ここから、ベリアル銀河帝国のクライマックスへと突入して行きます。
宇宙を往く戦艦グロデーズの艦内には、全長444mというその巨体に違わず様々なスペースが用意されている。
その中でも艦の中心に近い、装甲で囲われた最も安全で厳重と言える区画に存在する一つの部屋。
薄暗く、最小限の照明だけで照らされた壁面は有機的な曲線を刻み、まるで何かの生物の胎内を思わせるようなその室内。
その一室の中央に、一つのカプセルが有った。
「……」
薄ぼんやりとしたスポットライトで照らされたカプセル。
その傍らに立ち尽くすのは一人の青年。
アヌー特有の荒野の砂塵と直射日光に対応した白く、そして砂埃で煤けたその装束を見つつ、俺はその背中へと歩み寄る。
「何か思う事が有るのかね?ゼクダス」
「パルデス様……」
振り返ったゼクダスの顔は実に酷い物だった。
表面上はポーカーフェイスを装ってはいるものの、隠し切れない焦燥や後悔が感情が滲み出たその表情。
それを見て多少の罪悪感を覚えるが、気にしないフリをして横に並び、ゼクダスが眺めていたカプセルの中身を確認する。
カプセルの中に有ったのは眠りにつく一人の青年だった。
ゼクダスと似た装束を身に纏い、穏やかな表情で薄く呼吸をしながら瞼を閉じているのは、先程鏡の星で捕らえたアヌーの青年ラン……いや、ランと一心同体となったウルトラマンゼロだ。
投与された薬物(勿論、副反応は皆無)の作用により、今のゼロは深い眠りの海に堕ちている。
あと数時間もすれば、このままカイザーベリアルの御前に
「このままでは、ゼロは確実にカイザーベリアル様に殺されてしまうだろうな」
「……」
「助けたいかね?」
黙り込むゼクダスに対し、俺はふと思った事を聞いてみる。
ゼロはともかくとして、同じ村落で同じ釜の飯を食っていたランに対しては思う事が有るだろう。
俺の問いにハッと顔を上げたゼクダスは、しばらく何かを言いたげに口を開いたり閉じたりしていたが、
不意に何かを堪えるようにグッと押し黙り、此方から視線を逸らす。
「……俺は貴方によって生を受けた、貴方が傷つくような選択はしたくない」
「ほう……」
回りくどく紡がれたその言葉、要約すれば《助けたい》という意味だ。
でもそれはそれとして、創造主である俺を裏切るような選択を選ぶ事も出来ないのだろう。
実に深い葛藤だ。その心の成長具合は喜ばしい物だ。
俺の目元が緩み、思わず笑みを零してしまう。
元々は自分の目的の為に創った存在ではあったが、今となっては何とも言い難い感情を持ってしまう。
親から子への愛情のような物だろうか?
まあそれにしては色々とイレギュラーな要素が強すぎるとは思うが。
「悩むのは良いが体を休めておけ、いよいよここからが山場だからな」
言い残し、俺はゼクダスに背を向けて部屋の出口へと向かう。
そう、ここからが一番の山場、マレブランデスでの最終決戦である。
一つでも立ち回りを間違えれば、カイザーベリアルに潰されるか、はたまたレジスタンスに蜂の巣にされるか。
そんな大き過ぎる
ーーーーーーーーーーーーーーー
惑星エスメラルダ、並びにベリアル銀河帝国帝都マレブランデスから数十光年離れたとある小惑星帯。
この小惑星帯は磁性の高い鉱石が含まれた星々が漂っており、船舶の機器類への悪影響を鑑みて通常の航路からは外されている。
さしたる資源も無く、危険性も高い宙域、普段なら誰もそんな場所には行こうとしない、捨て置かれた場所だ。
が、そうであるからこそ、この場を選んでわざわざ来る者も居る。
《応答せよ……応答せよ……》
小惑星の間を縫うように航行する数十隻の艦。
その船団の中央を航行する一隻の軍艦から、通信が発せられていた。
《こちらはレジスタンス軍旗艦“マイティスター”である、応答せよ》
軍艦……マイティスターから再度発せられた通信。
その音波は波紋の如く広がり、宇宙の漆黒の闇へと吸い込まれていく。
無限に近い広さの宇宙からすれば、まるで広大な海に砂の一粒を落としたようなものだ。
……が、それを拾う者は間違い無く存在した。
間も無く、宇宙空間に無数の煌き――ワープアウトの閃光と共に、多数の艦船が宙域に現れる。
姿形は様々だ、岩のような重厚な装甲に炎を纏った物、鏡のように磨き上げられた美しい物、
そしてそこに集う者達も、宇宙海賊、エスメラルダ軍の残党、辺境の惑星連合、母星を破壊されて故郷を失った者もいる。
ただ、姿形や生い立ち、思想すら違っても、ここに集まった目的は一つだった。
『宇宙の自由を侵す、ベリアル銀河帝国への反抗』
皆、帝国の暴虐に耐えかね、或いは失ったものを取り戻すために、ここへ集ったのである。
そしてその戦士たちは今、赴こうとしていた。
《これまで、辛く厳しい時を耐え忍んで来た同志達よ、聞いて欲しい》
マイティスターの艦橋、その中央に配置されたシートに座る壮年の男。
白い髭を蓄えたその男の奥まった場所に有る眼光は、歴戦の猛者である事を示すかの如く鋭い。
《これより我々は大いなる戦いへ赴く事になる》
その壮年の男、このマイティスターの艦長にして、レジスタンス軍司令官の声が、集まった全艦艇に通信で伝達される。
《そしてこの戦いが、おそらくは最後の戦いとなるだろう》
《どちらかが生き残り、どちらかが滅びる、全生命、全宇宙の自由を賭けた、最後の戦いとなる》
普段は騒ぎ立てるだけ騒ぎ立てる宇宙の船乗りですら、その声を黙って聞いていた。
《危険な作戦だ、ここで逃げた所で責めはしまい》
司令官はそう言って、全艦艇を見回す。
だが、ここに集まった艦艇は一隻も微動だにしない。
その事に、司令官は目を瞑り、心の中で感謝の念を抱いた。
《ありがとう諸君、なれば今一時だけ、その命を預けて欲しい》
司令官はそう言うと、カッと目を見開き宣言した。
《全艦、ワープ準備!!目標、ベリアル銀河帝国都市要塞!!》