――ゾクリ――
地を這うようなその声に、背筋を悪寒が走る。
周囲を見れば同じ感覚を感じたのか、その場にいた全員が引き攣った様な表情で固まっていた。
……ただ一人、その声を発した人物を除けば。
「面白い冗談だ、この程度で支配者を気取るとは」
ユラリと顔を上げて、ヘロディアへと笑みを向けるブラッド。
だが、その目は全く笑っていない。
コレは少々ヤバいかもしれない。
「ふんっ、何よ!!アナタ程度が私を止められるとでも思っているの!?」
ヘロディアさん、部下の男が縮みあがる中で虚勢を張れるだけの度胸は認めてあげるけれども、今の言葉のチョイスは少々マズいような。
案の定、ブラッドの顔からスーッと潮が引く様に表情が消えていく。
「ほう、ならば真の支配者とはどういうモノか、貴様に見せてやろう」
「……ブラッド、今ココで力を使うのは推奨しかねる」
マズいな、このままでは大幅に本編から外れてしまう。そうなれば今後の展開が全く予想できなくなる。
俺はブラッドを嗜めて矛を収めさせようとするが、プライドを刺激されたからか、ブラッドは聞く耳を持たない。
不意に、ブラッドが右手を上へと掲げる。その手に収まっていた物は……
「バトルナイザーだと!?」
驚愕したレイの声が鼓膜に突き刺さる。
そう、ブラッドの手にはレイの物と同様のネオバトルナイザーが収まっていた。
「あれは俺のバトルナイザーだ!!」
何故ブラッドがそれを持っているのか。
「返せ!!」と叫びだす『もう一人のレイモン』の傍らで、俺は慌てて懐を探り理解した。
先程回収したネオバトルナイザーが懐から消えている。
一体いつの間に、と思いながらブラッドへと視線を送ると、返事の代わりに歯をむき出しにして笑みを浮かべる。
「この肉体の持ち主は、どうやら相当手癖が悪かったようでな。利用させてもらった」
さっきの抱擁の時か……
ブラッドの言葉に、俺は思わず舌打ちをする。
確かベリアル様が主導権を奪い、現在レイブラッドが使用している肉体は、ニュークシアを攻めて来た宇宙海賊の物だった筈。
そのスキルを使えば、これぐらいのスリは問題無く行えるという事か。
「さて、こんな生温い物ではない、
その言葉と共に、ブラッドの全身から漆黒の闇が溢れる。
闇は空中で渦を巻き、やがて一つの形へと固まっていった。
ヒューマノイド型の体に、鍬形へと分かれた特徴的な頭部。
ウルトラマンと同じ乳白色でありながら、怜悧な悪意に染まった双眸が、此方を捉える。
その姿を見た二人のレイは驚愕した。
忘れやしない。かつて私利私欲の為に宇宙を混乱に陥れた、自らの
「レイブラッド!!」
「まさか、生きていたのか!?」
驚きの声を上げる二人のレイの後ろで、俺は思わず頭を抱える。
完全に予想外だ、もう取り返しがつかないかもしれない。
「レイブラッドだと!?」
「数万年もの間、宇宙を支配したと言われているあの!?」
二人のレイへと銃口を向けていたヘロディアの部下達も、その名を聞いて思わず恐れ戦く。
どうやらサロメ星にも、かつてのレイブラッドの恐ろしさは伝わっているらしい。
ただ流石と言うべきか、それとも司令官としての矜持か、ヘロディアだけは額に冷汗を浮かばせながらも、しっかりとレイブラッドを見据えていた。
「イラテ、ガナエス、撃ちなさい!!」
鋭く飛んだヘロディアの声に、ハッと我に返ったのか銃の引き金へと指をかけるイラテとガナエス。
マズいな、ここで撃たれたらベリアル様もどうなるか。
俺は無言でコスモドラグーンを取り出し、今まさに発砲しようとした二人の足元へと一発を打ち込んだ。
《ピシュゥン!!》
「ぐあぁぁぁっ!?」
レイ達が傍にいる為に多少は出力を絞ったものの、コスモドラグーンの光弾が地面へと接触した瞬間、凄まじい閃光と爆風が周囲へと撒き散らされる。
俺は多少よろめいたぐらいで、二人のレイは地面を転がる事になったものの、それ程の怪我は負っていない。
ただ、流石に着弾地点の近くに居たイラテとガナエスは無事では済まず、ドーム状の広い空間をまるでピンポン玉のように弾き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。
そのまま床へと落下した二人は唸り声を上げているから生きてはいるだろうが、おそらく骨は数本逝っているだろうし、行動する事は出来ないだろう。
「お前っ!!」
その光景を見たヘロディアが物凄い形相で此方を睨んで来るが、俺はそれを受け流す。こちらの方は別に放っておいても何も出来ないだろう。
問題は、二人のレイの方だ。
「一体どういう事だ、パルデス!!」
「お前、レイブラッドの仲間だったのか!?」
体勢を立て直し、ツカツカと此方へ詰め寄って来る二人のレイ。
対する俺は、はてさてどう話せば良いのか……と再び悩む事になった。
が、その悩みは短時間で解消される事になる……
「そうだな、パルデスは私の協力者であると同時に、お前達のもう一人の生みの親でもある」
「は?」
レイブラッドの言葉に『意味が分からない』とでも言うかのように呆けた顔を見せる二人のレイ。
だが、俺にはレイブラッドが何を言わんとしているか分かってしまった。
「レイモンよ、当時精神体であった私がどうやってバトルナイザーなどという物を用意できたと思う?」
「どうやってって……まさか!!」
二人のレイの視線が此方を向き、俺はその眼光の強さに思わず目を逸らしてしまう。
これは終わったかもしれんな。
「そうだ、ここに居るパルデス・ヴィータこそが、全てのバトルナイザーの生みの親なのだ」
「嘘…だろ…?」
ああ、本当にレイブラッドめ余計な事を。
まさか「宝生○夢ゥ!」みたいな事をここでやって来るとは。
あまりの怒りに思わずレイブラッドを睨むが、奴は飄々とした態度で笑みを浮かべるだけだ。
「本当の事だ。お前達が持っているバトルナイザーも、そしてウルトラマンベリアルが持っていたギガバトルナイザーも、全て奴の作品だ」
更なる爆弾発言で固まる周囲を尻目に、レイブラッドは『もう一人のレイモン』のバトルナイザーを見せつけるように此方へと翳す。
「おかげで、私の完全復活も叶うという訳だ」
次の瞬間、『もう一人のレイモン』を縛るかのように、漆黒の闇が覆った。