基地上部に浮き上がった深紅の巨人――ウルトラマンタロウは、直立の姿勢のまま静かにその場に浮遊している。
何故、ウルトラマンタロウがココに居るのか、原作では影も形も登場しなかったはずだ。
俺は突然の事態に混乱しながらも、その体を観察するうちに、ある事に気付いた。
膝関節を保護するようなプロテクター、腹部に巻かれたベルトと、ネジ止めされたハッチ。
まさかこれは……
『聞こえるかしら?サロメに逆らう愚か者達?』
そんな俺の思考を遮るように、突如として響き渡った声。
同時に、基地上空の空が揺らぎ、しばらくノイズが走った後に空中に巨大な上半身――ヘロディアの姿が現れる。
『私の計画を邪魔してくれたお礼に、私の
ホログラムによって現れたヘロディアは、大袈裟な身振りで目の前に浮かぶウルトラマンタロウを指さす。
その顔は先程の怒りに満ちた表情とは違い、これから起こるだろう事を想像しているのか、愉悦に満ちた笑みを浮かべている。
『サロメ史上最高傑作の侵略用ロボット兵器、【SR-06 ニセウルトラマンタロウ】よ!!』
やはり、サロメのロボットだったか。それにしてもニセウルトラマンタロウとは……
確か設定ではウルトラホーンの解析が上手くいかずに作られなかった筈。
考えられる可能性としては、ひょっとしたら原作にも存在自体はしていたものの、原作のヘロディアはレイとの邂逅の直後にダークロプスゼロによって瀕死の重傷を負わされていた為に、起動できなかったという事なのかもしれない。
『サロメの科学力を以てしても、ウルトラホーンの再現は出来なかった。けど……』
ヘロディアがニセウルトラマンタロウを指していた指を此方へと向ける。
そのジェスチャーから指示を受け取ったのか、ニセウルトラマンタロウは無言で地上へと着地し、ゆっくりと俺達を見回した後に、本物のタロウみたいに姿勢を低くし、戦闘の構えを見せた。
『代わりに最高出力は、他のニセウルトラ兄弟とは比べ物にならないわ』
「タァァァァァッ!!」
瞬間、脱兎の如くニセウルトラマンタロウがこちらへと駆けだして来た。
ネローゴモラとメカゴモラは遠くで戦闘を続行している。話をする為とはいえ、この二体を遠くへ追いやったのは失敗だったか。
レイのゴモラは……ネローゴモラとの戦闘でグロッキー状態だから使い物にならないな。
俺がやるしかないか。
「ダークロプスゼロ、奴を止めろ!!」
「了解!!」
俺の指示を聞いたダークロプスは、ニセウルトラマンタロウの進路を遮るように飛び出す。
姿勢を低くして、脚を地面に擦り付け、力強く構えたダークロプスゼロに、猛進するニセウルトラマンタロウが突っ込んだ。
《ドガッ!!》
鈍く巨大な衝突音が響き、両者の腕がガッツリと組み合うと、猛烈な力で互いを押しのけようと全力で踏ん張る。
暫くは拮抗していたが、ニセウルトラマンタロウも中々に侮れない性能だな。
「ダークロプスゼロチェンジャーだ」
事態を打開する為に、俺はニセウルトラマンタロウへのハッキングを指示する。
ダークロプスゼロはしばらく押し合いを続けた後、不意に力を抜いて背後へと飛びのいた。
「タァッ!?」
突然の事に対応しきれず、たたらを踏んで転倒しそうになるニセウルトラマンタロウ。
どうやら姿勢制御に難ありのようだな。
そんな事を思っている内に、ダークロプスゼロの手から発した光が、ニセウルトラマンタロウへと直撃した。
これでニセウルトラマンタロウはこちらの指揮下に下るだろう。この時の俺はそう思っていた。だが……
「タァァァッ!!」
「ぐうっ!?」
ニセウルトラマンタロウが一気にダークロプスゼロとの距離を詰め、その顔面にアッパーを決めた。
まさかの反撃に、吹き飛ばされるダークロプスゼロを呆然と見上げながら、俺は目の前で起きた事態に再び考えを巡らせる。
何故だ?ダークロプスゼロチェンジャーは正常に稼働していたはず。
考えられる可能性が有るとすれば……
『無駄よ、このニセウルトラマンタロウのAIは完全に遮蔽されているわ』
俺達の様子を見ていたのか、再び基地の方から得意げなヘロディアの声が響く。
やはりそうか。
AIそのものを完全に遮蔽して、外部からのアクセスをシャットアウトしているのだ。
俺もかつてサルヴァラゴンのAIに同様の処置を施し、レイブラッドの権能であるレイオニクスの力を借りて制御していた。
だが、このニセウルトラマンタロウにはそのような特殊な機構は無さそうだ。
『外部からのコマンドは一切受け付けないわ、起動時に与えられた命令を果たすまでは絶対に止まらない』
そういう事か。
このニセウルトラマンタロウは起動時に指令を入力し、指令完了まで延々と行動し続ける。
ヘロディアも実に厄介な物を作ってくれたものだ。
『私が下した命令は《この場に居る敵全員の抹殺》よ。精々楽しむ事ね』
その言葉の後、一頻り高笑いを響かせた後に、ヘロディアの声はブチリと途切れた。
おそらくは高みの見物としゃれこむ気だろう。
「タァッ、タァァッ!!」
「ジェァッ、シェァァッ!!」
ドカッ!!バキッ!!と凄まじい音を響かせながら、ニセウルトラマンタロウとダークロプスゼロは格闘戦を続けている。
ニセウルトラマンタロウが繰り出した鋭い右ストレートを、火花を散らせながら掠らせたダークロプスゼロが脇でガッチリと掴み、そのまま背負い投げの要領でニセウルトラマンタロウの巨体を投げ飛ばす。
だが、ニセウルトラマンタロウが背中を打ちつける直前で、肩をグルリと曲げる事でそのまま腹側を地面と相対させ、地響きと共に着地した。
「タァッ」
無理な動きでニセウルトラマンタロウの右腕はあり得ない方向へと曲がってしまっていたが、徐に左腕で掴んだかと思うと、ゴキリという音と共に正常な位置に戻る。
流石はロボットと言うべきか、普通の生物では絶対に出来ないような行動も出来るようだ。
「全く面倒な事を……」
激闘を続ける二体のロボットを見ながら、俺は目を細める。
ダークロプスゼロのスペックは中々の物ではあるものの、ニセウルトラマンタロウと比べると些か劣るようで、徐々にではあるものの押されてきている。
仕方ないな、あまり使いたくない手ではあるが……
「レイブラッド、一時休戦としないか?」
「ほう?」
俺がそう切り出せば、レイブラッドが興味深げに此方を見て来る。
正直言って本当に気が進まないが、背に腹は代えられないだろう。
「奴を倒さなければ、どうともならないだろう」
「ふむ……」
「安心しろ、戦力は提供する……レイ!!」
名前を呼びながらそちらの方を振り向けば、まだ先程の戦いのダメージが抜け切れていないのか、片膝立ちで肩で息をするレイの姿が有った。
呼び声に反応したレイが此方へと注意を向けたのを確認し、俺はレイへと指示を出す。
「回復してからでもいい、あの偽物を止めるぞ」
「……ああ!!」
レイの返事を聞いた俺は一つ頷き、通信機のスイッチを入れた。
もう敵に見つかっている以上、今更通信を制限する事も無いだろう。
「アナライザー、聞こえるか?」