「束の間かもしれないが良き眠りを、ウルトラマンゼロ」
「ゼロっ!!」
「兄貴っ!!」
パルデスが徐に取り出した注射器をゼロの首元へ突き立てるその光景を、エメラナとナオは成す術無く見ている事しか出来なかった。
透明な注射器に充填されていた蛍光グリーンの液体が、一滴残らずゼロの体内へと吸い込まれ、それと共にゼロの目の焦点が定まらなくなっていく。
薬を注入し終え、用済みとなった注射器をパルデスが放る頃にはゼロの意識は完全に霧散しており、ぐったりと弛緩した身体はゼクダスによる拘束を解いても力無く地面へと投げ出されている。
ゼクダスはその横にしゃがみ込むと、意識も無く長身で重いだろうその体を軽々と持ち上げ、肩へと俵抱きにした。
「兄貴を返せ!!」
「いけません、ナオ!!」
怒りに冷静さをかなぐり捨て、顔を真っ赤にしたナオがパルデスとゼクダスへ駆け寄ろうとする。
だが、相手は銃を持っている上に、事実上ランとナオという二人の人質を確保しているのである。
その事を考えたエメラナはナオの後ろから腰へと腕を回し、前へ進もうとするその体を制止した。
「放せっ、放せよっ!!」
「落ち着いて下さい、無闇に駆け寄ってもどうにもなりません!!」
「ならどうしろって言うんだよ!!」
「それは……」
泣きそうな顔で静止しようとするエメラナへと、ナオは思わず声を荒げてしまう。
本当はナオ自身分かってはいるのだ、今無理矢理パルデスとゼクダスへ抵抗したところで、おそらくはゼロとランを取り戻す事が出来る可能性は低いと。
それでもナオは、例えその確率が1%も無いとしても抵抗せずにはいられなかった。
「実に血気盛んで宜しい、若者はこうでなくてはね」
そんなナオの様子を見ながら、パルデスは徐にコートの裾を捲り上げる。
突然の行動に何を考えているのか、と身構えたナオとエメラナだったが、パルデスは腰のホルスターへと銃を仕舞っただけだった。
その行動の意味が分からずに困惑する二人の前で、パルデスは堂々と微笑みを浮かべる。
「エメラナ姫、私が星を脱出する時に君へと言った事を覚えているかね?」
「私に、言った事……」
パルデスの言葉を聞いたエメラナは、エスメラルダから脱出した時の事を思い出す。
大気圏外に鎮座する巨大な敵艦、そこから発せられた一文のメッセージ。
「《私の心は、遥かに君達に近い》」
エメラナから発せられた一言を聞いたパルデスは、ニヤリといたずらっ子のような笑みを浮かべ、素性の軍帽を片手で脱帽する。
そして、その頭を深々と下げて一礼する。
「覚えていてくれて嬉しいよ、その言葉の意味はこれから分かる、
「一体どういう……」
エメラナがパルデスへと疑問を投げかけようとしたその時だった。
虚空から空間を割るようにして、突如『光る触手』が現れた。
触手の先端には花の蕾のような物が付いており、まるで花が咲くかのようにパカリと八方へと分かれる。
「また会おう、姫君、そして小さき勇者よ」
「待てっ!!」
ナオの制止も叶わず、その花はパルデス、ゼクダス、ゼロを飲み込んで閉じると、呆然とした様子で立ち尽くすエメラナとナオを残し、素早い動きで虚空へと消えていった。
ーーーーーーーーーー
「シルバークロスッ!!」
「ぬうんっ!!」
ミラーナイトから発せられる攻撃の数々を、機敏な動きで装甲の厚い場所に当てる事で受け流すアイアロン。
猛攻を受けても無傷なその様子を見たミラーナイトは、内心で歯噛みする。
鏡の星のゲート前で行われる攻防戦は一進一退……とは言えない程に、ミラーナイトは苦戦を強いられていた。
何せ数が圧倒的に違うのだ。いくらミラーナイトが強靭な戦士とはいえ、やはり多勢に無勢。
相手の攻撃を防ごうと奮戦するも、弾幕を防ぎきれずに撃ち漏らしたビーム弾がゲートへと被弾し、不穏な音と共に鏡面へ亀裂が広がる。
ただでさえ鏡の星に敵が侵入しているかもしれない中で、ミラーナイトの焦りは増していった。
『一体どうすれば……』
『ゼロはバラージの盾を手に入れる事が出来たのか……』
そんな事を脳裏で考えつつ、防戦に力を費やしていたミラーナイトだったが、不意に背後――鏡の星のゲートから異様な気配を感じ取る。
「何なんだ?」
その気配にミラーナイトが気を取られた瞬間だった。
「奴め、やっと仕事を終えたか」
アイアロンのその言葉と共に、鏡の星のゲートを突き破るようにして、巨大な物体が姿を現した。