「すまない、敵かと思ったんだ」
「構わないよ。ここは敵地だ、警戒するに越した事は無いからね」
トライガンナーをホルスターに戻すと、レイは銃を向けた事を詫びる。
それに対してパルデスは、変わらぬ笑顔を向けながら謝罪を受け入れた。
ホッと胸を撫で下ろしたレイは、背後へと振り返り物陰へと隠れた仲間へと呼びかける。
「味方だ、出て来ても良いぞ!!」
呼びかけて数秒の後、『もう一人のレイモン』とブラッドが物陰から顔を出す。
「基地内で出会った仲間だ。別次元の俺と、もう一人はブラッドさん。彼もこの基地に囚われて……」
同行者の紹介をしていたレイが、ふとパルデスの方を振り返り、言葉を止める。
様子がおかしい、先程の柔和な笑顔は鳴りを潜め、引き攣った様な表情になったまま固まっている。
どうしたのか、レイが肩を揺すろうと手を伸ばした時だった。
「迎えに来てくれたのか、我が友よ!!」
突如として後ろからやって来たブラッドが、パルデスへと抱擁する。
パルデスは驚いた様子でビクリと大きく震えたが、ブラッドの成すがままになっている。
「何だ?知り合いなのか?」
大の大人、それも成人男性が抱擁を交わす光景を訝し気に見ている『もう一人のレイモン』
その光景を見ていたレイモンは、パルデスと初めて会った時に言っていた「ある事」を思い出す。
「ひょっとして、探し人ってブラッドの事だったのか?」
確か双方の誤解を解く過程で「人探しをしている」とパルデスは言っていた。
反応を見る限り、どうやらパルデスの探し人はブラッドだったようだ。
「……ああ、そうだ」
ブラッドの腕から抜け出たパルデスが、少々疲れた面持ちでレイの言葉を肯定する。
レイはその言葉を聞いて、どこかホッとしたような笑顔を浮かべた。
―――――――――――――――
正直言って、心底ビビった。
基地内を捜索していたらレイと遭遇したのは想定外だった。
ここでベリアル様を見つけ出してフェードアウトする計画は完全に破綻した。
それだけではない。
「迎えに来てくれたのか、我が友よ!!」
そう言って満面の笑みを浮かべて俺を抱擁して来たのは、紛れもなく逸れた筈のベリアル様である。
人はあまりにも驚くと喋る事もままならないとは言うが、その時の俺は正にそんな状態であった。
動く事も出来ずに大人しく抱擁を受けていた俺だが、不意に鋭い頭痛と共に、まるで激流の如く脳内に情報が流れ込んで来る。
突然の事に動揺していた俺だが、脳をフル稼働させて情報を整理していく内に、この奇妙な状況を理解する事が出来た。
《まさか貴様が直々に来てくれるとは思わなかったぞ、パルデス・ヴィータ》
脳内に流れ込んで来るテレパシーに、俺はなるべく表情に出さないように努めつつ(そうしなければ間違い無く人目には晒せない顔になっていただろう)同じくテレパシーで返す。
《私も予想外だ。まさか貴方が表に出て来ているとはな、『レイブラッド』》
ベリアル様の器となっている男の肉体で、レイの死角になる位置から醜悪な笑みを向けて来るレイブラッド。
色々と言いたい事は有るが、脳内に流し込んでくれた情報により、ベリアル様と逸れてから現在までの状況が粗方理解出来たのは有難い。
その態度に辟易としたのも事実ではあるが、この場はため息一つで
合流後、基地の探索の為に通路を歩きながら、改めて脳内に送られた情報を再確認する。
どうやらベリアル様は、チェイニーに墜落した後にサロメ星人に攫われ、この基地に捕縛されたようだ。
ウルトラマンゼロとの戦いで大ダメージを受けてしまったベリアル様は今現在昏睡状態であり、その為に普段はベリアル様の精神の奥底に潜んでいるレイブラッドが表に出て活動している。
捕縛されていた部屋から難無く脱出したレイブラッドは、偶然にも別次元からやって来た『もう一人のレイ』を見つけ、とりあえずの戦力確保を目論んで開放。
その後は先程のメカゴモラとの戦闘で意識を失い、同じく捕縛されたこちら側の次元のレイを『もう一人のレイ』と共に見つけ開放。
『ブラッド』という偽名を名乗り、二人のレイと共に同行している。
ちなみに先程のハグは、膨大な情報をやり取りする為には直接肉体を接触させる必要が有った為に、仕方なく及んだ奇行だったようだ。
当のレイブラッドは俺の反応を見て愉快そうにしているが。
……根性悪のクソジジイめ。
「良かったのか?パルデスさんと合流出来たのなら、心置きなく脱出できただろう?」
「いや、若人がこうして宇宙の危機に立ち向かっているんだ、放ってはおけないよ」
「……ありがとう、俺を助けてくれたアンタが同行してくれるなら心強い」
それにしても、まるで過去の確執など無かったかのように、目の前でにこやかに二人のレイと会話をするレイブラッドの腹芸には恐れ入る。
こういう所は『流石は数万年間も全宇宙を支配した究極生命体』とでも言うべきか。
《光の者は相変わらず甘いな、学習しないのか》
まあ、テレパシーでは散々な悪態を吐いているが。
俺も表面上は無表情を貫きつつ、三人の背後を歩く。
《その甘さが、光の者の言う『絆』とやらを作る秘訣なのでは?》
《ほう、貴様が『絆』を語るか、惑星チシタリアの数十億もの『絆』を断った貴様が》
相変わらず仲睦まじく喋りながら、レイブラッドは此方に毒の矛先を向けて来る。
まあそれは事実ではあるが、俺が気に病んでいるとでも思ったか?
奴からすればそう見えるのかもしれないが……
《我が故郷の為にやった事だ。これから更に数百、数千億の命が失われようとも、私の目的の前には些末事に過ぎないよ》
そうテレパシーを送った途端、前を歩いていたレイブラッドが「ブフッ!!」と噴き出した。
突然の出来事に「どうした?」と尋ねるレイに、相変わらずの笑顔で「何でもない」と返す。
その様子を訝し気に見ていた俺の脳内に、レイブラッドのテレパシーが響く。
《お前もこれで一人前の
……ああ、そういう事か。
レイブラッドは俺が覇道を歩み始めたのだと誤解しているのだろう。
まあ、クシア時代は人々を救う為に奔走してたから、レイブラッドからすれば『善良な者が巨悪へと堕ちた』という事実が可笑しいのかもしれない。
《そう思うのなら、それで構わない》
何とでも言うがいい、何とでも思うがいい、私は私のやり方でクシアを復興させる。
それにチシタリアの住人は
例え
改めてクシア復興の決意を固める俺を見て、意味深な表情を浮かべるレイブラッド。
その時の俺は気付いていなかった。俺が奴の思った通り、いや、それ以上の『悪』になっている事など。
四人で通路を歩いていると、広い場所に出た。
その部屋はドーム状になっており、壁面に巨大なカプセル状の機器が並んでいる。
そして天井近くの壁面には、カメラアイから光が消え、だらりと脱力した状態のダークロプスゼロが磔にされていた。