申し訳ない。
惑星チェイニー前線基地のとある区画。
ドーム状で柱の無いその空間には、壁中にカプセルのような物が固定されている。
そしてその最上層の壁に、先ほどのウルトラマンゼロ討伐から帰還したダークロプスゼロは磔の状態で固定され、胸のディメンションコアを露出させられていた。
《次元転送光線、パワーレベル到達》
《本日の実験を終了。実験体、エネルギーバイパスを閉鎖します》
電子音声のアナウンスと共に、露出させられていたディメンションコアから発せられるエネルギーの奔流がストップする。
実験は順調、もう計画は最終段階に入るところだ。
その光景を眺めながら、へロディアはどこか得意気に腕を組み、ダークロプスゼロを見上げる。
「予想外の行動には驚いたけど、あなたは私の忠実なしもべ、命令には逆らえないわよ」
不安要素は有るものの、少なくともダークロプスゼロはキチンと命令通りの行動をしている。
へロディアは、先ほどまでの苛立ちは嘘だったかのように、その顔に笑みを浮かべる。
「所詮、あの男もサロメの科学の前には無力だったって事ね、こうしてロボットの一体も
それがあの黒い軍服の男からの
最初は脅威に感じていたが考え過ぎだったのかもしれないと思いつつ、いつもの如く高笑いを上げながら自室へと戻って行く。
その後ろで、ダークロプスゼロに異変が起こっている事など知る由も無く。
『クッ!!』
朧気に意識を保つダークロプスゼロのAIを、あるイメージが駆け巡る。
燃え盛る煉獄の業火の中、その爛々と輝く橙色の目を此方へと向けて来る絶対的存在。
『カイザーベリアル……』
その傍らで、怜悧な笑みを浮かべて静かに佇む一人の人間。
先程邂逅した守るべき存在、自らの造物主。
『パルデス・ヴィータ……』
ああ、そうだ、思い出した。
俺は……俺はっ!!
そこまで考えた所で、ダークロプスゼロの限界はやって来た。
エネルギーを大量に消費した上に、エネルギーバイパスを閉鎖された以上、起動状態を保つ事は難しい。
ダークロプスゼロの意識は、深い闇へと落ちて行った。
―――――――――――――――
《おい、聞こえるか!?》
意識を失っていた脳内に突如として響いた声に、レイの意識は急浮上する。
慌てて態勢を立て直そうとするが、全く動けない。
どうやら自分の体は逆さの状態で固定されてしまっているらしく、頭上の方に引力を感じる。
「気のせいか……」
首の動く限りの範囲で室内を見回してみたが、その声を発していたと思われる存在は確認出来ず、気のせいだと判断したレイは拘束から抜け出ようと藻掻く。
しかし、レイオニクスの血を受け継ぎ、並の人間以上の身体能力を持つレイでさえ、自らを磔にしているこの拘束を解く事は出来なかった。
「ダメか……」
『このまま助けを待つしかないか』と考えたレイは抵抗を止め、体力の温存に注力しようとした。
《今、助けてやるぞ!!》
先程の声だ、今度はハッキリと聞こえた。
そして、レイにはその声を発しているであろう主の存在もハッキリと分かった。
「その声、まさか!?」
次の瞬間、部屋のドアが破壊され、重々しい破片が周囲へと飛び散る。
扉の向こうに現れたのはレイモン。そう、墜落したペンドラゴンに乗っていた『もう一人の
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
咆哮を上げながら部屋へと入って来た『もう一人のレイモン』は、いまだに磔状態となっているレイへと駆け寄る。
「お前は……」
「ちょっと待ってろ!!」
レイを一瞥した『もう一人のレイモン』は、すぐに目の前のコンソールへと走り寄って行く。
だが、サロメ製の機械の操作は分からないらしく、すぐに音を上げると拳を振り上げる。
「ここかあっ!!」
コンソールへと『もう一人のレイモン』の拳が振り下ろされた。
「やめろ」
だが、突如として聞こえた声に、コンソールからギリギリの所で『もう一人のレイモン』の拳が止まる。
レイがハッとして振り返れば、破壊された扉の前に一人の男が立っていた。
その男は、ブーツの靴音を高らかに鳴らしながらコンソールの前へとやって来る。
「変な機構が作動したら目も当てられない事態になるぞ」
『もう一人のレイモン』を押しのけてコンソールの前に立った男は、しばしスイッチ類を見た後に迷い無く操作をする。
カチリ、カチリと無機質な音が数度響いた後、不意にレイの拘束が外れ、体が動くようになった。
「お前はレイ、そうなんだな!?」
レイは器用に空中で半回転し、逆さ吊りの状態から着地して問いかけると、『もう一人のレイモン』は無言で頷き肯定の意を示す。
「彼も別室で囚われていてな、私が脱出に手を貸したのだよ」
「あんたは?」
コンソールを操作し、レイを拘束から解き放った人物。
豪著な刺繍を施されたブルーのコートを羽織り、どこか飄々とした雰囲気で『もう一人のレイモン』の横へと歩み寄る男。
その無精髭が生えた顔はどこか世捨て人にも見えるが、瞳の奥底からは何とも言えない不思議な光を放っている。
「失礼、私の事は【ブラッド】と呼んでくれ」
自己紹介の後、ブラッドはレイに向かって握手を求めて手を差し出す。
それに答えるように、レイもその手を握ったのだが……
「!?」
ゾクリ、と全身を駆け巡る寒気。
『何なんだ?一体』と思いながら目の前のブラッドの顔を見るが、薄い笑みを浮かべている事以外には何の変化も無い。
ただ、何故か違和感だけは拭えなかった。
「バトルナイザーは!?」
しばし硬直していたレイは、『もう一人のレイモン』からの指摘に慌ててブラッドの手を放し、ホルスターへと手を伸ばす。
が、目当ての物はそこには無かった。
「何だよ、お前もバトルナイザーを失っていたのか」
心底ガッカリした様子の『もう一人のレイモン』に対して、言い返す言葉も無いと口をつぐむレイ。
何とも言えない空気にしばし無言の空間が続く。
だが、突如として『もう一人のレイモン』を襲った異変が、その沈黙を破った。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」
突如として頭を押さえながら苦しみだした『もう一人のレイモン』が、周囲の機材を殴り、引き倒し、破壊し始める。
この症状に、レイは思い当たる事が有った。
「レイオニクスの血をコントロールできていないのか?」
レイの言葉に、『もう一人レイモン』はどこか焦りのような、怒りのような感情を乗せてレイを睨み、怒鳴るような大声で叫んだ。
「原因はお前だっ!!」
「何っ!?」
突如として放たれた『もう一人のレイモン』の言葉に、レイは困惑を隠せない。
そのままジッと視線を送って来るだけになったレイに向かって、『もう一人のレイモン』はフラフラと覚束ない足取りで歩いて行く。
「お前というレイオニクスの存在をテレパシーで感じた時、俺の血が、レイオニクスの闘争本能が勝手にっ……」
『もう一人のレイモン』がレイの肩を強く掴む。
その痛みにレイは顔を顰めるが、次の瞬間には『もう一人のレイモン』の体を光が包みこみ、徐々に肩を掴む手の力が弱まっていく。
「……厄介だぜ」
光が治まった頃には『もう一人のレイモン』の変身は解け、人間の状態であるレイと瓜二つ、いや、同じ姿形となっていた。
「まさかレイモンと再会するとは、皮肉な事も有るものだ」
その後ろでボソリとブラッドが呟いた言葉に、二人のレイが気づく事は無かった。