無限に広がる大宇宙。
無数の銀河や惑星が点在する中、ある星系に存在する知的生命体たちによって一つの文明が開化した。
エメラル鉱石というエネルギー資源を中心として創られたその文明は、一つの星にとどまる事はなく、やがてその英知を星系中へと広げていく。
その中心となる、惑星自体がエメラル鉱石によって形成された惑星は、古の王達によって『無限の力』を示す古代語から『惑星エスメラルダ』と名付けられ、現在も星系の盟主として存在している。
「姫様、歴史の本をお読みで?」
自室のテラスで歴史書に目を通していると上から降って来た声、
それに気づいて分厚い本から視線を上げれば、私を見下ろすグリーンとシルバーに彩られた美しき守護騎士。
外惑星から初めてエスメラルダへとやって来た貴客は、必ずと言って良い程この光景を見て恐れを抱くけれど、私にとっては慣れた光景だ。
「ええ、我が国をより理解する為には必要だと思いまして……」
「良い心掛けです、このような方に仕える事が出来て私は誇らしい」
「もう、大袈裟ですよミラーナイト」
遥か上方に有る顔を見れば、鋼の甲冑のような顔に、まるで象嵌細工の如く嵌め込まれた黄金の十字がこちらを窺っている。
そこから漏れる「フフフ……」という悪戯っぽい微笑に、軽く揶揄われたという事を自覚したけれども悪い気はしない。
ミラーナイトは公の場ではもちろん畏まった態度で接して来るが、オフの時はエスメラルダの姫として生まれた自分に気安く接してくれる貴重な存在。
こうして談笑出来るだけでも嬉しい事だった。
「ところで、本日は国王様は」
「今お父様は、他惑星の指導者と通信での会談中です」
「ああ、確かあの……」
話の流れで今日の国王……父上の動向を聞かれた私は、ミラーナイトへと包み隠さず話す。
国王である父上の仕事は多岐に渡る。
内政もそうだが、今のように外交として他惑星の国家元首との会談も仕事に含まれる。
そして今日の会談相手は……
「惑星『ニュークシア』の指導者です」
「ニュークシア、ですか……」
星の名を聞いて思案するようなミラーナイトを見つつ、私……エメラナ・ルルド・エスメラルダは苦笑した。
―――――――――――――――
惑星エスメラルダから見たニュークシアは、何とも言えない存在感を持った星だ。
数代前の王の時代に発見された時、当時名前も分からなかった『かの星』はエスメラルダ中の興味と議論の的となった。
様々な星へと入植や交流を続けて来た中で、一万光年という比較的近い星系の、過去には何もなかったはずの場所に突如として現れた星。
しかも調査の結果、生命の生存に適していると判明したそこは、まるで神話か御伽噺のような存在だった。
もちろん、エスメラルダ側も調査隊を送ったのだが、待っていたのは『かの星』を守護する艦隊だった。
『かの星』から数光年の地点で突如として現れたその艦隊からは生命反応が無く、ただ《この宙域を去らなければ攻撃を行う》と繰り返すだけ。
その後も『かの星』への呼びかけは複数回に渡って行われたのだが、何度派遣しても同じの上、特に外部へのアクションも起こさないので最終的には放置されていった。
そもそも惑星エスメラルダは、豊富な資源や豊かな自然に恵まれている事から、住民が穏健な気質だった事もこの放置という対応へと至った要因として有るのだろう。
風向きが変わったのは、ある男がエスメラルダの王に就いてからだった。
その王は歴代でも一二を争うほどに好戦的で、理由を見つけては他惑星を侵略・弾圧するような男だった。
人々から忌み嫌われていた王であったが、そんな事も意に介さず自分勝手に振舞った末に、とうとう『かの星』へと手を出した。
「エスメラルダからの使者を無視するとは言語道断!」という理由付けをし、自ら指揮を執る為に意気揚々と旗艦に搭乗して『かの星』へと向かった王を待っていたのは、想像を絶する地獄だった。
王の指揮する艦隊は9割もの損失を出してエスメラルダへと帰還。
そして何も語らないまま、王は自室へと引きこもってしまった。
精神を病んでしまった王は、しきりに「焔の柱が襲って来る……」とうわ言を口にし、ついには自分で物を食べられなくなるまでに衰弱した後、息子へと王位を譲る事になる。
この事件はエスメラルダの市民達に多大な衝撃を与えた。
何せ惑星エスメラルダは星系の盟主であり、だからこそ星系一の星間艦隊を抱えている。
特に王直属の艦隊は、全てが最新鋭の設備が供えられた艦で構成されており、最強の名を欲しいままにしていたのだ。
それが、無惨にも打ち破られた。
市民達は恐怖した。
「いつか『かの星』の艦隊が報復しに現れるのではないか?」と。
だが、その後も一向に『かの星』の艦隊は現れなかった。
謝罪の為に使節を送ってみたものの、相も変わらず門前払いだ。
結局、王は家臣らとの話し合いの結果『かの星』には触れないでおこうという結論を出した。
そしてそれから長い時が過ぎて行った。
―――――――――――――――
事件が起こったのは、今代のエメラド王の娘である、第二王女『エメラナ・ルルド・エスメラルダ』が誕生して幾ばくかの時が過ぎた頃であった。
星系内を航行していたエスメラルダ船籍の宇宙船が、未知の宇宙船からのコンタクトを受信。
困惑した船長がエスメラルダ側へと確認の連絡を行ったのだが、何とその船は長らく接触を断っていた『かの星』の物だったのだ。
対応した船長によれば、『かの星』の船はエスメラルダ側と国交を結びたがっている事。
そして『かの星』の国号が『ニュークシア』であるという新事実も明らかになった。
この情報を知らされた王は、早速『ニュークシア』との会談に臨んだ。
成功すれば歴史的な事。王だけではなく家臣や、この一報を知らされたエスメラルダ市民達も注目した。
そして、最初の会談はニュークシア側からの通信によって行われた。
『はじめまして、こちらはニュークシアを管理しているパルデス・ヴィータと申します』
王や家臣の目の前に映像が映し出される。
ニュークシア側の交渉相手として映ったのは、まだ若々しい青年であった。
だが、この青年から発せられた事実は驚くべきものであった。
ニュークシアが、元々は今の星系の惑星ではなかったこと。
ニュークシアの星系にある太陽が寿命を迎え、結果的にこの星系へとワープして来たと言うのである。
『惑星そのもののワープ』というのは前例が無く、エスメラルダ側は大いに動揺した。
そしてニュークシアに居る人間が、この『パルデス・ヴィータ』一人である事。
元々は別宇宙に住んでいたが、惑星の滅亡に伴って諸々の理由からこちらの世界に渡って来たという事など、
あまりにも理解の及ばない話に、エスメラルダ側は頭を抱える事になる。
だが、国交を結びたいという意思を無下には出来ない。
むしろニュークシア側が敵意を示していないという事が分かって安心したぐらいだ。
かつて最強の艦隊が無惨にも敗れたという事もあり、「戦争だけは避けねば」という意見はこの場の誰もが共通して抱いていた。
エスメラルダ側は早速、ニュークシア側との国交開設へと取り掛かった。
―――――――――――――――
「かつては恐れられたニュークシアも、今や友好的な惑星となって順調に国交を重ねています」
「喜ばしい事です、私もひょっとしたらニュークシアと一戦交える可能性が有りましたし、ホッとしています」
エメラナは、遠いようで近い場所にある星へと思いをはせる。
今後、機会が有ればニュークシアへと赴いてみたい、その時はミラーナイトやジャンボットも一緒に、そう思いながら。
惑星エスメラルダの時間は、今日も穏やかに流れている。
今のところ、本編に登場したキャラが数少なかったので、
今回は番外編として先取りする形で、ミラーナイトとエメラナ姫を登場させてみました。
ちなみにかなり難産でした()