無限に広がる大宇宙。いくつもの様々な
この宇宙ではエスメラルダ星をルーツに持つ人型知的生命が遍く宇宙へと広がっていき、一つの文明圏を創り上げていた。
そしてその文明圏に存在するとある惑星。
【チシタリア】と呼ばれたその星は、地表の約70パーセントが海に覆われた、美しき宝石のような青い星だ。
エスメラルダ文明圏に有りながら、残念なことにエメラル鉱石は採れなかったものの、
代わりに肥沃な大地と生命溢れる海に恵まれた事で、農作物や畜産物を星外へと輸出する事によって経済を回している。
そしてこの日、チシタリアは特別な日を迎えていた。
「我々はようやく我々の名前を、誇り高きチシタリアの名を取り戻したのだ!!」
惑星の首都に有る大ホールで、この星を率いてきた指導者の演説に会場の観衆、それだけではなく中継でその様子を眺める全チシタリア市民が歓声を上げた。
そう、このチシタリアこそがベリアル銀河帝国の支配に反抗し、誇りと独立を取り戻した惑星だった。
かつて闇の帝王であるベリアルによって征服され、様々な殺戮兵器を作る事と引き換えに生き延びた星。
軍は解体され、チシタリアの名も奪われ、国民は徹底的に管理され、まるで使い捨てるがごとく酷使させられ、疲弊していった。
いや、それはまだマシな方だったのかもしれない。
抵抗すれば収容所へと放り込まれ、更なる地獄のような労役を課せられた。
兵器工場の最も危険な部署に、凄まじい重労働の鉱山での労働。
耐えられなくなった者から倒れ、惑星中を暗澹とした空気が支配していた。
だがしかし、チシタリアの住民はそれら全てを跳ねのけた。
命がけで戦い抜いた勇敢な戦士達と、星の民を思う指導者の行動によって。
「記念すべき時ではあるが、犠牲になった者達へと哀悼の意を捧げたい、祈りを……」
指導者のその言葉と共に、惑星の市民らは目を瞑り黙とうを捧げる。
死んでいった者達への祈り、そして平和への願いをこめて。
束の間の物かもしれないが、苦しみの末にようやく掴んだ平和。
まだベリアル銀河帝国は健在だが、これからは反ベリアルのレジスタンスと協力してこの星を守り、そして共に戦っていく。
全ては自由の勝利を信じて。
そしてその中継を、遠く離れた星で見ている者達が居た。
―――――――――――――――
エスメラルダ首都の中心部に存在する王宮。
文明圏の宗主が住むに相応しい壮麗さを持つ白亜の宮殿は、中へ入ればその外観に負けない程の豪奢な細工が施された数百の部屋が並んでいる。
そして宮殿の中でも一等豪華で広々とした一室、
歴代エスメラルダ王が
「チシタリアはこれからどうすると?」
「我が星に、軍事物資の援助を求めてきております」
宰相からの報告に、エスメラルダを統べるエメラド国王は「ふむ……」と考え込む。
チシタリアは重要な交易相手であり、その上ベリアル銀河帝国へ反抗するという意味では仲間だ。
その事を鑑みて、エメラド王は方針を伝えた。
「現在、予備役に回している旧型の宇宙艦艇を提供する」
「承知いたしました、直ちに宇宙軍と連携し、手配いたします」
王からの命令を得た宰相は、すぐさま同室で演説を聞いていた軍需相と言葉を交わす。
この艦艇は技術や資源に優れたエスメラルダでは旧型になるものの、他星の最新式の艦艇に匹敵する性能を誇る。
おそらくは一週間後をメドに、チシタリア軍へと供与されるだろう。
「杞憂で済めばいいが……」
本来なら、一つの惑星がベリアルから解放された記念すべき日だ。
けれどもエメラド王の表情は晴れない。
「お父様、チシタリアは大丈夫なのでしょうか?」
「分からぬ、今はただ祈るばかりだ」
不安げな眼差しを向けて来るエメラナを一瞥し、エメラド王は改めて中継される演説へと視線を移す。
だが、今エメラド王の脳裏に有るのは演説の内容ではなく、とある惑星の存在だった。
ニュークシア、エスメラルダ文明圏に突如として現れた謎の惑星。
交流を続けた結果分かったのは、途方も無く高度な文明を持っているという事。
数か月前、偵察任務のためにニュークシアへと派遣したジャンバードからの報告。
『ニュークシアには惑星を破壊する兵器が存在する』
この情報は、エスメラルダ政府に途方もない衝撃を与えた。
ジャンバードからの映像データでは、ニュークシアの衛星軌道上に存在する100メートル前後の衛星から発射された光線で惑星が崩壊する様が克明に記録されていた。
あのサイズなら、宇宙船に搭載する事も十分に可能だろう。もしそうなったら……
そんな不安に苛まれていた時に起こったのが、ニュークシアの敗北宣言と、ベリアルの下に下るという通知だった。
「何事も無ければ良いのだがな」
もしもニュークシアの技術がベリアルに悪用されたら……そう考えると暗澹たる気分だ。
だが、エメラド王やエメラナ姫の心配を他所に、周囲を囲む閣僚達は朗らかなムードを纏いながら演説を眺めている。
まあ、その反応も分からないでもない。
何せベリアル銀河帝国による侵攻が進んできた中で、久々の朗報だ。
エスメラルダの王たる自分が浮かない表情になってしまうのは示しがつかない。
そう考えたエメラド王は、気を取り直して召使に視線を送る。
王に仕える召使と言うのは、それだけの経験を積んでいるという事だ。その視線だけで王室付きの召使は王の側へと歩み寄る。
「飲み物を頼む」
「はい」
王の言葉を聞いた召使は、長く伸びたスカートを翻して玉座の間から退出していく。
少し待てば、その日の王の気分を汲み取った召使が、その気分に合った飲み物を持って来てくれるだろう。
そう考えて多少は気分が上向いてきたエメラド王は、思考の渦から脱し、演説の内容へと集中する。
時間が経ち、チシタリアが安定すれば、今画面上に映っている指導者と直接会談する日も来るだろう。
「どうぞ」
「おお、ありがとう」
召使が持って来た飲み物をサイドテーブルに置く。
一流の職人により制作された、美しい緑光を放つエメラル鉱石製のカップアンドソーサー。
その中に注がれているのは、エスメラルダ名産のハーブティーだ。
気分を落ち着けてくれるそのチョイスに、エメラド王は心の中で「流石だ」と褒めながら口を付けようとした。
だが……
『どうやら息災の様で何よりだ、支配惑星B-022、旧名称チシタリアの諸君』