俺が自我と呼ばれるような物を獲得したのはいつ頃だったのだろうか?
周りを囲うケージの中、いくつもの配線が繋がっている中で俺は周囲を見渡していた。
訳の分からぬままに唯一の情報源であったカメラを動かせば、目の前に立っているのは一人の人間。
AIの内部にプリインストールされた情報によれば、この人間こそが創造主――パルデス・ヴィータ博士――らしい。
「機能に不具合無し、計画に使用可能だな」
そう言って笑みを浮かべるパルデス博士。
俺の脳裏に様々な情報が浮かんでは、ストレージへと消えていく。
まるで赤ん坊ののように
そうしている内に、俺は生命体が『死』という物を恐れていると知った。
『死』とはつまり生命活動の終焉であり、その活動期間に差はあれど、全ての生命が等しく迎える生理現象。
なのに何故か、生命は『死』を極度に恐れている。
そこから学びを深めていく内に、次第に俺は生命の事を『愚か』だと思うようになった。
『死』を回避する為に、ある者は他人を殺め、またある者は『永遠』を求めて終わりの無い苦悶に苦しむ。
そんな姿がどうしようもなく、愚かで醜い物と思うようになったのだ。
それと同時に、機械の体を持つ己を誇らしく思うようにもなった。
死を恐れず、痛みを感じる事も無く、メンテナンスさえ怠らなければ半永久的に活動が可能。
あらゆる面で、機械の存在である俺は生命体よりも優れていると思ったし、もしかすれば生命すら超越する存在になれるかもしれない。
そんな事を、俺は思っていたのだ。
今、目の前で戦う地球人の存在を知るまでは。
―――――――――――――――
「俺は命などという儚い物に縋り続ける生命を見下していた。だが……」
ダークロプスゼロは、戦いを続けるレイをじっと見つめる。
「あのレイオニクスを見ていると、別の結論が頭脳を駆け巡る」
何かを渇望するかのようなその様子に、俺は顎に手を当て考える。
そして出て来た一つの答えを、俺は口にした。
「……ひょっとして羨んでいるのか?」
「羨む?どういう事だマスター」
不思議そうに此方へと視線を向けて来るダークロプスゼロに、俺は感心にも似た感情を覚えた。
まさかここまでAIが
予想外ではあるが、ここは今後のAIの研究の為に答えてやるべきだろう。
俺は「あくまで個人的な考えだが」と前置きして持論を語る。
「生命は生きる為に活動する、その末に起こるのが進化だ」
そう、遍く宇宙に生きる生命の歴史は、『生きる』という意思によって紡がれてきたものだ。
ウルトラの星の民はプラズマスパークを造った。
地球人は怪獣や侵略者と戦った。
自らを生かす為、愛する者を守る為、子供達の未来を繋ぐ為、時には不可能をも可能にするその力。
それは命に限りが有り、儚いからこそ生まれて来たものだ。
「勿論、知的生命の中にも、お前のような『永遠』の可能性を求める物は居る。だがその先に有るのは『生きる』という目的を無くした停滞と破滅しか無い抜け殻だ」
俺は知っている、永遠を求める先に有るのはロクな物ではないと。
脳裏に浮かぶのは求め、手に入れようとしたが故に滅びて行った星々。
ある者は肉体を機械に置き換えて永遠を生きようとした。
ある者は肉体を捨てて高次元で交じり合った一つの
ある者は……自らの肉体を『記憶』にした。
俺はチラリと横目でアンドロメダを見上げる。
命を尊ぶ考えとは矛盾しているかもしれないが、コレは俺が選んだ道でもある。
俺自身が永遠を求める事は、未来永劫無いが。
「お前はAIであるが故に手に入れる事の出来ない、命の輝きを羨んでいる」
「命の、輝き……」
俺の言葉を聞いたダークロプスゼロが、改めてレイの方を見つめる。
その目には、先程よりも明確となった『何か』が有った。
この時点で、俺は廃棄予定だったこのダークロプスゼロを持ち帰る事に決めた。
命の尊さを知ったAI……ギルバリスの失敗を知る俺からすれば、流石にここまで成長した物を失うのは惜しい。
『さて、この場をどう切り抜けるか』と考えていた俺に、横やりが入る。
「下らん」
不快さを隠しもしないその声音を聞いて、俺は無感情にその声の主の方を向く。
まあ、肉体を失い魂だけの存在になっても生に執着するコイツが、俺の持論を理解してくれるとは最初から思ってはいなかったが。
「あくまで個人的な考えだ、他者へと強要しようとは思っていないよ、レイブラッド」
変わらない表情から、苛立ちの気配を発するレイブラッド。
それにしても、今の俺の持論にそんなに不快にさせる要素は有ったか?
何だか普段の飄々とした態度からは信じられない余裕の無さを感じる。
「命の輝きなどとは笑止、貴様もレイに……ウルトラ戦士に感化されでもしたか」
「やけに否定するではないか?俺の言葉を侮辱として受け取ったのか、それとも……」
俺は一呼吸置いて、笑いながらその言葉を口にする。
「貴方も、本当は『永遠』の限界に気付いていたのか」
半ばジョークのつもりで言い放った瞬間、バッと翳されたレイブラッドの手から光弾が発射される。
その光弾は俺の方へと真っ直ぐ飛んで来て、当たるかと思った瞬間、俺の身を守る為に振り下ろされたダークロプスゼロの掌によって阻まれ消滅した。
「怪我は無いか?マスター」
「ああ、掠り傷一つ無い」
俺が返事すれば、ダークロプスゼロは静かにその手を退ける。
その向こうには手を翳したまま肩で息をするレイブラッドの姿が。
「驚いたな、あれ程復活に拘っていた貴方が、永遠を否定しようとは……」
驚きを隠せない俺だが、よくよく考えてみれば、これまでのレイブラッドの行動には、それを感づかせるだけの要素が割とあった。
まず『自らの肉体となる者を育てる』というお題目が有ったとはいえ、全宇宙に自らの種をばら撒いて子を創り、ギャラクシークライシスを引き起こし、レイオニクスバトルという物を開いたこと自体、今となってはあまり納得が出来ない。
必ずレイオニクスの育成に成功するのかと言うと未知数であるし、その上、育成に成功したとしても、自らの考えに従わず離反されるリスクも抱えている。
現に、目の前で戦うレイが離反した事によって、レイブラッドが描いた当初の計画は失敗しているのだ。
なのにそのリスクを飲んでまで、自らの血を分ける者を曲がりなりにも育てようとしたのは、レイオニクスという存在を未来へと繋いで行く事や、自らを超える後継者の誕生に、無意識ながらも期待していたのではないか?
そもそもギガバトルナイザーが有るのだから、本当に復活だけが目的なら、適当な駒を操って儀式を完遂させる事で、この世への受肉も可能であった筈。
「貴方もまた、未来を信じる者であったとはな」
俺の言葉に、レイブラッドは俯いたまま答えない。
微妙な沈黙が続き、ゴモラとニセウルトラマンタロウが殴り合う音だけが響く。
張り詰めた空気、このままでは埒が明かないと、ダークロプスゼロとメカゴモラへ戦いへの加勢を指示しようとしたその時であった。
《ピシリ》
何かが割れる音が響き、ハッと俺が上を見上げれば、空に一筋のヒビが入っていた。