悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第四十話【絶望の光】

『どうやら息災の様で何よりだ、支配惑星B-022、旧名称チシタリアの諸君』

 

突如として大ホールに響いた声に、チシタリアの市民らは一瞬で静まり返る。

だがその中で、今まで演説をしていた指導者のみが、その声の正体に気づいた。

 

「パルデス・ヴィータ、ベリアルの走狗め!!」

 

怒りを滲ませた声で指導者が怒鳴った瞬間、ステージの上に幾筋もの光が集中する。

数色の光はやがて像を結び、やがて一つの人型を形作った。

 

『覚えててくれて何よりだ、取捨選択も出来ない愚か者だから忘れているかと思っていたぞ』

 

立体ホログラムディスプレイで現れたのは、漆黒の軍服を身に纏った男。

忘れもしないその姿に、指導者は思わず手元に有ったバインダーを投げつける。

 

飛んで行ったバインダーは空しくホログラムを突き抜け、ステージ端の暗がりへと消えて行った。

 

『……もう少し上品な立ち居振る舞いを心がけてはいかがかな?』

「今更何をしに来た!!」

『まあ落ち着きたまえ、皆が見ているぞ』

 

ハッとして周囲を見渡すと、困惑した表情でコチラを見ている観衆たち。

指導者は咳払いをして、改めて敵へと向き直る。

笑みを浮かべ、余裕を感じる振る舞いに怒りのボルテージが高まるのを感じるが、深呼吸を数回行う事でどうにか気分を落ち着けた。

 

「改めて聞く、今更何をしに来たんだ?」

『君達、いや、この星の住人らに伝えたい事が有ってね』

 

パルデスは腕を後ろに組んだ姿勢のまま淡々と言葉を続ける。

あまりにも普段と変わらないその様子に、指導者は嫌な予感を感じて額に汗が伝うが、その不安を振り切るように首を横に振る。

 

こちらには今、ある程度の戦力は揃っている。

炎の海賊団の一部が駐留している上に、チシタリア軍とレジスタンスの戦艦が軌道上を周回しているからだ。

余程の事が無い限りは、やられる事は無い。

 

「再度このチシタリアを支配下に置きに来たか?諦めろ、タダじゃすまないぞ」

『ほう、ベリアル様を恐れ子兎のごとく震えていた男が、随分と言うようになったじゃあないか?』

「ほざけ!!貴様らの侵略の片棒を担ぐのはもう沢山だ!!」

 

指導者はパルデスを指さし、宣言した。

 

「自由を奪われるぐらいなら、死んだ方がマシだ!!」

『「死んだ方がマシ」か……』

 

その言葉を聞いたパルデスは俯き、目を押さえる。

多少なりとも敵にショックを与えたか、と指導者が考えた所で、目の前の体がブルブルと震えだした。

 

『……フフッ、アッハッハッハッハッ!!』

 

全身を震わせていたかと思ったら、突如として高らかに笑いだすパルデス。

その様子に瞠目する指導者の前で数秒ほど笑った後、「ふう」と一つ溜息を吐く。

 

『チシタリアはモノカルチャー経済の惑星と聞いているよ、故に()()()()()()()の生産も盛んと聞く』

 

パルデスがそう言うと共に、ホログラムの中へと一本の腕が現れる。

カメラのフレーム外から差し出されているであろうその手は無機質な金属製で、その手にはカップアンドソーサーを持っていた。

 

『私は紅茶党でね、チシタリア産の紅茶も実に好みなんだよ』

 

『ほら、紅茶農家に関しては労働を免除しただろう?』と言われて、指導者は苦々し気に顔を歪ませる。

確かに、紅茶の農家だけは優遇されている印象を受けたが、こんなくだらない理由だとは……

目の前で呑気に紅茶の香りを堪能する敵を見て、さらに指導者の殺意が増していく。

 

だが、それは次にパルデスが言い放った一言で、一気に霧散する。

 

『けれどもこの紅茶はもう在庫限り、二度と飲む事が出来ない幻の味になると思うと実に残念だよ』

「何が言いたい」

『言葉通りの意味だ、死んだ方がマシだというのなら、その願いを叶えてやろう』

 

紅茶を一口二口と口に含み、その香りを堪能したパルデスは、先ほどまで浮かべていた笑みが嘘かのように無表情で指導者を睨みつけた。

 

『カイザーベリアル陛下への反逆罪で、惑星チシタリアをこの宇宙から消滅させる』

 

一瞬、何を口走ったのか理解できなかった。

惑星チシタリアを消滅させる?そんな事、そんな事が……

 

『そんな事、出来るはずがないと思っているだろう』

 

パルデスはカップに注がれていた残りの紅茶を一気に煽る。

ゴクリ、ゴクリという音と共に脈打つ喉。

やがて最後の一滴まで飲み切り、カップを後ろへと放った。

 

『最初で最後の授業だ。貴様の甘い考えが全てを失う原因だと教えてやろうではないか』

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

惑星チシタリアから約10万宇宙キロ離れた宙域。

何も無い虚空の宇宙空間に、閃光が走った。

 

ワープアウトだ。

 

数秒の内に数十個もの閃光が瞬き、光が治まった頃には数十隻の戦艦が集結していた。

多くはベリアル軍が主に使用している主力戦艦のブリガンテ級だが、そのブリガンテ級に守られるようにして5隻の戦艦が有る。

 

ブリガンテ級よりも小型(それでも400メートル以上は有るが)のその戦艦は、一様に艦体の側面部に名前が記されていた。

 

 

      【ANDROMEDA】

   【B.G.E.F. AAA-0001-0001】

 

      【ALDEBARAN】

   【B.G.E.F. AAA-0002-0001】

 

      【ACHILLES】

   【B.G.E.F. AAA-0003-0001】

 

      【APOLLO NORM】

   【B.G.E.F. AAA-0004-0001】

 

       【ANTARES】

   【B.G.E.F. AAA-0005-0001】

 

 

周囲のブリガンテ級と違い青灰色に染められたその艦体は、恒星の光に照らされて鈍い反射光を放っている。

本来ならこの世界に存在しないはずの物が、一人の男の手によって現実になった。

 

「独立祝いに花火を贈ってやろう」

 

その内の一隻、旗艦である『アンドロメダ』の艦橋、その中央の艦長席で、パルデスは目の前のモニターに映る指導者の顔が蒼白になっていくその様に、笑みを浮かべながら破滅への一言を口にした。

 

「アンドロメダ級全艦連動、収束波動砲、発射準備!!」

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「頼む、止めてくれ!!」

 

この後に何が起こるか、その恐ろしい可能性に気づいた指導者は、必死になってパルデスへと哀願する。

が、返された答えは無常であった。

 

『今更遅い』

 

《アンドロメダ級全艦、エネルギー充填120パーセント》

 

『対ショック、対閃光防御』

 

発射準備が済んだことを確認し、パルデスは閃光防御用のゴーグルを掛けた。

勿論、艦橋と宇宙空間を隔てるガラスには波動砲用の閃光対策が施されているが、安全対策として着用している。

 

そして、こうして発射準備を整えている間にも、指導者の哀願は続いた。

 

「ベリアル様の言う事は何でも聞く、私を処刑してくれても構わない、だからどうかチシタリアだけは……」

 

《波動砲、発射10秒前》

 

『本当に残念だよ、もう少し早く恭順の姿勢を示していれば、いや、最初から黙って従っていればこうはならなかっただろうに』

 

《9、8、7、6、5……》

 

波動砲発射までのカウントダウンが進んで行く中、指導者は必死になって頭を下げる。

チシタリア中がこの光景を見て大混乱となり、ある者は逃げようと走り、ある者はシェルターへと身を隠した。

 

そんな事をしても無駄だというのに。

 

「頼むっ、まだ死にたくない!!死にたくないんだぁっ!!」

 

《……4、3、2、1》

 

『来世ではもう少し、賢く生まれ変われるよう祈っておくよ』

 

《波動砲、発射》

 

機械の無機質な音声と共に、アンドロメダ級5隻の艦首から波動砲が放たれる。

アンドロメダ級一隻につき2門、合計10門の砲口から発射された波動砲が、惑星チシタリアへと迫る。

 

軌道上を警戒していた戦艦群が異変を感じた頃には、もう遅かった。

 

眩く光り、全てを消滅せんと迫る閃光(波動砲)は、ある宇宙(世界)では希望だった。

だが、このアナザースペースで放たれた閃光は、絶望の光と言えるだろう。

 

チシタリアの軌道上を周回する戦艦を一瞬で消し去った波動砲は、寸分違わぬ精度で星を焼いて行く。

強力なエネルギーの塊は、地面に大穴を開け、そのクレーターの深さは惑星のコアにまで到達した。

 

そして……

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