意外なほどにオマージュが有ってちょっと笑った。
ゆっくり開いて行くハッチを見ながら、俺は緊張で額に汗が流れるのを感じる。
俺はクシアで生活していた時に一応武術を嗜んではいたものの、あまり戦闘慣れしておらず、経験はクシアから逃げる時に多少応戦したぐらいのものだ。
一応武器は持って来たが……
「役に立ってくれよ」
腰に巻かれたホルスターから、俺は一丁の拳銃を取り出す。
金属である事が一目で分かる鈍いガンメタリックカラー、一見華奢に見える細長い優美なシルエット、磨き抜かれ艶やかな表面に美しい木目が浮き出たココボロ材のガングリップ。
一見、ただの凝ったデザインのピストルではあるが、俺が丹精込めて造ったワンオフのスペシャル品だ。
科学技術の粋を集めたハイテクノロジーの塊、『小型波動砲』である。
そう、ここまで聞いたら分かる人には分かるだろう。この拳銃は……
「まさか、こんな場所で『コスモドラグーン』を使用する事になるとは」
コスモドラグーン、通称『戦士の銃』
かの有名な漫画家である松本零士先生原作の「銀河鉄道999」に登場し、主人公の星野哲郎が使用していた拳銃だ。
天才的なエンジニアである大山トチローによって製作された物で、設定上は作中の敵である機械化人を一発で打ち倒せる強力な銃という事だった。
まあ、劇中での設定がかなりブレブレで、その強さがイマイチ安定しなかった不遇さはココでは置いておこう。
とにかく、俺はもしもニセウルトラ兄弟に遭遇した場合を想定して、この武器を持って来たのだ。
理論上は怪獣を一発で倒して余りあるほどの威力が有るはずだ。
そんな事を考えている内にハッチが開ききり、俺は外へと一歩足を踏み出す。
靴が地面の砂を踏みしめ、ザラリとした音と感触が足裏を伝う。
そしてそのまま、二歩三歩と外へと歩み出た。
「どおりゃぁぁぁっ!!」
「うおっ!?」
その時だった。
突如として背後に感じた気配に振り向くと、日を背負ってこちらへと向かって来る人影。
俺は思わず腕で受け止めガードするが、相手の方が体格が良く押し込まれてしまう。
マズいと感じた俺は、相手の腹へと膝蹴りをお見舞いする。
「ぐうっ!!」
相手が怯んだ隙に、今まで押し込んで来ていた敵を、横へ避けながら引き倒す。
そこで、俺はようやく逆光になっていた敵の姿を視認できた。
がっしりとした体格に、険しい表情を浮かべる壮年の男。
その身に纏うスーツに書かれた《ZAP》の文字と、俺の前世の記憶が結びつき、その男の正体を悟る。
「貴方は……」
「そこを動くな!!」
突如として起こった出来事に呆然とする俺の耳に、空気を切り裂く様に届いた声。
『まさか』と思いつつ、ゆっくりと振り返れば、そこには……
「銃を地面に置け!!」
その手に銃――トライガンナーを手にし、こちらに銃口を向ける一人の青年。
キリっとした整った顔立ちに、強い意志を湛えた双眸が俺を捉えている。
「分かった」
俺はその青年を見て、大人しく指示に従う事にした。
彼らなら信頼できるだろう、と思ったからだ。
そう、
「話し合わないか?少なくとも、私が君達に危害を加える理由は無い」
銃を地面に置き、俺は手を上げながら目の前の青年――レイと視線を合わせた。
―――――――――――――――
「乱暴な真似をしてしまい、すまなかった……」
「気にはしていない、こんな意味の分からない星で不安になるのも分かる」
目の前で頭を下げるヒュウガとレイを見つつ、俺は苦笑しながら謝罪を受け入れる。
ただ、表面上は穏やかに接しながらも、内心では頭を抱えていた。
まさかこんな場所で出会ってしまうとは……
本来ならこうして出会わず、コッソリとベリアル様を回収して星から去る予定だったのに。
もしもベリアル様の存在がバレてしまえば、未来にどのような影響が出てしまうのか分からない。
なるべく今後に影響が出ないようにするにはどうすれば良いかと悩みつつも、俺はあくまでも表に出さずににこやかに対応する。
「探し人が見つかると良いな」
「ありがとう、そう言ってくれるだけでも嬉しく思うよ」
だが、良い面も有る。
俺一人では戦力面で心許無かったのは事実であるし、ベリアル様を助け出して一緒に逃げるのにも不安が有る。
なのでこの二人と同行すれば、そういった面での不安が払拭されるのも事実であった。
「君達は何の為にこの星へ?」
「実は私達が所属している基地が救難信号を受信したんだ」
「その調査の為に発信源と思われる宙域へと来たんだが、宇宙の歪に巻き込まれてココヘ……」
「そうか、それは大変だな」
『まあ、知っているけれどね』と内心で付け足しつつ、俺はあくまでも親切心を装い、怪しまれないように二人へと声をかける。
「私も手伝おう、こう見えて機械に強いから役立てるかもしれない」
―――――――――――――――
「反応が近いな」
小型端末の画面に表示される情報を見ながら、俺――レイは先へと進む。
両側が崖に挟まれた浅い谷底ともいうべき地形は、曲がりくねっていて見通しが悪い。
いつでも取り出せるように、腰のホルスターに仕舞ったトライガンナーとネオバトルナイザーへと手を掛ける。
「敵の罠かもしれない、慎重にな」
「了解、ボス」
後ろから声をかけて来た
この星へは、俺とボスの二人でやって来た。『スペースペンドラゴンからの救難信号』という、あり得ない物を追って。
そして、もう一人……
「後ろは任せてくれ、こう見えても戦いの心得は有るのでね」
そう言いながら、拳銃を片手ににこやかな笑みを浮かべる男、名前はパルデス・ヴィータ。
彼も探し人の痕跡を辿ってこの星へとやって来たそうで、コチラを手伝う代わりに同行させて欲しいと言う。
漆黒の軍服を身に纏ったその姿は妙に不気味にも思うが、終始穏やかな態度で此方へと接してくるその姿からは、自分達に害意が有るようには見えない。
ただ、何故だか妙な胸騒ぎを感じた。
それでも、ボスが同行を許可したので、俺はある程度信用する事にした。
元々、俺だって
だから、ボスの目を疑う様な事はしたくなかった。
《ピピッ、ピピッ》
周囲を警戒していた俺の耳に、手元の小型端末から発せられた電子音が耳に入る。
「ボス、微かだが生命反応が有る」
「よし……」
手元の端末に表示された情報を頼りに、俺達三人は走り出した。
怪我人が居るのなら一刻も早く救助しなければならない、その焦りが俺の足を動かす。
目の前の地面が途切れた。どうやら崖のようだ。
下を見下ろし、俺達は息を呑む。
「これは酷いな」
パルデスが発した一言が俺の脳裏に反響する。
眼下には、無惨にも大破した宇宙船――スペースペンドラゴンが、その身を横たえていた。