楽しみです。
飛んで来るミサイルを時には避け、時には光線で撃ち落しつつ、ベリアルは敵の根城を目指して駆ける。
爆炎と衝撃で周囲の建造物が崩壊していく中、広い通りを駆け抜け皇居の前までやって来ると、勢いはそのままに跳躍し水の張った堀を飛び越えていく。
十メートル以上の距離をまるで重力が無いかのように飛び、とうとう敵の本拠地であろう施設の門前へとやって来た。
見た目は古めかしくみえるものの、触れてみると硬く冷たい金属の感触が掌に伝わって来る。
ここまで来ると施設への誤爆を防ぐためか、既にミサイル攻撃は止まっていた。
「ハッ!!、こんな子供騙しで俺を止められるか」
門から距離を取り、ベリアルは腕を十字に組む。
目の前には静かに閉じている門、堅牢ではあるが高さはそれ程でもない。
この程度の高さなら跳躍すれば飛び越える事も可能だろうが、自分の力を見せつける為にあえてこうする。
バチバチと空気が爆ぜる音と共にエネルギーが凝縮され、次の瞬間には腕から発せられたエネルギーの奔流が門へと叩きつけられた。
ある程度の耐性は有ったようだが、数秒もすれば赤熱して溶け落ちる。
頃合いだろうと光線を止めて腕を下ろす頃には、既に門には大穴が空き、その存在意義を失っていた。
「さて、俺様が直々に来てやったんだ、歓迎の一つでも寄越したらどうだ?」
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「隔壁は意味を成さなかったか……」
光線を発射され、隔壁が融解するまで約12秒。
高さそのものはそれ程高くない為、ベリアルの身体能力なら飛び越えられる事は想定していたが、まさか堂々と破壊して来るとは……
あの門はこのニュークシアで手に入れられる材料の中でも最高硬度の金属により造られていた。
それがこんな短時間で破壊されるとは、ウルトラ族の光線ってこんなにも恐ろしい物なのか。
だが、呆然としている暇は無い。
門の破壊時間から計算すれば、研究所内の全ての隔壁を破壊して研究所の中枢部へとベリアルが到達するまでは約10分ほど。
残された時間はあまりにも少ない。
サルヴァラゴンもアイアロンとダークゴーネの対応で戻す事は出来ないし、そもそもここで戦えば研究所にも被害が及ぶ。
『この星カラの即時退去を提案しマス』
詰みとも言えるこの状況に、アナライザーがニュークシアの放棄を提案してくる。
確かに現実的な選択肢ではあるだろう。
5分も有ればウェルシュドラゴンに搭乗して脱出し、宇宙に展開している戦艦と合流すれば安心安全に移動出来る。
だが、そうなればクシア人の新しい故郷はどうなる?
この先、何のしがらみも無くクシア人が移住出来る星が手に入る保証は無い。
何せ
今後、この星ほど好条件の惑星を何のしがらみも無く手に入れられる機会なんて来ないだろう。
まあ、本当に危機的な状況となれば『侵略』という選択肢も入って来るが、それもあまり気が進まない。
文明が発展していない星を狙えば技術的には可能だろうが、それをやると宇宙警備隊を敵に回す事になるからだ。
そうなれば血で血を洗う争いになり、最終的にはバルタン星人の二の舞いを踊る事になるだろう。
それに、地球は前世の俺の故郷であり、ここ数百年を過ごした事も有ってそれなりの思い入れも有る。
心情的にも簡単に捨てられるような物ではない。
ならば取れる選択肢は一つ。
「……隔壁を開け、奴と交渉する」
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門から研究所の敷地内に入ったベリアルは、街灯に照らされた通路を歩いて行く。
地面には綺麗に玉砂利が敷き詰められており、きちんと刈り込まれた植木からは人の手が入っている事が分かる。
ベリアルからすれば大して心を動かされる光景ではなかったが、清潔に整えられた光景に悪い気はしない。
「ココか」
道の突き当りに静かに佇むコンクリートの建造物。
無機質な灰色の壁、換気口や明かり取りの小さな窓が所々に設置されている。
そして入り口に当たる場所は、強固な金属の巨大な扉で塞がれていた。
「ワンパターンだな、芸が無い」
ベリアルが腕を十字に組むと、漆黒のエネルギーが渦巻く。
足を開き体勢を固定したところで、デスシウム光線……必殺の一撃を発射しようとした。
《ゴゴゴゴゴ……》
だが、急に扉に埋め込まれたランプが点滅し、ブザーと共にゆっくりとスライドし始める。
急な事態に目を見開くも、扉が全開になったのを確認すると緩慢に腕を下ろした。
「覚悟を決めたってワケか、面白ぇ」
ニヤリと口元に笑みを浮かべ、ベリアルは研究所内へと歩みを進める。
この先に何が待っているかは分からないが、そんな些細な事は関係無かった。
ただ、貪欲に力を求める欲求のみが、ベリアルを突き動かす原動力となっていた。
―――――――――――――――
研究所の奥、普段ならリフレッシュの為に使用している中庭のガーデンテーブルに、俺は座っていた。
忙しなく貧乏ゆすりを繰り返し、どうにか落ち着くために淹れたての紅茶を口にするが、緊張のあまり香りを感じない。
そしてそうやって気を紛らわせながら、俺は目の前に続く通路を睨むように見つめる。
《カツン…カツン…》
やがて、通路を歩く靴の音が耳に届き始める。
その音の主はゆっくりとした歩調でこちらへと歩き、部屋の照明の下へとやって来た。
恐怖に震える体を叱咤し、俺はあくまでも平静を装いつつ、顔を上げた。
「ようこそ、ニュークシアへ」
目の前には、ブルーのジュストコールを着こなした無精髭の男が立っている。
その男はこちらを真っ直ぐ見つめ、やがて「フッ」と笑みを漏らす。
しばらく互いに見つめ合っていたが、しびれを切らしたのか、先に口を開いたのはベリアルだった。
「テメェがパルデス・ヴィータだな」
「ああ、そう言う貴殿は何者かね?」
怪しまれないように熟慮しながら言葉を紡いでいく。
ここで失敗すればとんでもない事になる。
何せ俺は原作の知識を知っているのだ、下手な事を口に出したらマズい。
そんな事を知ってか知らずか、目の前の男はドッカとテーブルを挟んだ正面のチェアに腰を掛け、足を組んで寛ぎはじめる。
だが、その眼はこちらをジッと見つめたままだ。
奥にギラリと光る橙色の光を見て、背筋を氷塊が落ちるような寒気が下りていく。
「俺様はカイザーベリアル、この宇宙の支配者となる男だ」
俺は恐怖を紛らわせるために再びカップを取り、一口だけ紅茶を口に含んだ。
「用件を聞こう」
防衛戦もいよいよ終盤!!