最後のワープアウトと共に、緑色の光が瞳に入る。
マレブランデスに取り付かれているとはいえ、エスメラルダの輝く緑光は変わらずそこに有り続けている。
『ワープ終了、機関は全て正常ニ稼働中でス』
「ご苦労、そのままマレブランデスの第一軍港へ入れ」
『了解』
自分がやった事だとは分かっているが、本当にマレブランデスが余計だ。
コレが無ければ、もっと美しい光景なのだろうなと思いつつ、俺はグロデーズの進路をアナライザーへと指示する。
僅かな横Gと共に進路が固定され、艦はブリガンテ級で統一された万単位の守護艦体の間を縫い、滑るようにマレブランデスへと降下していく。
「軍港の1号桟橋にグロデーズを入港させろ、その後にアンドロメダを隣接の2号桟橋へ」
「私が荷物をベリアル様に届けている間に、アンドロメダへ移乗しておいてくれ」
『アンドロメダへ移乗するノハ非効率デは?』
俺の指示にアナライザーが疑問を呈す。
まあ確かに、普通に考えればここでグロデーズからアンドロメダに乗り換える必要は無いだろう。
「お前の考えも一理ある、だが
だが、演出として俺が旗艦のアンドロメダに乗っている事こそが重要なのだ。
ニュークシア軍の旗艦であり、銀河帝国軍の象徴であるこの艦に搭乗している事が。
その事をアナライザーへと言い含めて、俺はゼロの眠るカプセルを引き連れて内火艇へと移乗する。
「ゼクダス、君もアンドロメダへ移りたまえ」
カプセルを収容すると共に、内火艇へと乗り込もうとした俺がふと振り向けば、所在なさげに佇むゼクダスの姿が目に入った。
やはりゼロの事が気になるのだろう。しばらく何か言いたげに此方を見ていたが、結局は何も言わず、アナライザーの後を追って停泊しているアンドロメダの方へと歩いて行った。
安心したまえよ、ゼロは死なない。
内心でそう言いながらゼクダスの背を見送ると共に、俺は今度こそ内火艇へと乗り込むのだった。
――――――――――
主の趣味に合わせて所々に赤い照明が配された通路は、その主の体格に合わせて非常に広大だ。
高さは約200m、横幅もほぼ同等、身長55mのカイザーベリアルがたっぷりとしたマントを羽織ったままでも悠々と通る事が出来る大きさである。
その分、一般的な人型知的生命である自分が通るにはあまりにも広大過ぎ、移動には何らかの乗り物が必要となってしまう。
そこで使用するのがこの内火艇だ。コレが有るのと無いのとでは移動時間に雲泥の差だ。
まあやろうと思えば、以前に異変を察知して次元潜航艇で突入した時のように、ある程度の大きさ以下の艦でも要塞内での航行は可能なのだが、それでは小回りが全く効かずに不便である。
その点、この内火艇は全長はコスモシーガルと同等で、要塞内でも運用しやすい大きさだ。
俺はその内火艇の操縦桿を握り、帝都内の通路を航行していく。
そして数分の後、目当ての部屋へとたどり着いた。
扉を確認し、計器内のボタンを押せば、目の前の扉がゆっくりと天井へ吸い込まれていく。
開ききった先に現れたのは、これまでの通路が狭小に見える程の広大な空間であった。
まるで大聖堂のような広大な吹き抜け、壁には複数のホログラフィックディスプレイが配され、その向こうに配置された巨大な窓からは漆黒の宇宙空間と眼下に輝く緑光の星――エスメラルダを見下ろす事が出来る。
そして窓の反対側、巨大な空間の奥には天へと届くような巨大な階段が存在しており、その頂点には一脚の巨大な椅子――玉座が存在している。
皇帝が座るに相応しい、素晴らしく豪著な装飾が施されているその玉座は、誰もが一目見れば畏怖の念を抱く事になるだろう。
1つ残念な事が有るとすれば、腰かける主の体に遮られて多くの時間はその装飾の大半が見えていない事ぐらいだろうか?
俺は操縦桿を左右へと細かく操作しながら、玉座の置いてある階段の一番下に設けられた、高さ40mはあろうかという巨大なティーテーブルのような構造物に内火艇を横付させた。
そして側方のカーゴドアを開き、構造物へと降り立った俺は、真っ先に首を垂れる。
「パルデス・ヴィータ、任務を終えて参上致しました」
そう言った後に俺は顔を上げ、目の前の巨大な階段を見上げる。
視線の先に、黒い巨体が足を組んで玉座に座していた。
「……荷物は?」
「ここに」
俺の言葉と共に、内火艇の内部から音も無くカプセルが滑り出して来る。
そのガラス越しに中身を確認した黒い巨体……カイザーベリアルは、満足気に鼻を鳴らして笑みを浮かべた。
「それとこちらも」
懐のポケットに手を入れ、目的の物を取り出した俺は、それをカイザーベリアルに向かって翳す。
ゼロから取り上げた、彼の命にも等しい物……ウルトラゼロアイ。
それを一瞥したカイザーベリアルは、巨大な手を前に差し出すと、禍々しい鉤爪の付いたその指を、まるで「おいで」とでも招くかのように一回動かした。
瞬間、俺の手に有ったウルトラゼロアイはフワリと浮き上がり、空中を滑るように飛行すると、ゆっくりとその漆黒の掌に収まる。
「よくやった、パルデス」
「身に余るお言葉、恐悦至極に存じます」
しばし掌の上でニヤリと嘲笑を浮かべながらウルトラゼロアイを弄んでいたカイザーベリアルは、それをマントの懐へと仕舞う。
これで俺の任務は終了だ。あとはもう運命に身を任せるだけ。
あと1時間もすればゼロも目覚め、いよいよこの物語は最終局面になる。
その事実を噛み締め、俺は踵を返して内火艇へと乗り込もうとする。
「待て」
が、そんな俺をカイザーベリアルが引き留める。
足を止め、振り返ってみれば此方をジッと見下ろすカイザーベリアルの双眸と目が合う。
「貴様のこれまでの働き、評価してやろう」
「……はっ!!」
突然のカイザーベリアルの言葉に呆気に取られた俺だったが、慌てて膝を着き首を垂れる。
実に予想外なカイザーベリアルからの賞賛とも取れる言葉に戸惑ったが、言われて悪い気分はしない。
というか、何故突然そんな事を?
俺が抱いたその疑問は、次のカイザーベリアルの言葉で解消される事になる。
……実に衝撃的な形で。
「俺様が光の国を破壊し終えれば、この宇宙にも用は無くなる」
「そうなった暁には……」
そこで言葉を区切ったカイザーベリアルは、見上げる姿勢になっている俺へと視線を合わせながら、ハッキリと宣言した。
「貴様にこの宇宙をやろう」