悪の帝国のテクノクラート   作:トラクシオン

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ウルサマ超楽しかった。
やっぱりジードとゼロはズッ友だょ……!


第五十七話【探され人と探し人】

ようやく暴走が治まった『もう一人のレイ』

その様子に違和感を感じたレイは、『もう一人のレイ』が着用していたシャツの襟へと手を掛ける。

そして、思い切り下へと引き下ろした。

 

「お前……」

 

突然の行動に戸惑いの様子を見せる『もう一人のレイ』の胸元は、傷も無く綺麗な物だった。

それを見たレイは確信する。

 

「やはりお前には傷が無いのか」

「傷?」

 

暴走を克服しておらず、そして傷一つ無い綺麗な胸元の『もう一人のレイ』

これらの要素が示すのは、レイがかつて経験した暴走を乗り越えるための試練を、この『もう一人のレイ』はまだ経験していないという事だ。

 

「う゛あ゛っ、う゛っ……」

 

『もう一人のレイ』の暴走を克服させる為にはどうしたら良いか。そう考えているレイの目の前で、『もう一人のレイ』の体が発光して苦しみだす。

間違い無い、先程『もう一人のヒュウガ』の身に起きたのと同じ症状だ。

 

「力を制御しろ!!」

 

そしてその症状が起きた途端に、『もう一人のレイ』は再びレイモンの姿へと変身する。

暴れだす『もう一人のレイモン』を相手にレイは必死になって止めようとするが、暴走状態の『もう一人のレイモン』は凄まじい怪力でレイを突き飛ばす。

 

「ダメだ!!この姿でいないと消滅が早まる。だが、お前がいる限り今の俺は、暴走を抑えるのがやっとだ!!」

 

必死になって暴走を抑えようとする『もう一人のレイモン』

その様子を見たレイは決意する。何としても『もう一人のレイモン』を救うのだ、と。

 

「落ち着け!!」

 

拳を握り締め『もう一人のレイモン』の前へと立ち塞がったレイは、その腹部へと思い切り拳をめり込ませる。

かつてヒュウガが傷つきながらも、必死になってレイを元に戻そうとした『あの時』のように。

 

「ハァッ……ハァッ……」

 

相当効いたのか、ヨロヨロと後ろへ下がりながら肩で息をする『もう一人のレイモン』

その目に灯る光は血のような赤色ではなく、理性を湛えた乳白色に戻っていた。

 

「お前、ウチのボスと似てるな」

 

ようやく暴走状態から回復した『もう一人のレイモン』を見て、レイも思わず笑顔を浮かべる。

これでしばらくは安心だろう、と。

 

だが、現状が厳しいのは今も変わらない。

 

「揉め事が解決したのは良いが、本題を忘れてもらっては困る」

 

今まで黙っていたブラッドが声を掛ければ、レイと『もう一人のレイモン』の顔に真剣さが戻った。

そうだ、自分達にはやらなければならない事が有るのだ。

 

「同じ顔が二つというのは奇妙なモノだが、今は何も聞かないでおこう」

 

「時間が無いからな」と言外に含ませ、ブラッドは部屋から出て行く。

それを追うように、レイと『もう一人のレイモン』も歩き出すのだった。

 

前を歩くブラッドが、睨むような目つきで今しがたのやり取りを見ていた事は、誰も知る事は無かった。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

「『頭隠して尻隠さず』とはこういう事を言うのだろうな」

「ほう、君達の星にもそういった諺が有るんだな」

 

サロメの基地内を、俺はヒュウガと取り留めの無い話をしながら歩いて行く。

レイを探している最中に、レイが落としたと思われるネオバトルナイザーを拾った俺達は、リトラが墜落した拍子に開けた崖の穴から基地内部へ潜入する事に成功した。

 

それにしても、サロメ星人は一体どういう思考でこんな基地を建造したのだろうか?

基地の建物自体には強力なバリアを掛けておきながら、ゴモラの半分程度の体重しかないリトラが墜落した程度の衝撃で大穴が開くような通路をバリアの外に造るとか。

光の国を笑えないレベルでセキュリティが雑なのでは?

 

何て思いながら歩いていた俺達に目の前に、扉が現れた。

メカゴモラのような怪獣を輸送する目的も有るのだろうその扉は高さ100メートルは有りそうな程の大きさだ。

 

「流石に簡単には入れてくれないか……」

 

扉を見上げながら苦々し気に呟くヒュウガ。

 

「ところがそうでもない」

 

そんなヒュウガを横目に見ながら、俺は懐から端末と携帯工具をを取り出す。

 

「甘く見過ぎるのも良くないが、奴らは相当に調子に乗っているようだ」

 

携帯工具の中からドライバーを取り出し、おそらくは扉の操作用であろう、扉の横に取り付けられていた機器を取り外す。

そして、端末を内部の配線や基盤へと翳した瞬間、端末から飛び出したレーザー光がそれを照らし出す。

 

「何だ?その機械は……」

「クラッキング用の機器だ。持って来ておいて良かったよ」

 

俺は端末を操作しつつ、にこやかにヒュウガへと答えた。

アンドロメダから離艦した当初は極力原作キャラとの接触を避ける為、ベリアル様を回収次第ここから逃げる予定ではあったが、

サロメ絡みでトラブルが起きる事も想定して、こうした特殊機器も持参して来たのだ。

いわゆる「こんな事もあろうかと」という奴である。

 

おかげでこうして役に立った訳だが……ちょっとヒュウガさん、そんなにドン引きしたような表情で見ないで下さい。流石の俺も傷つくのよ。

 

《コード承認、ゲート〔D-06〕を開放します》

 

数秒の後、電子音声と共に巨大な扉はゆっくりと動き始めた。

これで侵入は可能になった。後はベリアル様を探すだけだ。

 

「ここからは二手に分かれて捜索をしよう。俺の探し人とレイが同じ場所に囚われているとは限らないからね」

「そうだな、この基地はあまりにも広過ぎる、その方が良いだろう」

 

そこで俺は、ヒュウガへと『二手に分かれて探す事』を提案した。

『二人が囚われている所が別々の可能性がある以上、分かれて探した方が効率的』というのは表向きの理由。

本当は『ベリアル様とレイ、ヒュウガが接触する事を避けたい』という理由が大きいのだが。

 

「君の端末を貸してくれ……いや、変な事はしない、大丈夫だ、保証しよう」

 

先程の件のせいで渋るヒュウガからZAPの携帯端末を貸してもらい、俺の端末を操作してデータを送る。

 

「クラッキングで手に入れた基地内のマップをインストールした」

「そんな事が出来るのか!?」

 

俺が端末を返すと、ヒュウガは端末を操作してモニターにマップを出す。

目を皿のようにして眺めていたヒュウガは、しばらく眺めた後に「ううむ」と唸り、端末を懐へと仕舞った。

 

「……凄いな、あの数秒でこんな事が出来るのか」

「奴らの科学力は我が星より数世代は劣るからな」

「そんなにか!?」

 

ヒュウガが驚いたような表情で見て来る。

地球人からすれば、クシアやアケーリアスの科学は想像もつかない様な領域だろう。

 

時間があれば解説しても良いが、今はそんな暇は無い。

 

「この次元から排除される前に、救出して脱出しなければいけない、行くぞ」

「あっ、ああ、そうだな」

 

俺とヒュウガは二手に分かれ、基地内の捜索を開始した。


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