悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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第四十七話【無事を願って】

惑星チェイニーから少し離れた宙域、チェイニーの周囲に散らばる衛星に隠れるようにして、ベリアル軍の艦隊は息をひそめていた。

そして艦隊の中央には、旗艦であるアンドロメダが、まるで周囲の艦艇に守られるようにして浮かんでいる。

 

《グオォォォン……》

 

しばらくは静止したままのアンドロメダであったが、不意に艦底部の大型ハッチが開き、そこから一機の小型宇宙船が現れる。

その宇宙船はゆっくりとした速度で発艦し、アンドロメダの周囲を一周した後、加速して艦体から離脱して行った。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「ベリアル様にも困ったものだ、アンドロメダの特殊装甲にあんな大穴を開けるとは……」

 

俺はベリアル様の奇行の結果から目を逸らしつつ、自機である『空間汎用輸送機 SC97 コスモシーガル』を操縦し、アンドロメダの損傷を確認した後にチェイニーへと操縦桿を向ける。

 

それにしても、念の為にこのコスモシーガルを作っておいて良かった。

備えあれば患いなし、私の好きな言葉です。

 

まあ、それはさておき。

 

「これ以降は見つからないように無線を切る、非常時は連絡するから、その時は適宜対応してくれ」

《了解しまシタ、ご武運ヲ》

 

アナライザーの返答を聞いた後、俺は計器を操作して無線を封鎖する。

この機体にはデザリアムの位相変換技術を利用した強力なジャミング装備が搭載されている。

出力の関係上、光学的ステルスは使えない上、強度は小銃弾程度を防ぐスペックしか無いが、既存のあらゆるレーダー設備を無効化する事が出来る。

 

なるべく他人の目に触れない事を優先する今回のミッションにおいて、この機能は実に心強い。

 

「ウルトラマンゼロが来ている以上、あまり時間は無さそうだな」

 

原作ではいち早く異変を察知したであろうウルトラマンゼロが、先にチェイニーへと乗り込んで戦っていた。

この後、いつになるのかは分からないが、スペースペンドラゴンがやって来るだろう。いや、()()()()()()()()()()()に関しては、既に不時着しているかもしれない。

 

「画像解析では、この辺りにベリアル様が墜落したはずだが……」

 

チェイニーへと至近距離まで接近し、角度を調整して大気圏へと入る。

非常にデリケートな作業だ。小型の機体故に下手をすれば空中分解してしまう。

 

俺は緊張しながら、細かく揺れる機体の中で小刻みに操縦桿を動かして機体の姿勢を安定させる。

数分も操縦すれば機体の振動は収まり、安定した。

どうやら山場を越えたようだ。

 

俺はひとまず、ホッと胸を撫で下ろした。

 

機体を高度数百メートルまで降下させて、ベリアル様墜落の痕跡を探す。

アンドロメダに記録された映像を解析した事で、大体どの辺に墜落したのかは分かっている。

その情報を頼りに、俺は地上へと目を光らせた。

 

「……あそこか」

 

五分もしない内にクレーターを発見した俺は、可変翼を90度回転させてさせてホバリングを行う。

そのまま周辺をセンサーで探し、生命体の反応を探るが、センサーにはヒットしなかった。

 

「どこへ行った?」

 

目視でクレーターを確認するが、その中央には何も無い。

その為、搭載された他のセンサーも使用してスキャンをする。

 

すると、ある痕跡が見つかった。

 

「あれは?」

 

クレーターの端から数メートル離れた場所に、奇妙な窪みが見つかる。

まるで足跡のような形ではあるが大きさは巨大で、約6m程は有るだろうか?

 

綺麗に並んだその足跡を見て、俺はある()()()()()()へと思い至った。

 

「サロメ星人に先を越されたか……」

 

再び頭痛と、今度は胃を引き絞られるような痛みに眩暈を覚えた。

確かに、あんな派手な事をやったら気付かれるだろうとは思ったが……

 

「クレーターのサイズからして、おそらくベリアル様は人間体だろうな」

 

懐から取り出した胃薬を飲みながらそう見積もれば、大体の事は分かる。

おそらく、ニセウルトラ兄弟の誰かに捕まってしまったのだろう。

今の弱体化したベリアル様には抵抗しようが無い。

 

さて、どうするか……

 

「ひとまず、この惑星の調査を優先するか」

 

コスモシーガルの可変翼を再び戻し、今度は高度を上げていく。

今はベリアル様が囚われているであろうサロメ星人の基地を見つけない事にはどうにもならない。

それと出来るなら『もう一つのペンドラゴン』の墜落現場も。

 

「リスクを考えれば、レイと行動した方が安全なのは確かだが……」

 

そう独り言ちて溜息を吐く。

 

一応サロメ星人のロボットと対峙する事を想定して()()()()()を持って来てはいるが、やはりレイオニクスのレイと行動するのが一番安全だろう。

 

だが、それにはハードルが一つある。

 

「レイオニクス同士が一つの空間に集まる危険性を考えれば、一人で潜入するのが無難か」

 

レイオニクス同士が出会うと互いの闘争心が刺激されて凶暴性が増す。

そうなれば、ベリアル様の正体が露見してしまうかもしれない。

 

正体がバレた場合、はたして逃げ切れるかどうか。

 

一人での潜入は不安だが、やはり腹をくくるしか無いか。

ハッキングを想定して小型の情報デバイスを持って来ているし、セキュリティの無効化や設備の掌握を行えば無理なく救出も可能だろう。

 

俺は目の前の計器の中からとあるボタンを押した。

機内にガチャリと音が響き、上を見ればガラス越しにコスモシーガルを追い越して複数の小型の機体が飛んで行くのが見える。

 

「ひとまずは偵察ドローンに任せて、今日はココで夜を明かすとするか」

 

日が落ちて来たのを見て、俺は崖下の目立たない平地へとコスモシーガルを着地させる。

幸い、カーゴスペースには機内泊用の装備が一式揃えてある。

明日、偵察ドローンの情報を基にサロメ星人の基地へと潜入し、捕らえられているベリアル様を救い出す。

 

「それまで無事でいてくださいよ。ベリアル様」

 

夕食を取り、簡易シャワーを浴びた後、俺は堅めの寝台へと横たわる。

疲れていたせいなのか、既に瞼は重い。

眠気に逆らわず、俺は瞼を閉じる。

 

そして数分もせず、夢の世界へと旅立って行った。

 

 

 

 

 

翌朝、凄まじい轟音と振動で目を覚ますまでは。


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