「さて、この部屋は……」
部屋の扉を操作し、自動扉をオープンする。
既にクラッキングで基地中の部屋の鍵は開く様になっている。カメラの方も工作済みだ。
これでサロメの奴らに見つかる事は無い。
が、一つだけ大きな問題が有った。
「空振りか」
部屋を捜索した俺は溜息を吐き、また次の部屋へと移動する。
大きな問題、それは基地の地図が割と大雑把なモノだったという事だ。
居住区画、製造区画、研究区画というザックリとした振り分けと、基地内部の間取りまでは分かったのだが、部屋の用途自体は全く書かれていなかった。
その為に、俺は今こうして虱潰しに基地内を捜索している。
「こんなに抜けてる癖に、よく全宇宙の制覇なんて考えたものだな」
イラつきから思わず悪口を零しつつ、俺はまた次の部屋の扉を開ける。
先程と同じ間取りの部屋、というか何も無いワンルーム。
もう見飽きる程見た光景である。
秒速で扉を閉じて隣へと移動する。
ああ、もうレイ達は脱出した頃だろうか?
ひょっとしたら既にへロディアと対面して、あの無駄にイラつく高笑いを浴びているかもしれない。
そんな事を思いながら次の部屋の扉を開けた時、俺は思わず「ほう?」と呟きながら部屋の中心を凝視した。
「これは……」
間取り自体は先程までの部屋と変わらない。
だが、その部屋の中央には先程の部屋には無かった『ある物』が有った。
それは高さ一メートル程の台座の上に乗せられた……
「ネオバトルナイザーだと?」
黄金色を基調として、青いラインが入ったカラーリング。
上部の二本の角のような出っ張りに、中央を走る分割線。
台座の上部に鎮座していたのは、間違い無くネオバトルナイザーだった。
「何故こんな所に……」
そう考えた所で、俺はある事に気づく。
確か原作では『もう一人のレイ』はサロメ星人にバトルナイザーを奪われ、そのデータをメカゴモラ開発に利用されてしまった。
そして『もう一人のレイ』は結局、最後までバトルナイザーを取り戻す事が出来ず、戦うレイを
という事は、このネオバトルナイザーは……
「これは『もう一人のレイ』のバトルナイザーか」
俺はネオバトルナイザーを手に取る。
プラスチックの玩具とは違い、丈夫な合金で造られたその本体は、軽量ではあるが金属質な重量感と冷たさを掌へと伝えて来る。
かつてバトルナイザーを作った時は、まさか再びこうして手に取れる機会が来るとは思わなかっただけに、実に感慨深い。
今の状況は全く本意ではなかったが、自分の製造した物がこうして活用されているのを見る事が出来ただけで『悪くない』と思ってしまった。
「運命とやらは、時に面白味を感じる程に数奇だな……」
そう自嘲しながら、俺は苦笑を浮かべる。
思えば星を出る時は、こんな事に巻き込まれる事は想像もしていなかった。
神様は、罪を犯したクシア人に対してとことん冷たいようだ。
「今はそんな事を考えている場合では無いな」
頭に浮かんだ暗い考えを消し、俺は懐へとネオバトルナイザーをしまう。
このままこうして敵の手に渡ったままなのも癪である。
俺はベリアル様を探すために、再び部屋の外へと出るのだった。
―――――――――――――――
「おい、傷って何だ?」
「えっ?」
基地内を探索していた『もう一人のレイモン』が突然レイへと話しかける。
先程の暴走の時に、レイが言っていた言葉の真意が気になったのだろう。
「私も知りたいな、再び暴走状態になるリスクを克服出来る手段が有るのなら教えて欲しい」
「いつ敵が襲ってくるかもしれないこの状況で聞くのは酷かもしれないが」と付け足しつつも、ブラッドがレイへと説明するように投げかける。
確かに、いつ暴走するか分からない『もう一人のレイモン』と行動するのはリスクが高い。
レイは頷き、『もう一人のレイモン』への福音になればと思いながら、ジャケットのファスナーを外してインナーシャツの胸元を寛げた。
「この傷だ」
それを見た『もう一人のレイモン』は思わず息を呑む。
インナーシャツが下ろされた向こうに有ったのは、胸元にクッキリと浮かんだケロイド状の傷であった。
皮膚は引きつれ、所々赤く変色している様は実に痛々しい。
「何だコレ……」
「何かのマークか?」
後ろでその様子を見守っていたブラッドも思わず胸元へと顔を寄せ、その傷を凝視する。
その傷は炎で焼かれた様な無秩序な物ではなく、まるで焼き印のようにクッキリと紋様を形作っている。
「俺とボスと、仲間達との友情の
レイは目を瞑り、思い出す。
暴走した自分を見捨てず、必死になって引き戻してくれた仲間達の事を。
第三者から見れば醜い傷に過ぎないかもしれないが、レイにとってはかけがえの無い宝物だ。
「こいつが有る限り、俺は二度とレイブラッドの言いなりにはならない、絶対にな」
「そうか……お前は暴走を克服したのか」
『もう一人のレイモン』が傷に向かって差し出してきた手を、レイはソッと掴んで胸元へと引き寄せ、傷に触れさせる。
自分の想いが伝わって欲しい、仲間との絆を思い出して欲しい、そうありったけの
「俺一人の力じゃない、仲間と、そしてウルトラマン達が俺を信じてくれたからだ」
「ウルトラマン……」
その想いが伝わったのかは分からないが、思うところが有ったのだろう。
胸の傷から手を離した『もう一人のレイモン』は、その掌をジッと見つめながら考え込んでいた。
そこに茶々を入れる者が現れるまでは。
「これが光の者が言う絆の力、か……厄介だな」
「何?」
ブラッドがボソリ零した一言に、二人のレイは思わずブラッドを見る。
その言い方では、ブラッドはまるで……
《コツン……コツン……》
「っ!?誰か来る!!」
固まった空気を突き崩すように、突如として通路の奥から聞こえて来る足音。
三人はそれぞれ物陰に隠れ、様子を窺う。
《コツン……コツン……》
ゆっくりと、しかし着実にコチラへと近づいて来る足音。
「俺に任せてくれ、万が一の時は援護を頼む」
「分かった」
「ああ」
『もう一人のレイモン』とブラッドへ話しかけた後、レイは何故か拘束時に没収されなかったトライガンナーを腰のホルスターから取り出して構える。
敵はどうやら少々抜けた所があるらしいなと思いつつ、足音が最接近したタイミングで、勢いよく物陰から飛び出した。
「そこを動くな!!」
レイの声に、銃を突き付けられた足音の主は一瞬ビクリと身を震わせる。
そしてゆっくりと振り返り、ある一言をレイへと投げかけた。
「……このシチュエーションは二度目だな」
その姿を見て、レイは構えていたトライガンナーを下ろした。
足音の主、その正体は先程基地の外で別れた筈の……
「パルデスさん!?」
「覚えていてくれて嬉しいよ」
目の前に立つ黒い軍服の男――パルデス・ヴィータは、薄く浮かべた笑顔をレイへと向けた。