう一つの約束、それを思い出した時、俺はハッとした。
「まさか……」
「君との約束通り、彼はしっかりと復活したのだよ」
「ゼクダス、いや、お前は……」
その瞬間、ゼクダスの顔と、かつて異空間で出会い、そして散っていった仲間の顔が重なる。
全ての要素がパズルのピースの如く噛み合わさった瞬間、一つの名前が口をついて出た。
「……ダークロプスゼロ?」
「その頭の回転の速さは流石と言うべきかな」
パルデスの言葉は、暗に俺の出した答えが合っているという事を示していた。
異空間で俺達の為に自殺同然の任務を遂行したダークロプスゼロ。
その命が潰える事を望まなかった俺は、ヒュウガやレイと共に『ダークロプスゼロの命の保証』を確約させた。
まさかそれがこんな形で叶えられてしまうとは……
≪ズズンッ!!≫
衝撃的な真実に思わず固まっていた俺の体に、身を揺らすような振動が床から伝わる。
ハッとして見上げてみれば、天井に亀裂が入っている。
……いや、天井ではない。
「そろそろ潮時か」
その傷に気を取られていた俺は、突如として近くで発せられたパルデスの声に対して咄嗟に対応できなかった。
致命的な一瞬、首筋にチクリと痛みが走る。
「束の間かもしれないが良き眠りを、ウルトラマンゼロ」
「ゼロっ!!」
「兄貴っ!!」
霞む視界で横を見れば、携帯型の注射器を手に微笑むパルデスの姿。
叫ぶように俺の名を呼ぶエメラナとナオの声を聞きながら、俺の意識はサッと遠のいて行った。