悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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ダークロプスゼロの信号を探知した主人公。
その先に待つ物とは?


第四十三話【空間座標371045】

『アト一時間ほどデ空間座標371045へ到着いたしマス』

「分かった、引き続き予定航路での航海を継続しろ」

『了解』

 

漆黒の宇宙空間を行く艦隊の中の一隻、周囲を十数隻のブリガンテに守られる形で航海する戦艦アンドロメダ。

その艦内の一室で、俺は艦橋で操艦を任せているアナライザーへと通信を繋げ、航海の進行状況を聞いていた。

 

どうやら航海の方は予定通りに進んでいるようだ。今のところ、レジスタンスや炎の海賊団等の敵対勢力の襲撃も無い。

最後に艦隊周辺の警戒を怠らないように指示を出して通信を切り、目の前で食事に舌鼓を打つベリアルへと視線を移した。

 

「あと一時間ほどで目的地に到着いたします。ベリアル様」

 

目の前に置かれた1ポンドはあろうサイズのビーフステーキが、まるで水が川上から川下へと流れるかのようにベリアルの口へと運び込まれていく。

血の滴るほどのレアに焼かれた上質な赤身肉に、グレイビーソースの香りが食欲を引き立てるが、横に積まれた十数枚の皿が俺の食欲を減退させた。

 

「フン、ようやくか」

「安全第一ですから、今はベリアル様のお力も戻っていないですし」

「ああ、貴様のせいでな」

 

一言毒づきながら、ベリアルはナプキンで口を拭い、脇に置かれていたワイングラスへと手を伸ばすと、注がれていた赤ワインをガブガブと飲んで再びステーキへと手を移す。

 

……それにしても、どんだけ食べるのよこの人。

まあ、少しでも多くの栄養を摂取して微力でも力を取り戻したいのは分かる。波動砲により肉体を消し飛ばされ魂のみが人間に憑依して生きている今のベリアルでは、全盛期の万分の一の力も発揮できないだろう。

 

それでも、普通の人間に比べれば怪物レベルの膂力を誇るのだが、やはり一抹の不安が付いて回る。

 

「よろしかったのですか?明後日には機器の調整も終わり、ベリアル様の肉体を元に戻せる予定ですが……」

 

あの時に示した期限である「一週間後」までは既にあと二日だ。肉体が戻ればベリアルは全盛期の力を取り戻し、万全となる。

だから今の『人間に憑依した状態』で、防衛設備が充実したニュークシアの星外へ出るのはどう考えても合理的ではない。

 

その事を暗に示す俺の言葉に、ベリアルは鼻で笑って見せる。

 

「貴様が責任をもって守ってくれるのだろう?信じているぞ」

「……」

 

此方へと向けて来るその不敵な笑みを見て、俺は内心で溜息を吐いた。

 

こういう所が憎めないというかなんというか……

ベリアルには初登場のウルトラ銀河伝説を除いて、その後の作品では必ず熱狂的な臣下が付いていた。

視聴者でいた時には「よほどのカリスマ性があるんだろうなぁ」と分かってはいたものの、その圧倒的な実力から来る自信に満ちた発言は、実に魅力的に思える。

 

実は俺自身もすでに、ベリアル様の魅力に心を奪われつつあるのだ。

 

《コイツは侵略者だ、いつかゼロにやられるんだ、だから情は持つな》と内心で自分に言い聞かせてはいるものの、いつしかこうして過ごす時間にある程度の満足感を抱き始めた事は否定できない。

 

「そろそろ食後のデザートを手配いたします」

「ああ」

 

目の前で相変わらずバクバクとステーキを頬張るベリアル様を見つつ、俺は手元のタブレットへと指を走らせた。

ちなみに、ベリアル様のお気に入りはマンゴーパフェである。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「これはまた随分と……」

 

目の前の宇宙空間を見て、俺は思わず言葉を失う。

 

ダークロプスゼロの信号が探知された空間座標371045に到着する直前、アナライザーからの緊急通信に呼び出されて艦橋へと来てみれば、強化ガラスの向こうの宇宙空間には不思議な光景が広がっていた。

 

何も無い宇宙空間にポッカリと開いた『黒く巨大な穴』

穴の周辺はまるで太陽のコロナの如くユラユラと赤い陽炎のように蠢いており、この穴の尋常ではない異常性を物語っている。

この場所は本来なら何も無い場所だ。なのに突如として発生したこの穴から、どうやらダークロプスゼロの信号は発信されていたようだ。

 

『目の前の穴カラは、反物質のヨウな反応を検知しておりマス』

「ふむ、通常じゃあり得ない現象だな」

 

アナライザーの言葉を聞き、ひょっとしたらダークロプスゼロの装置が引き起こした異常か?と考えつつ、俺は目の前の光景にある種の懐かしさを感じていた。

 

「まるで『カスケードブラックホール』みたいだな」

 

前世で見たアニメの事を思い出して、俺はしみじみと思い出に浸る。

 

『カスケードブラックホール』とは、「宇宙戦艦ヤマト 復活編」に登場した移動性ブラックホールだ。

大きさは木星の三倍ほどで、移動しながら多数の惑星を吸い込み、粉々に破壊してきた。

その正体は異次元への転送装置であり、劇中では異次元人が資源を喪失した自らの宇宙へと地球を運ぶ為にこれを差し向けて来た。

 

……と、ここまで考えて、俺はある疑問を持った。

異次元への転送、ダークロプスゼロ、そして目の前の光景……

 

「どこかでこんな展開を見たような……」

 

暫く考え、俺はハッとした。

 

「まさか……反転180度、全艦離脱!!」

『反転180度、全艦りだ《ドンッ!!》』

 

俺の指示にアナライザーが複唱する途中、アンドロメダの艦体を衝撃が襲った。

グッと体を引っ張られる衝撃を艦長席にしがみ付いて耐え、警報音が鳴り響く中で俺はアナライザーへと向き直る。

 

「状況は!?」

『エネルギーの流れガ反転、艦体が穴へト吸い寄せらレテいきマス』

「機関最大出力、現宙域から離脱しろ!!」

 

アンドロメダはどうにか反転して最大出力で脱出を図る。

周囲のブリガンテ級が次々と吸い込まれていく中で、最後まで堪えていたが、ついに限界は訪れた。

 

『穴の引力が機関出力ヲ超えマシた、現宙域カラの脱出は不可能デス』

「仕方ないか……機関出力を下げ姿勢制御へと振れ」

『了解』

 

このままでは機関がオーバーヒートを起こす。そうなれば自力での帰還は困難となるだろう。

俺は覚悟を決めた。波動エンジンの出力が下がり、代わりに姿勢制御の方に回されて艦の振動は収まる。

 

そしてアンドロメダは、宇宙に開いた穴へと吸い込まれていった。

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